第26話 ファッションショー

「リアさん! あの看板! 光った文字が流れていますよ!?」


 そう言ってジュンナが指差すのは、「ラーメン 営業中」という文字が流れる電光掲示板。駅近の商店街にある、老舗のラーメン屋だ。


「あのような文明を見ると、やはり私の時代と比べて未来なんだなと実感します……」


「しみじみしてるところ悪いけど、あぁいうの、もう一周回って珍しいわよ?」


「え? どういう意味ですか?」


「時代の進みは早いってことよ」


 今日の私たちは、お昼から駅へと繰り出していた。


 一番の目的はジュンナの衣服や日用品を買い揃えること。いつまでも私の制服を貸すわけにもいかないし、日常生活を送る上で制服では目立ってしまう場合もあるだろう。こんなピンク髪の生徒、うちの学院には存在しないので、駅前を制服で彷徨くのはあまりよろしくない。隣に私服の私がいるのだから尚更だ。


「リアさん! この時代の階段は動くんですか!?」


「ちょ、恥ずかしいから早く乗って!」


「い、いつ乗れば良いんですか!?」


 寄り道しても問題ないように早めに出たのは良いのだが、こんな感じでジュンナがことあるごとに足を止めるので、駅北側のショッピング施設にすら中々辿り付かない。


 今時、エスカレーターなんて幼稚園児でも乗れるだろうに、乗るタイミングが分からずに列を止める18歳など目立って仕方がない。

 85年前の人間だということを隠す気があるのか、甚だ疑問である。


「ずっと気になっていたのですが、皆さんが持っている金属の板のようなものは一体なんなのでしょうか? リアさんが使っていたものと同じものですか?」


 駅の中を通り抜けながら、ジュンナはそんなことを聞いてきた。


「リアさんのものには、何やら文字がびっしり書いてありましたし、電話もしていましたよね。これほど多くの人が持っているということは、よほど流行っているのでしょうか?」


 道ゆくスマートフォンをいじる人たちを観察しながら、ポロポロと疑問が溢れている。


「電話ってのは一割くらい正解ね」


「一割、ですか?」


「そうよ。これはスマートフォンって言うんだけど、これ一つで色々なことができるのよ。例えば、ほら地図を見たり、パズルで遊んだり……」


 ジュンナに画面を見せながら、地図アプリや数独アプリ、万歩計や電卓も見せた。ゲーム系のアプリもいくつか入っているが、説明の途中でジュンナがパンクするのが目に見えているので割愛する。


「一番使うのはチャットアプリかしら。ちょっと見てて」


「はい」


 そう言って私はチャットアプリでメッセージを打ち込んでいく。

 宛先はヨモギ。

 『好きなお菓子は?』というぶっきらぼうな文章を送る。


「ほら見て。これでもう、友達は私の送った文章を見れるのよ。……って、もう返ってきた……。早っ……」


 こちらからメッセージを送って一分も経っていないのに、もうヨモギからは返信が来ている。

 内容は、『どら焼き』『特に粒餡』という二本立てだ。私はそれに対して、『了解』という二文字だけ返した。


「これで、遠くにいながらでも一瞬で連絡が取れるのよ。わざわざ電話かけたり、手紙を書いたりする手間がないから便利なの」


「もしかして、電報みたいなものですか?」


「あぁ〜……た、たぶん」


「……まさか、電報ってもう無くなってるんですか?」


「……ごめん、少なくとも私は教科書くらいでしかちゃんとは知らない……」


「時代の進みは早いんですね……」


 気まずいジェネレーションギャップ。冷静に考えれば、ジュンナはとても貴重な歴史の伝承者なのかもしれない。


 とにかく、今はスマートフォンが連絡手段ということが伝われば良い。


「直ぐにとは言わないけれど、いずれジュンナも持つ必要があるかもね。私が学校に行ってる間に何かあっても、連絡取れないんじゃ不便だもの」


「そうなんでしょうか……。私からしたら、連絡取れないことが普通だったので……」


「時代ね……」


 ・

 ・

 ・


「どうでしょうか……。現代の服は些か露出が多いですね……」


 試着室のカーテンを開けると、ノースリーブのワンピースを着て恥ずかしそうにしているジュンナが姿を現した。白を基調とした落ち着いたデザインで、清楚感の強いジュンナによく似合っている。

 

「似合ってるから平気よ。ジュンナ肌綺麗なんだし」


「そういう問題では……」


 私たちはショッピング施設内にある、チェーンのアパレルショップに立ち寄っていた。この店は、最先端のオシャレファッションという訳ではないが、リーズナブルで無難な服が揃っている。

 この街で充実しているのは婦人服を扱った店なのだが、いくらジュンナが昭和の生まれだからといって、この見た目で婦人服は逆に目立ってしまうだろう。


 かれこれ一時間以上は、ジュンナを着せ替え人形にしてファッションショーを楽しんでいた。

 自分では絶対に着ないような衣服を物色するのは思いのほか楽しくて、すっかり夢中になってしまった。これも、ジュンナが何を着ても似合うせいだということにしておこう。


 足元には既に、夏服や羽織物、下着にパジャマなどで一杯になった買い物カゴが二個ほど並んでいる。

 

「それにしても、さすがに一度に買い過ぎではないでしょうか……。特に夏服はまだ時期的にも早すぎる気が……」


「まだ5月の頭だからそうでもないけど、現代は昔と比べて桁違いに暑いの。覚悟しておいた方が良いわよ。5月とか6月でも、いきなり30度近くまで暑くなったりするんだから」


「30度……!?真夏じゃないですか!」


「真夏で30度だったら、相当涼しいわよ?」


「ひえっ……」


 今しがたジュンナが脱いだワンピースもカゴに入れ、私たちはレジへと向かった。


「あの……流石にこの量の買い物を全額負担していただくというのは、心苦しいと言いますか……」


「ジュンナは命の恩人だから、そういうの気にしなくていいんだってば」


「お婆様も入院されてますし、家計は大丈夫なんですか……?」


「お母さんから仕送りがあるって前に言ったでしょう?何の仕事してんのか知らないけど、たぶん結構稼いでるのよ。私の生活費も全部仕送りから出してるし」


 毎月月末に、16歳が貰うには過剰すぎるほどの仕送りが私の口座に振り込まれる。

 ある意味、お母さんの生存確認にはなっているのだが、私にとっては全てが謎だ。


 仕送りはほんの一部だけお小遣いとさせてもらって、後のお金は貯金に回している。本当は、おばあちゃんにお世話になっているからと渡そうとしたのだが、きっぱりと断られた。

 かと言って、知らない人から渡されたも同然のお金をウハウハと使う気にもならなかった。


「今は師匠でもあるんだもの。師匠の衣食住を整えるのは、弟子の仕事でしょ?」


「その価値観は私の時代よりもさらに古いと思いますが……」


「とにかく、お金の心配はしなくて良いのよ」


 口座の残高でも見せてやれば安心するだろうか。

 そう思って、銀行の口座アプリを起動した。


 だが、その口座残高を確認して、私は目を疑った。


 そこには、私が記憶していた残高を遥かに上回る数字が記録されていた。私の仕送りが追加で入っていたにしても、これほどの残高にはならないはずだ。


「もしかして、これ……ジュンナの分……? ……なんでお母さんが知ってるの……?」



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あとがき


お読みいただき、誠にありがとうございます。


リアの母親についての言及は、「第18話 時を超えた少女と始める共同生活」などでされています

https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792437904939372


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今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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