第2話 貧困街のトロル一家

「パパだぞ」

毛むくじゃらのおっさんタングルが、顔を近づけてきた。

口からは汚物のにおいがして、鼻を押さえる。


「こいつ、俺のこと臭いと思ってやがるのか」

「ほら、あんた、ジャーンクが、かわいそうでしょう」


「その気持ち悪い呼び方をやめろ。こいつの名前はジャック。ジャック・トロルで納得しただろ」

「伸ばし棒もかわいいと思うけど」

(二人でイチャイチャするな。)


何を見せられてるんだと、リチャードは思う。

そう思いながら、自身のここでの名前はジャックと言うらしい。

覚えておくことにした。


不意にあたりを見回すと、木と草を寄せて作った家で出来ており、お世辞にもうまいとは言えなかった。

むしろサバイバルしてますと言われた方が、納得しそうだ。


「さあ、ジャックご飯の時間よ」

アリスのたわわな胸が近づいてきた。

プルンと飲む場所を用意して、ジャックに吸わせようとしてきた。


(おい待てよ。こんなことをしなきゃいけないのか。嬉しいけどよ。)

「この子全然飲まないわね。いつもあなたみたいにチュウチュウするのに」

「飲まないなら、俺が飲むぞ」とアリスの胸にタングルの顔が近づく。


ジャックは昔の光景を思い出していた

(風俗店で知らないおっさんと一人の女性の山を分けっこしたっけ。)


(ただ今回は独り占めできるのだから渡しはしないぞ。)

タングルの顔をどけと払いのけ、いざのぼる。

口をつけ、チュウチュウする。


「アァーン。ようやく吸ったは、この子。いい子ね」


頭をなでられたのは、いつぶりだろう。

嬉しくてもっと吸うと、力が、おぉぉーー漲ってくる。


「うま」

やべぇ、つい言葉が出ちまった。


「この子しゃべらなかった?」

「本当か」

はたかれたタングルは、その場で座り、順番待ちをしていた。


「ママの美味えだろ」

ジャックは無言でうなずいた。


「こいつうなずいてやがるぜ。もしかして、俺の言葉が分かってるのか?なんてな」

タングルは立ち上がり、こちらを覗き込んだ。


「わかりゅ」

「「うわーーすげぇー」」

二人ともたまげたようで、しりもちをついた。


「この子は天才よ」

「天性の才能をもってやがる。さすが俺らの息子だぜ」

ジャックをアリスから奪い取ったタングルは、エイっと高く上げた。


「すごいぞ、ジャック。高い高いだ。お前はこの国、いや、この世で一番の存在だ」

タングルが笑顔でジャックをほめちぎった。


こんなに自分が生きていてうれしかったのは、いつぶりだ。

まぶたのあたりが、熱くなる。

大粒の涙がとまらない。

「おう、どうした?大丈夫か」


臭くて、近づきたくない父親の胸が妙に心地よかった。


「うぇえーーーん、うぇえーーーん」

「おう、よしよし」

「あなた、何泣かせてるの?変わってください」


「たまには抱かせてくれよ」と懇願した。

「あなたのせいで、泣いてるかもしれませんよ?」


「じゃあ、仕方ないな、ほれ。あれ?離れない」

「いや」

「何が?」

「いや、このままが良い」ジャックはタングルの胸にしがみつく。


突然のパパっ子にアリスは目を丸くしていた。


「ほれ見たか?俺もやるときはやるんだよ。なあ?」

「パパ口臭い」


その光景を見て、アリスが笑い、つられてタングルとジャックも笑った。

(最高の家族かよ。)


泣いて笑ってを繰り返すと、突然の眠気に襲われ、寝入ってしまった。


何かの軋む音で目を覚ます。両親がベットをギシギシさせながら叫んでいた。


「あなた、そこそこっ」

「どうだ俺のは」

チュウチュウと聞きなれた音が聞こえる。


「相変わらず、お前のは、うまいな。魔力が漲ってくるぜ。リミット解除。ビックエンペラー」



そこからは、一瞬で終わった。


(やっと終わったか。もう一度眠ろうと思うと目の前にワニが!!!)


「でぇっかーーーー!」

あまりにも大きすぎるビックエンペラーに声が出てしまった。


「息子よ。起きてたのか」

「でかすぎる」


「これか。アリスの力のおかげだ」

股下を指し、タングルが笑う。


「ちから?」

「そうだ。お前も吸ったときに気づいたはずだ」

(確かに、吸った後に力が、みなぎるような感覚に襲われた。)


「アリスは魔力というエネルギーを体の中で強化させられる、女神体質ってやつだ」

そこからパパは、この世界の体質について話してくれた。


大きく分けると3タイプ。

魔力を体に保持でき、力に変えることができる魔人体質。

魔力を体の中で強化できる女神体質。

その両方を持つ神体質。


「ちなみに俺はどっち?」

「見かけは人類だから、女神体質かもな。ほれ、ミラーホルダー」


周りを氷で覆った。

寒さを感じるかと思ったが、全く感じ無い。


そこには、知らない赤ん坊がいた。

「うわっ。これなに?」

黒髪で、緑の目、目は大きく、おしりと頭は、大きい。


「ハハハハハーー。それがお前だよ」


「これが俺?」


自分のほっぺをいじり変な顔もしてみたり、笑ってみたりを繰り返した。

これがジャックなんだということをようやく理解した。



「ところで神体質の人っているの?」

「いないな。この世に。一番近いのが魔王とメリダス女王だ」

どうやら体質は進化できるらしい。迷信らしいが。


「その二人がもっとも、その体質を極めてるので、可能性としては高い」

「じゃあ、いつか、俺も・・・」


カーンカンカンカン

鐘の鳴る音が、うるさく、二人の会話に割って入ってきた。


「何かしら」

布を体に巻くアリスが、木の窓から外を覗く。


「ファイアバードだ」

「家が焼かれるぞ」

外から悲鳴が聞こえてきた。


「クッソ。こんな時に魔物かよ」

タングルは急いで、ズボンを履き、玄関の前で弓を取った。

「俺が、5分しても帰ってこなかったら、この家を出ろ」


「でも・・・」



「わかったな」


無言で二人がうなずくと、「よし」と言って、鐘の鳴る方へと走って行った。


「パパ大丈夫かな」

不安げに声を出すと、アリスは「大丈夫よ」と手を震わせながら、ジャックを抱き寄せた。


ジャックもアリスの胸をぎゅっと握りしめた。


「ぐうううー」

「お腹なったのしょうがない子ね」

タングルの帰りを待つ間に、ジャックはチュチュとアリスのを吸うのであった。


「ファイヤーバードはどこだ?」

タングルが、辺りを見回してると、煙が上がってる。

あそこか。


貧困街でそこら中で人が、動く気力すらなく、焼かれていた。

走ってその場へ向かうと、草でできた家は家事なっており、ファイヤーバードは飛び立つ瞬間、だった。

タングルは、弓を引っ張って、矢に青き力を込める。


「蒼きウォータースピア

その弓矢は、大きく青く輝いた。

「今だ」


ファイヤーバード目掛けて、矢が飛ぶ。

ぎゅああああああああ

火は収まり、鳥の体の炎はなくなった。


しかし、矢はカンといって、その場に落ちた。


黒い煙の中から姿が見えてくる。

周りが白く骨でできており、所々に穴があり、目玉はほとんど取れていた。


羽は燃えているが、中身はほぼ骸骨の魔物──ファイヤースカルバード。


「こいつ・・・ファイヤースカルバードか」

くっそ炎は消えたが、肉体は無傷か。


「ぎぇぇぇー」

ファイヤースカルバードは、タングルを見つめ、あざ笑うかのように西の方へと飛び立つ準備をしていた。


バサバサッ。

大きな羽で風を起こす。


砂ぼこりが目を襲う。

だが、ここで逃がせば、被害が甚大になることを分かっていたタングルは弓を構えた。


タングルは、弓矢に白い力をこめる。

「貫通の槍《ぺネトリヤ スピア》」


矢を放つ。

ピューーン


バーーーーン

ぎぇぇぇーーーーー。

羽の片翼が割れた。


これで飛ぶのは無理だろう。


しかし、ファイヤースカルバードは、もう死ぬのを悟ったのか、タングルの方へと捨て身の体当たりする。


「やべぇ」

すんでんのところでかわす。

だが、スピードに歯止めがないファイヤースカルバードは、タングルの来た方へと突っ込んでいく。


「待て、そっちには俺の家族が」

タングルは、走って、家へと全速力で向かった。


「生きててくれ、我が息子と妻よ」


そのころ、待っているジャックは、ママのを吸いながら、目の前を飛んでいるハエにイライラしていた。


(こいつ、いつまでちょろちょろ飛んでやがる。)

ブンブン言うのは、勝手にしろ。でも自分の前をウロチョロされるのは、

飲むのに集中出来なくていらいらする。だが、飲む。


手を伸ばしてつぶそうとしても、小さな手と、短い腕では、届かない。


「ママ、ハエつぶして」

「そうね」と言いはするが、心ここにあらずであった。


(タングルのことが心配なのか。

仕方がない。

ハエは俺が殺すしかない。)

飲み終わると、力がみなぎってきていた。


窓の方で止まっているハエに焦点を絞って、必ず倒すという念を送った。


地鳴りが近づく音が、聞こえてきた。

ドンドンとこちらに近づいていた。


何だろうと思い、ふとハエから視線を逸らすと、窓の方から大きい骨の鳥が、突っ込んできていた。

「ママ、鳥が・・・」あまりの出来事になんて伝えればいいかわからない。

アリスは、そちらを振り返る。

その時、ハエが、振動の影響でジャックの鼻についた。


突然の出来事に、びっくりして手に力を込めて、ハエを払った。

その瞬間、とてつもない衝撃波が出た。

ハエは、消え、家とともに目の前の鳥も木っ端微塵になっていた。


「何が起きた?」

ジャックは目の前の光景に呆然となってしまった。

















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