第1章 第4話 「村瀬(グラヴィティ)」
松田は冷静に考えていた。
このままあいつ――神野烈――と戦ったところで勝てるわけがない。
そして、父のもとに戻ったところでどうせこう言われるのだろう。
「お前には才能がない」
昨日、父に烈を倒すために旅に出たいと話しかけた。
しかし父は激怒した。
「お前に倒せるとでも思っとるのか!
彼はお前の兄のような存在なんだぞ!
兄を殺すなどと言わず、経済学の勉強でもしていろ!」
透夜はため息をつき、つぶやいた。
「倒せないって言った上で、勉強しろか……。冗談かと思ったぜ。」
そのとき、携帯がけたたましく鳴り響いた。
「……村瀬か。どうせ“戻って来い”って怒鳴られるんだろ。」
そう思った透夜だったが、電話口の村瀬の声は震えていた。
「坊ちゃん……! 当主が――お父上が、襲撃を受けました!」
「は? ふざけんな、村瀬……冗談だろ!?」
「冗談じゃありません! 犯人は……神野烈の可能性が高いです!」
透夜の全身から血の気が引いた。
「冗談はよせ! そんなの冗談にもならねぇ!」
「今どこにいるんです!? すぐに向かいます!」
「……神の川だ!」
透夜は叫んだ。
それは悲しみと怒りが混じった声だった。
⸻
神の川(かみのかわ)――
大日島の東部を南北に流れる巨大な川。
古くは「エナジーの始まりの地」と呼ばれ、
地中を巡る魔力が最も濃く流れ出す“聖域”とされていた。
松田家もかつてこの川のほとりに屋敷を構えており、
透夜にとっては“父と最後に語り合った場所”でもあった。
⸻
数日後。
村瀬が神の川の岸辺に姿を現した。
その表情は険しく、しかしどこか覚悟を秘めていた。
「坊ちゃん……覚悟は、できてますか。」
透夜はうなずく。
「お前の力を……今、見せてくれ。」
村瀬の能力――《グラヴィティ・エナジー》。
物体や人の重力を自在に操作する力。
普段は松田家の命令で封印していたが、
今、その制限は意味をなさなくなった。
村瀬が手をかざすと、岩がふわりと浮き上がり、
次の瞬間、地面に叩きつけられて粉々に砕けた。
「……やはり、すげぇな。」
透夜の胸に、一筋の希望が灯る。
父の死の真相を暴き、烈を倒す――そのための光だ。
⸻
だが同時に、烈の力もまた進化していた。
彼の《原動力(ドライブエナジー)》は
火・水・風・電気を操る万能能力だったが、
“西の倉”で取り込んだ膨大なエナジーにより、
新たな力――**時を止める《ワールド・エナジー》**を得ていた。
「ただでさえツエェのに……今度は時まで止めんのかよ。」
透夜は歯を食いしばった。
「それでも行く。
父の仇をとるために……そして、あいつと決着をつけるために。」
村瀬は静かに頷いた。
——358年、大日島。
物語は静かに、しかし確実に、
戦いと陰謀の渦へと足を踏み入れていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます