曼珠沙華

彼のひとは岸辺から

呼ぶひとは彼方から


暑さ寒さも彼岸まで

愛し憎しも彼岸まで


もう誰もいない夕べ

花咲く渡しに誰そ彼


いのちの方舟は闇へ

こころの波間は光へ



遠くに御嶽は寒々として

足もとに曼珠沙華は咲き

紅く塗りこめられた視界

夜の唇ひび割れ血は滲む


寂しいと言いたくなれば

黄昏に迷い道は私を誘う

悲しいと言わないときは

宵闇が迷宮の扉を閉ざす


車通りも少なくて

そこかしこに虫の声

夜行列車の風裂く音


虫たちは 命のうたを呼びかける

揺れている 夜の闇には曼珠沙華


やまない秋の大気冷え

たどり着けない夢のよう

胸が痛んで目を覚ます


虫たちは 一夜の恋を呼びかける

揺れている 風の道には曼珠沙華


夜の闇には曼珠沙華

風の道には曼珠沙華

愛に恋とは曼珠沙華

藍の空には曼珠沙華

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