SF図書館ゴウスベ
笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ
書簡
案内メールに従って、図書館の東側にある外階段から最上階の三階までのぼる。
日頃の運動不足がたたり、踊り場に重い金属製の扉が現れた時には、山頂に辿り着いた登山者の気分だった。
ぜいぜいと肩で息をしながら、テンキー式のロック錠に指定された四桁の暗証番号を打ち込んだ。
ロックが外れる駆動音が鳴り終わると、私は恐る恐るドアを開けた。
「さぁ、本日はどのような資料をお探しで?」
広々とした部屋。木製の大きな執務机がぽつんと一つ。とても高級そうだ。本棚もないのに、なぜか古書店の臭いがした。
机には、肘をつき、絡めた両手の指先に細い顎を乗せた丸い眼鏡の女性。私をじっと見つめている。背後でドアに鍵がかかる音がし、心臓がドキリと跳ねた。
「わたくし、特別司書のゴウスベと申します。どうぞ、おかけください」
気が付くと、応接椅子が彼女と机を挟んで向かい合うように置かれていた。先ほど部屋に入った時にはなかったように思うが、勘違いだろうか。私は釈然とせぬまま勧められた椅子へ座る。腰かけると、机上札が目に入った。
『特別司書 吾薄辺』
ゴウスベは「吾薄辺」と書くようだ。難読すぎる。
「名字、珍しいですか?」
私の怪訝そうな顔を読み取って、彼女は微笑みを浮かべた。
ゴウスベさんは三十歳くらいに見える。面長でふっくらとした頬、きれいな弧を描く細い眉、眼鏡の奥に佇む涼しげな目元に、薄っすらと上がった口角で微笑みを浮かべている。巻貝のごとく高く結い上げられた髪も相まって観音様に似ていた。
「遠いご先祖様が南蛮貿易で日本に来ましてね。そのまま居ついてしまったらしく、西ヨーロッパあたりの人だったそうですが。名のつづりは Gorsube でして、読みの音も本当はゴースベの方が近いでしょうねぇ。だから、当て字なのです。吾薄辺は」
日本人にしか見えないゴウスベさんの観音顔を改めて見ながら、私は今まで先祖のことを調べようとしたことはなかったので、やはり図書館の人というのは調べものが好きなのかしれない。
私は咳払いして、会話を本題に戻すことにした。
「……こちらのレファレンスサービスなら、なんでも探し出してくださると聞きました」
彼女は一つ頷く。
「はい。わたくしの力の限りお手伝いさせていただきます。どのような資料をお探しでしょうか」
私はもじもじと親指の爪を指の腹で何度か擦ってから、ようやく心を決めて顔をあげた。
「母の……いえ、私を産んだ女性のことを知りたいのです」
「ふむ。わざわざ言い直されたということは、お母さまは別にいらっしゃり、お母さまにその件をご質問はされたくないのですね」
ちょっとした言葉に真意を読み取られ、私は目を伏せた。そして、場をつなぐようにカバンに手を入れる。
「母子手帳はあるのですが、妊婦の名はシールで隠されていました」
取り出した母子手帳をゴウスベさんの机に置く。
「こちら、少々お借りしても? すぐにお返します」
頷く私を確認し、ゴウスベさんは母子手帳を受け取ると立ち上がった。
大きい。
座していた時の座高からは想像つかぬほど背が高かった。思わずギョッとして、彼女の身体を頭からパンプスの先までに何往復も見てしまう。パンプスのヒールは一般的なものより低いくらいだ。ヨーロッパの血、恐るべし。
「ご要望にお応えできるか、調べてまいりますので、ここでこのまま少々お待ちください」
私の不躾な視線など意に介さず、ゴウスベさんは奥の扉を開けて、中へと消えて行ってしまった。
ところで、この部屋、奥に扉なんてあっただろうか。
今自分が座っている椅子も含め、入室時に見た部屋のレイアウトに関する記憶は曖昧で狐につままれた気持ちだ。
平々凡々な人生を送ってきたと自負していた私であるが、自分が養子であると知ったキッカケは、会社から補助が出るからと受けることにした人間ドック。その事前問診票にあった家族歴欄だ。
祖父母は私が物心つく頃にはすでに鬼籍だったので、何気なく母に尋ねたら、「あ~どうだったかしらね~」と言ったまま黙り込まれてしまった。そして、ふらふらと二階へ上がってしまい、しばらくして下りてきて渡されたのが母子手帳であった。
「もうアンタもいい大人だから」
それだけ言うと、母は私に背を向け、韓国ドラマ視聴へと戻ってしまった。
ところどころ茶色く古びた母子手帳。表紙の保護者欄はシールが貼られて、上から母の名が書かれている。市役所の職員が書き損じたのだろうか。だが、シールに書かれた字は見慣れた母の字で、自分の名を書き間違えるとは思えない。
ページをめくる。出生届出済証明欄には行った記憶のない市町村名が「出生の場所」として記されていた。「母(妊婦)」の氏名欄は、またシールが貼付されている。なにより、シールで隠されていなかった生年月日は、母のものではなかった。
母の背中は質問を拒絶しているようにも見え、私は自室へ戻ると、母子手帳を机に投げて、ベッドへと寝転がった。
養子。二文字の漢字が現実感なく、天井に浮かぶ。
今まで戸籍謄本を使用する機会がなかったのか、見たものの気がつかなかったのか。そもそも疑ったことがないから、仮に戸籍謄本を使う機会があったとしても、記載内容をきちんと検めることなどしなかっただろう。
先ほど見た「母(妊婦)」の欄の生年月日を自分のものと比べてみると、この女性は十九歳で私を産んでいる。一体何があったのか、わからないが、両親に私を預けたということか。
次の日、居ても立っても居られず仕事を早退し、市役所に寄って戸籍謄本を手に入れた。窓口で書類を受け取りながら、心臓の音が跳ねあがる。しかし、続柄は「長男」と書かれていた。養子ならば、養子と記載されるはずだ。
なんだ取り越し苦労かと思ったが、産みの母が違うことは母子手帳から明らかである。どういうことだ。混乱する頭で、上欄にある父と母と己の記載で違うところを探した。
【身分事項 民法817条の2】
酷い動悸は自分の耳にまで直接聞こえてきているようだった。気分が悪くなり市役所のソファーに腰かける。それでも指先だけは素早くスマホに文字を打ち込んで、検索をし始めた。
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民法817条の2
1.家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
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養親となる者の請求により……つまり、父と母は私に実の親を知られたくないということだ。今の今まで実の親だと信じて疑わなかったのに、なぜか両親の顔を思い出そうとすると亀裂の入った鏡のようになった。
しばらく陰鬱とした気持ちで項垂れていると、背面側に人が座る気配がした。慌てて市役所の待合スペースを見渡す。混雑してきたようだ。
帰ろうと起ち上がりかけて、帰るべき両親の家が本当の親ではなかったことを思い出し、上げようとした腰をまた落とした。
なにも考えたくなくて、背面側のソファーに座る人たちの会話に耳を傾ける。
「……隣の建物にある図書館あるじゃない? そこになんでも調べてくれるすごい司書さんいるのよ」
年配の主婦たちが話している。話し相手はあまり信じてなさそうだ。
「本当になんでもよ。この前、ほら前に話した介護してた義理のお父さんが、ようやくね、あっちに逝ってくれたんだけど。昔は羽振り良かったから倉庫から古い本や骨董品がたくさん出てきて」
お金の香りがしたからか、話し相手が少し身を乗り出す衣擦れの音がした。
「困ってね。それで似たような骨董品ないかと、図録とか探しに図書館来たのよ。ほらだって高かったら、もったいないでしょ? 老人ホーム代ケチって私に介護させてたんだから、ねぇ?」
話し相手の賛同する気配と共に、主婦の声はより饒舌になる。
「私すぐになんでも聞いちゃうタイプでしょ。だから、まっすぐに図書館のカウンターで聞いたのよ。そうしたら、専門の相談窓口っていうのを紹介されて、申込はインターネットからって言われたんだけど、私そういうの疎いから、カウンターのお姉さんにしてもらったのね。頼み上手だから、私。携帯電話のショップでもタダで色々設定やってもらうの上手いのよ、私。これがその申込の控え」
確かに、説明してもわからないタイプの客は、諦めてスタッフがやってしまうこともあるだろう。「パソコンが壊れた」とすぐに騒ぐ課長の顔が浮かんだ。大体はディスプレイの電源ボタンに知らずに触って画面がオフになっているか、間違ってNumLockを押してテンキーが使えなくなっているかだ。何回か教えたが覚える気がないようなので、こちらが諦めた。
「でね、でね。その司書さんに会いに行ったら、開口一番『こちらをご覧ください』って。なんにもまだ相談してないのにね。カウンターのお姉さんがお話しててくれたのかしら。話が逸れちゃった。それで、なんだかすごい古い本見せられたのよね」
あまり要領の良くない主婦の話に聞き耳を立てる。
どうやら、それは南蛮貿易船の積荷目録で、義父の残したお宝(仮)が地元の名士由来の品だとわかり、骨董品としての価値はないものの郷土博物館へ寄贈することにしたそうだ。
「でもねぇ、その司書さん、最後に変なこと言ったのよ。積荷目録は返さなくていいから、骨董品と一緒にあった古書をほしいって」
そこで、どちらかの受付番号が呼ばれたようで、彼女達の会話は終わった。主婦たちが立ち去ったあと、背後を振り返る。
ソファーの上に、四つ折りにされたA4サイズのコピー用紙が一枚。引き寄せられるように、紙を開いた。
【レファレンス申込フォーム
質問内容: 消費貸借言語論に基づくレファレンスサービスを希望します】
なぜだろうか。無意識のうちに、スマホの検索バーでこの街の図書館を調べていた。表示された「民法817条の2」の説明ページを上書きするように。
図書館サイトに辿り着くと、迷わずレファレンス申込フォームをクリックする。そして、質問内容の項目へ「消費貸借言語論に基づくレファレンスサービスを希望します」と、私は入力していたのだった。
ガチャリ。
扉の開く音で、私はハッと我に返る。
「まずはこちらお返ししますね」
ゴウスベさんは私に母子手帳を返してくれた。そして、もう一冊真新しい母子手帳も手渡してきた。
新品に近くキレイなこと以外、表紙のイラストは私の母子手帳と一緒だ。母子手帳のデザインは三十年経っても刷新されないものなのだろうか。独身の私には皆目わからない。
なにより不思議なのは、保護者欄を見ようとすると視点が定まらない。そこ以外はハッキリと見えるし読めるのに、保護者名だけは何故かぼやけて読めない。なんなんだ、これは。
私の怪訝そうな顔を見て、彼女は説明を始めた。
「その母子手帳は、貴方のが新版だとしたら、旧版なのです」
より理解不能である顔をしたためか、ゴウスベさんは困り笑いで首を傾げる。
「開いてみてくださいな。旧版と申し上げた方は、まだ最初の数ページしか使われてないでしょう?」
二つの母子手帳を開いて、見比べてみる。確かに出生届出済証明欄も空白であるし、妊娠中の経過欄しか記載がない。これは一体?
「少々時間を遡り、産みのお母さまから借りて参りました」
ニッコリと笑うゴウスベさんに、私は眉をハの字にするくらいしかできなかった。
コポコポとポットから注がれる紅茶は音を立てる。いつの間にか、机の上にはティーポットとカップがあった。ゴウスベさんは、私の前に紅茶の入ったカップを置く。
「特別レファレンスを始めさせていただく前に、簡単に消費貸借言語論に基づく当サービスについて、ご説明いたしましょう。通常の図書館資料の利用とは大きく異なりますから」
ミルクと砂糖が欲しい。そう思ったら、そこには小さなミルクピッチャーと角砂糖があった。完全に狐に化かされている。
「図書館におけるレファレンス業務は、図書館情報学に分類されますが、コンピューター技術の発達によって、この学問は様変わりいたしました。
簡単に言いますと、利用者の皆さんが手軽に検索できるようになり、目的の資料どころか、資料元を参照するまでもなく必要な知識へと到達できるようになり、司書にレファレンスを求める方はほどんどいなくなってしまいました」
私とゴウスベさんは、一緒のタイミングで紅茶を一口すする。
「わたくしは図書館情報学において博士号を取得しておりますが、その時の論文タイトルが『消費貸借言語論に基づく時空間レファレンスサービス』でございます。あ、もちろんこれは何百年も先もお話です」
理解を超えすぎていて、私は話に合いの手も挟まずに、ひたすらアールグレイの紅茶に舌鼓をうつ。
「手前味噌な自慢話ではございますが、画期的なレファレンス方法なのです。まず、消費貸借言語論はご存知でしょうか」
「知らないです」
思わず、食い気味に返事をしてしまった。
「消費貸借という言葉は、主に金銭の貸し借りにおいて使われる法律用語です。貸借契約では、本来借りた物そのものを返却しなければなりませんが、金銭の貸し借りの場合、製造番号の同じ紙幣で返す等は無理ですから、借りた紙幣は消費して、別の紙幣で返す。これを消費貸借といいます」
ゴウスベさんは私の発言に対し、特に機嫌を損ねている様子もなく、説明を続ける。
「わたくしは、これが言葉にも当てはまるのではと思ったのです。つまり、『あいうえお』という言葉を貸した場合、返却された『あいうえお』は貸した『あいうえお』そのものでなくてもいいのではないか。わたくしはこれを消費貸借言語論と名付けました。
Aさんが欲している資料をBさんからもらい、Aさんへと貸して返却時はまた別の誰かが欲している資料を返してもらう。その繰り返しによって資料の貸し借りが循環していくわけです」
脳内のはてなマークは許容量を超えた。紅茶が美味い。どこのメーカーのだろう。
「この消費貸借言語論に当時確立したばかりの時空間データ移動技術を合わせ、過去と未来を行き来することで、より綿密なレファレンスが可能となりました」
私は手酌でティーポットからおかわりを注ぐ。そして、二冊の母子手帳を見比べる。
「難しいことはわかりませんが、つまりゴウスベさんは過去へ行って、私を産んだ女性に会い、この母子手帳を借りてきたということでしょうか」
しかし、肝心な産んだ女性の名前は依然として霧がかかったように読めない。私はこれを借りようとは思わない。これではその貸し借りの循環は起こらない。
「いえいえ、その母子手帳は禁帯出です。このあと、すぐに産みのお母さまへお返ししますよ」
キンタイシュツ……漢字を思い浮かべた。携帯して外に出ることを禁ずる。なんとなく意味は理解できた。
「産みのお母さまのご質問内容は、無事に貴方が生まれ幸せに生きているか、です。先ほど、貴方と同じように旧版・新版として見比べていただきました。そして、貴方を養子に出すに至った経緯がわかる書簡をいただいて参りました」
書簡。すなわち、手紙。机の上に女の子が好きそうな可愛いキャラクターが描かれた封筒が置かれた。
「つまり、私を産んだ女性がこのレファレンスサービスを申し込んだから、私に貸すアテができた。だから私もこのレファレンスサービスを利用できるということでしょうか」
まるで無在庫販売みたいだ、という言葉は飲み込んだ。
「エクセレント! こんなにこのサービスの理解が早い方は初めてです!」
そう言って私を拝むように、ゴウスベさんはパンっと手を合わせた。本当に感極まった様子でゴウスベさんは喜んでいる。
「消費貸借言語論は、借りた資料とは別の資料を返しても良いですし、もちろん借りた資料を返していただいても構いません。この書簡でご納得いただけなければ、そのままこの書簡をお返しください。そして、もし満足いただけたのでしたら、ぜひ別の資料を代わりに返していただければと思います」
私はゴウスベさんの勢いに押されて、首を縦に振った。古ぼけた方の母子手帳と渡された手紙をカバンへとしまい、席を立つ。軽く「失礼します」とゴウスベさんに頭を下げて、入ってきた扉を開けた。チラリと後ろを見ると、ゴウスベさんは深々と美しい姿勢でお辞儀をして、私を見送っていた。
図書館を出ると陽はとっくに暮れていたが、いつもの帰宅時刻まではまだ時間がある。私は少し歩いたところにあるファミレスに入った。ドリンクバーを注文して、コーヒーを取ってくる。
そういえば、紅茶をたくさん飲んだのに、特に尿意がない。本当に狐に化かされたみたいだ。
しかし、カバンの中に、しっかりとキャラクター封筒は入っていた。私は封筒を取り出して、裏に返し差出人を見たが名前は書かれていない。一つ溜め息をつく。
私は封筒を開け、読み始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――
さいしょに。ごめんなさい。名前は明かしません。母子手帳でかくされていたし、わたしもその方がよいと思います。
何から話せばいいのか、わかりませんね。
わたしのかわいそうなカコが子どもを捨てる言いわけにはならないと思うから。
でも「私について知りたい」と思ってもらえたのはうれしいです。
