三月の毒

旭イヅル

三月の毒

春がくる春がくる記憶の底で音なく腐る春が、またくる


人のない乾いた畑に身がすくむ ひどくのどかな墓地のレプリカ


橋げたの淀みは二度ときらめかず三途の川は釣りもできるかい


物体になった雛どり路地裏の青みに沈む 正午のチャイム


ランドセル 知らない歌が駆けてゆき存在しない孫は閃光


この街をやわく抱きこむ落陽がきみをこぼしてしまった日から


霊園に咲く思い出は一日花 風はしじまの影へ今年も


願わくばぼくも桜のもとで、など。缶チューハイの積もる八畳


きみと同じ手順をなぞる指先に毒が絡まる三月のたび


春だけをおぞましいほどの静謐を集めてやがて棺桶になれ

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三月の毒 旭イヅル @asahi_idsuru

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