第27話 連休最終日

 胸の中心から入ってきた大きな波が、私の身体をめちゃくちゃにしようと襲いかかってくる。その波は、凪を保っていた水面を飲み込み、荒ぶらせようとしてくる。


 私は、なんとか凪を保つべく、強く水面の形を意識する。


 だが、大波の前に長い時間は耐えられず、次第に水面は大きく波打ち始めてしまう。


「ぷはっ…!! つっ……またダメだった……!」


「お疲れ様です。今日はこのくらいにしておきましょうか」


 そう言ってジュンナは私の胸に添えていた手をどかした。


 私は畳に手をついて、乱れた霊力と呼吸を必死に整える。肌寒いくらいの気温、それも、快適な室内でじっとしていたというのに、Tシャツの下は汗でびっしょりになっていた。


 ジュンナが座卓に置いてあった麦茶のコップを手渡してくれる。


「どうぞ、私が言うのもなんですが、無理はなさらないでくださいね」


「ありがとう……。やっぱり、ジュンナに霊力流し込まれると、十秒も保てないわね……」


「私とリアさんでは霊力に大きく差がありますし、当然ですよ。状況としては、悪霊の攻撃を受けた時と大差ありませんし……。本当なら、こんな危険な修行は数ヶ月経ってようやく試すものなんですからね?」


「でも、私は早く強くならなきゃだし……。相手はジュンナなんだし、大丈夫でしょ?」


「煽てても意味ないですよ。リアさんの体質と才能を考慮して、仕方なく許可しただけなんですから。無茶しないという約束、覚えてますよね?」


「も、もちろん……」


 ジュンナが本気で怒ろうとすると、部屋の温度が下がった気さえする。


 さすがに今夜の修行は終わりみたいなので、畳の上で足を伸ばしてストレッチすることにした。また悪霊との戦いで逃げ回らないとも限らないし、身体は仕上げておくに越したことはない。


「攻撃系の術っていつになったら教えてもらえるの? 私、今のところ自分の霊力を保つことしか教えてもらってないんだけど」


「基本を疎かにしては、かえって効率が落ちてしまいますから。それでも、リアさんは私が知る中では、相当に飲み込みが早いですよ?」


「けど、あれから悪霊の音沙汰が無いとはいえ、またいつ遭遇するかわからないんだし……。あの悪世浄化を使うには、また私が時間を稼ぐ必要があるでしょ? それに、ジュンナがいない時に遭遇したら、結局何もできないままだし……」


「お気持ちはわかりますが、焦りは禁物ですよ」


 自分が我儘を言っているのは重々わかっている。精霊術という存在を知ったが故に、早く誰かの役に立ちたいという焦りが芽生えていることも……。


 今日が連休の最終日。

 明日からは学校が始まり、どうしたってジュンナとは別行動になってしまう。万が一悪霊に遭遇しても、一人では何もできないというのは、やっぱりもどかしいし悔しい。

 

「では、学校でも修行をするのはいかがでしょう?」


「学校で?」


 ジュンナは頷いて説明を続ける。


「例えば、授業を聞きながら霊力を操作する練習をする、などです。ゆくゆくは非集中状態でも霊力を操作できる必要がありますから、先行して練習するに越したことはありません」


「確かに、精霊と出会す度に目瞑って瞑想するのもストレスよね……。悪霊と戦うなら余計にそんな暇ないだろうし」


「あ、ですが、ちゃんと授業を受けるのは前提ですよ?」


「おばあちゃんみたいなこと言わないでよ。こう見えて、私結構成績は良いのよ?」


「おば……っ!?」


「そういうジュンナの方は、明日からどうするの?私が学校に行ってる間、留守番してることになると思うけど」


 私の制服があるといえど、部外者であるジュンナを学校に連れていくわけにはいかない。魔法少女の使い魔みたいにスクールバッグに忍ばせるなんてできやしないし。

 この時代のことをまるで知らない上に、連絡手段もないのでは外を出歩かせるのも怖い。

 となれば……。


「なら、ジュンナも勉強ね。私の中学の時に使ってた歴史の教科書貸すから、知らない時代のことを勉強すると良いわ」


「なるほど。教科書の知識なら間違い無いですね。助かります」


「それから、ついにテレビの使い方を教える時が来たわね」


 私の発言に、ジュンナの喉がゴクリと鳴る。

 彼女にとって、現代文明に触れるということはそれくらい覚悟が必要なことということだ。

 

「てれび……。あの絶え間なく映像が流れている機械のことですね」


「そうよ。時事ネタとか、今の時代どんなものがあるかは、テレビ見てればわかるから」


「頑張ります……!もうちょっとのことでは驚かない自信があります!」



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「リアさん! ちゃ、ちゃんねるってなんですか……? なんでこの機械を触るとてれびが動くんですか!?」


「んま……こうなるわよね……」

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