第11話
「水魔法第参番、水霞(アクアミスト)!」
前の僕じゃ絶対できなかった。けど今は違う。
覚醒した僕の魔力は、前よりずっと繊細に水を操れる。
(見せてやる……今の僕の力を!)
霧が一面に広がり、光を乱反射させる。
「……行くぜ、シン」
カイトが、霧の中を抜けて背後に回る。素早い。けど――
シュッ!
「はっ!? シン、どこだ……!」
カイトの剣は空を斬った。
僕は水の屈折を使って姿を隠してた。今がチャンス!
杖を、思いきり振りかぶる。
「第七番、大砲水(ウルトラホース)!!」
轟音とともに、巨大な水の砲弾が霧を突き破ってカイトを襲う。
「くっ……!」
カイトは剣を構えて防御の構えを取るが、覚醒した僕の魔力はもう、前の僕のそれとは比べものにならない。
ドガァン――ッ!!
砲弾の轟音が収まったあと、静寂が訪れた。
壁にめり込んだまま、カイトはぐったりとしていた。
だけど、ゆっくりと顔を上げ、僕を見た。
「……やっぱ、強くなったな。シン」
「カイト……どうして、あんな呪いを……! どうして、世界を……!」
僕の問いかけに、カイトはしばらく黙って、それから口を開いた。
「……シン。お前さ、人間って……本当に、守るに値すると思うか?」
「え……?」
「俺は、五年間、世界を旅して見てきたんだ。戦争で壊された街、食べられずに死んでいった子ども、豊かな国が貧しい国を搾取して笑ってるのを。海も、森も、動物も……全部、人間のせいで壊れてく」
「それは、でも……!」
「分かってるよ。全部の人間が悪いわけじゃない。けど、〝それでもいい〟って目をそらしてるやつらが大半だ。だから俺は……人間を、正しい存在にしなきゃいけないって思った」
彼の目は、どこか遠くを見ていた。
「俺は、この世界を一度リセットしたかった。苦しんでる子どもがいない世界に。争わない世界に。……きれいごとだって、分かってる。でも、俺にはもう、こうするしかなかった」
「だからって……!」
「……だからって、レイを殺して、お前まで巻き込んでいい理由には、ならなかったよな」
カイトはうっすらと笑った。
それが、彼の〝悔い〟だった。
「でも、俺はお前になら倒されてもいいって思ってた。世界を憎まなかったお前が、俺を止めることができたら――きっと、それが、答えだ」
僕は言葉を失った。
「……最後にさ、頼みがある」
「なに?」
「お前は、この世界を信じてくれ。俺が絶望したこの世界に、もう一度チャンスをやってくれ。俺にできなかったことを、お前が……頼むよ、シン」
「……うん。わかったよ、カイト」
彼は、安堵したように目を閉じた。
その顔は、どこか眠っているようで――ただ、悲しかった。
「……ありがとな。シン。ほんとは、お前みたいな奴が……世界を導くべきだったのかもな」
風が吹く。崩れた城の天井から、青空が覗いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます