第6話 歪んだ愛
彼女は、僕の願いを叶えてくれた。
僕が彼女を忘れても、彼女は夢に現れ続けてくれた。
けれど――その夢の中で、彼女が笑ったことは一度もなかった。
僕を見て微笑むことも、「愛している」と囁いてくれることも。
僕は、彼女の献身に応える術を持たなかった。
絶望に胸を焦がしながら、僕はアズライト・ブルームを一心に摘んだ。
乱暴に茎を引きちぎった瞬間、指先が裂け、鮮やかな青が視界に散った。
セレナ。
君がこれを望むかどうか、僕には分からない。
でも――僕にできるのは、これしかなかった。
アズライト・ブルームは、それだけで眩い青を放つ美しい花。
潰すだけでも、十分にあの色を再現できるはずだった。
けれど伝承は語っていた。
この花には、毒があると。
体内で血と混ざったとき、かつてないほど深く、美しい“宝玉の青”が生まれるのだと――。
僕は、アズライト・ブルームを口に含んだ。
舌がしびれ、脳が毒を悟って警鐘を鳴らす。
だが、そんな体の反応さえも、どこか遠い出来事のようだった。
波のように静かで冷たい気持ちのまま、僕は自分の腕を切りつけた。
青く変色していく血を皿に受け、
その血で、セレナのドレスの色を仕上げた。
――僕の血が、君を彩る。
ようやく、君と一つになれる。
僕の血と魂は、この最後の作品に込められた。
そしてきっと、永遠に君と共に在り続ける。
僕の愛と犠牲は、この絵を通して――
不朽の物語として、語り継がれてゆくのだろう。
けれど……君は今も、泣いているのだろうか。
もう、僕には何も見えない。
指も、声も、感覚もすべてが遠のいてゆく。
セレナ。
どうか、君の声を……。
どうか、僕を――忘れないでいてくれますか。
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