第10話

「……さあ、そろそろ俺と戦おうよ、シン」

振り返ると、そこには剣を構えた〝カイト〟がいた。いや、もうカイトじゃない。魔王だった。

「お前と一対一で戦ってみたかったんだ。ずっと」

地面が揺れる。ごごご、と低い音が鳴り、城が……浮いた。

「この部屋、今は俺の魔力で空中に浮かせてる。誰も入れないし、お前も逃げられないよ」

「だったら……僕は――お前を倒す!」

「いいね。じゃあ、始めよう。十年前の答え合わせといこうか」

「水魔法壱番、水霊(アクアホロウ)!」

水を足に纏わせて、僕は滑るように動いた。剣の軌道をギリギリでかわす。これは僕のオリジナル魔法。まだ誰にも教えてないやつ。

(僕にしか……できない魔法で……!)

「水魔法弐番、水弾・斂式――連!」

大量の水弾を間断なく撃ち続ける。威力は低い。でも数で攻める。僕の狙いは、そこじゃない。

「……水弾・斂式――貫!」

今度は一発。重く、太く、鋭く――これが本命。

カイトが剣を突き出して、それを難なく斬った。

(うそ……! 防がれた……!)

「今度はこっちの番な」

次の瞬間、背中を蹴り飛ばされたみたいな衝撃が走った。

(……ああ……だめだ……)

意識が、遠のく。

(僕なんかが、勝てるわけないよ……)

……あーあ。こんなことなら冒険になんていかなきゃ良かっ

「シン。お前の力はそんなもんじゃないはずだ! 見せてみろ!」

カイトの言葉に連動するようにして、胸のあたりに熱を感じる。意識が薄れている中、はっきりとそれが分かった。

気づけば刺された背中は痛みを感じなくなっていた。僕は今までにない感覚をした魔力を放出させ、その熱気がカイトを遠ざける。

「ついにシンも……!」

「これって……僕の魔力だよな。これって……」

「死の淵に立ったお前の魔力の、覚醒だ」

カイトは笑みを浮かべて言った。

「死の淵に立ち、そこで扉を開けなかった者は死ぬ。開けた者は、魔力が、覚醒する。今のお前は数分前のお前とは比べ物にならないはずだ」

「僕が、覚醒……」

カイトが剣を構える。

「ずっとお前と戦ってみたかったんだ。さあ、最後の戦いといこうか」

「僕は、……負けない!」

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