第12話

「うわああああああっっ!!」

ズガーン!! というとんでもない音とともに、僕の体は地面に叩きつけられた。

……というか正確には、魔王城ごと落っこちたんだけど。

「いたた……な、なんとか致命傷で済んでる……」

全身の痛みに耐えながら親友を呼ぶ。

「カイト大丈夫!?」

「……ああ。こっちも奇跡的に致命傷で済んだよ」

僕はごろんと転がって、仰向けになって、目をしばしばさせた。

「……え?」

そこに広がっていたのは、土煙でも瓦礫でもなく、ふわふわした感触の——

「……花、だ」

辺り一面、薄紫の花がゆらゆらと揺れていた。

何度も夢に見たあの場所。懐かしい香りと、風と、空の色。

「……シオンの花畑だ」

ふと、十年前のことを思い出す。

『俺とシン。もしどっちかが死んだら、この花畑に墓を立てよう。で、またここで会おう』

『言い伝えがあるんだ。死んだ人間は、生まれ変わっても、また同じ場所に惹かれて集まるって』

魔王城の浮遊魔法が解け、僕たちは地上へと墜ちてきた。

そして落ちた先が、あの約束の場所だったなんて。

「……ふふっ、やっぱり、戻ってきたな」

カイトが笑った。

もう彼の体に魔力の輝きはない。魔王の力は、完全に尽きていた。

「ほんとに、ここに落ちてくるとはね……奇跡だよ」

花に囲まれながら、僕らは並んで寝転んだ。

傷だらけで、でも、どこか懐かしいような安心感が胸を満たしていた。

「なあシン、約束……覚えてるか?」

「……うん」

「死んだら、この花畑に墓を立てるってやつ」

カイトが、顔をこちらに向ける。

目はどこまでも穏やかで、少年のころと変わらない光が宿っていた。

「俺さ、この世界に呪いをかけたこと、後悔してない。だって、世界はあまりにもひどかった。戦争、貧困、温暖化……人間がやらかしたことの後始末を、俺がやるしかなかった」

「でも、それを……シンが止めてくれた。俺を」

花びらが一枚、カイトの頬に落ちた。

「ありがとう。お前じゃなきゃ、無理だった」

「……僕も、きっとカイトじゃなきゃ、ここまで来られなかったよ」

静かだった。風が吹き抜ける音、遠くで鳥が鳴く声。

それ以外、何もなかった。

「魔王のカイトはもう死んだ。せめて死に際は一人でいさせてよ。最強を見せてた俺が目の前で死んじゃったらダサいじゃん」

「うん。わかった。じゃあ、またここで会おう。      ……またね、カイト」

「ああ。また、ここで」

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