第1章 第5話 「目的地」

「……ここです。」

村瀬が差し出したケータイには、山間の古い砦跡が記されていた。


「“烈が最後にいた場所”だと、情報屋が言っていました。」

透夜は思わず顔をしかめた。

「遠い……っていうか、その情報屋って何者だよ。都会にいたからって、何でも知りすぎてないか?」

村瀬は少し言いにくそうに言葉を続けた。

「能力者が一人、関わっているみたいなんですが……かなり堅物らしくて。」


「仲間には、ならなさそうってわけか。」


「ええ。ですが、情報の正確さは確かだと思います。」


透夜は溜息をつく。

「まあいい。行くしかねぇな……って、どうやって?あんな山奥、飛行機でも無理だろ。空港も35km離れてるし、登山道もない。」


「行くしかないんじゃないんですか?こんなのであきらめるほどの覚悟で館を飛び出たんですか?」


「……うっ!」

返す言葉をなくした透夜は、しぶしぶと立ち上がった。

「わかったよ。空港に行こう。」


フライト中村瀬がこんなことを言い出した。

「なんかわかりませんが、この飛行機異様ですね。話し声が全く聞こえない...みんな疲れてるんでしょうか...」


「んなわけ...」

松田は嘲笑ったように言いかけて、そこで言葉を止めた。


……確かに、おかしい。

前方からも後方からも、まるで人が乗っていないかのように、沈黙が支配していた。

誰かのくしゃみも、紙袋を開ける音すらしない。


「……耳、詰まったとかじゃねえよな?」

冗談めかして言ったが、自分の声だけがやけに響くのが不気味だった。


村瀬が窓の外を見ながらぽつりとつぶやく。

「機内気圧の問題なら、他の乗客もざわつくはずです……でも、皆さん、まるで……」


松田も客席を振り返った。

乗客たちは座ったまま、顔を伏せて眠っているようにも見えた。

いや、微動だにしていなかった。


「……なんだ、これ。」


背筋に冷たい汗が流れた。

機内の温度が変わったわけでもない。

それでも、寒気のようなものが、じわりと松田の背中を這い上がってくる。


そしてそのときだった。

コク……コク……

かすかな音が、座席の間から聞こえた。

誰かが……いや、何かが、通路を這っていた。

「村瀬、身構えろ。こいつは……じゃねぇ。」









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