ものごころついた時には、父はもういませんでした。父は死んだと母から聞いていましたが、そのあと会ったので生きてました(ずいぶん後のことです)
母はキャバクラで働いてました。明け方まで飲んで、わたしが学校から帰るころまた仕事に行く生活です。
だから、いつもわたしは一人ぼっちでした。あと記おくの中の母はとにかく酒くさかった。
家には男の人がいる時もありました。だいたいは、母を殴るか、母のお金をせびるか、わたしに変なことをしようとして、いなくなりましたが。
中学三年生になるころ、母は「もう一人で大丈夫でしょ」と言って帰ってこなくなりました。
(たぶんママのカレシがわたしとヤろうとしてたからだと思う)
でも家ちんと電気代などは払い続けてくれたので、ギリ最悪の親ではないかなと思います。もっとヒドイ親の子を見て、そう思いました(ギリマシのレベル)
それから高校を卒ギョウして、高校からしょう介されたところではたらき始めました。
家つくる会社です。事務さん。
そして、あなたのパパとその会社で出会って、すぐにつきあって同せいを始めました。そして、すぐに赤ちゃんができちゃった。
あなたのパパは、さいしょはニンシンをよろこんでました。でもお腹が大きくなってきたら、ある日いなくなっちゃいました。
会社の人たちがあなたのパパをつかまえてくれて、ファミレスで話をきいたけど
パパはお父さんになぐられて、けられて育ったから、あなたの性別が男の子だってわかって、こわくなってパパになる自信はなくなったみたい。
そんなこと言われたって、もうお腹大きくて、うむしかない。
(あなたに「うむしかない」なんて言って、ごめん)
一人じゃ育てられないって毎日毎日泣いてたら、友だちや会社の人たちがいろいろ親身になってくれて、子どもにめぐまれないフウフにトクベツヨウシエングミ? に出すのがいいって、しらべてくれた。
(漢字ぜんぜんわからないや、マジバカでごめんね)
それだと、わたしの本当のパパとか、変なやつらと、かかわらないですむみたい。
わたしのまわり金かして星人、多すぎる~。
ただ子どもに変なことするヤツもいるから、それだけはシンパイで。
(これから、あなたを捨てるのに母親ヅラして、ごめん)
市役所でまってたら、トショカンのこと聞いて、それで来たの。ダメもと。
こんなのでいいのかな。ゴウスベさん、きいても
中は読みません
っていうし。
とにかく、以上!
ちゃお!!(^^)
――――――――――――――――――――――――――――――
拙い字だった。ニコニコマークが可愛い。十九歳の私を産んだ女性からの手紙を何度も読み返す。
何度読み返しても、決して彼女のことを「母」とはやはり思えないけれど、たぶんそれくらい私が何事もなく普通に成長したことが、彼女への恩返しのように感じた。
私は結局一杯しか飲まなかったドリンクバーの金を払い、ファミレスを出る。コンビニで白い無地の封筒と便箋を購入した。
家に着く。少しだけいつもの帰宅時間よりも早い。私は大きく息を吸う。吐く。鍵を開けて、家に入る。そして、できるだけ大きな声で
「ただいま!」
と告げた。
台所から顔を出した母の顔に、もう鏡の亀裂は走っていなかった。
***
その空間には、観音顔の女性と臨月が近い妊婦が向かい合って座っていた。妊婦は古ぼけた母子手帳をパラパラとめくる。
「無事に産まれるのはわかったけど、これだけじゃ意味なくない?」
不満げな妊婦に観音顔の女性は、にっこりと微笑む。
「貴女の息子さんのご質問内容は、産んだ女性のことを知りたい、です。先ほど、貴女と同じように旧版・新版として見比べていただきました。そして、この書簡をいただいて参りました」
白い無地の封筒が机に置かれる。訝し気な顔をして、妊婦は手紙を母子手帳に挟むと、部屋を出ていった。
観音顔の女性は、退出する妊婦に深々と頭をさげて見送り、また次の来訪者を待つ。しばらくすると、また扉が開く音がした。
「さぁ、本日はどのような資料をお探しで?」
了
SF図書館ゴウスベ 笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ @sasa_makoto_2022
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