第19話
教室へ戻れば、福田くんたちの予想通り電車通学の生徒は予鈴が鳴ったにも関わらず席に着いておらず、クラスメイトは三分の一程度しか集まっていなかった。そこには、なぜか電車通学の嘉根さんの姿があった。背筋にヒヤリとした感覚が這う。昨晩から怒涛の勢いで入手した嘉根さんに対するネガティブな情報を処理しきれていないので、なるべく話しかけたくないが僕は嘉根さんからすれば、まだ協力関係にあるのだ。怪しげな行動を見せて、今僕に協力してくれている人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。僕は極めて自然体を装って、自分の席に着く。
ビシビシと視線を感じる気がするが、予鈴が鳴れば原則自分の席に着いて担任の先生を待ち、ホームルームの開始に備えておくのが決まりであるので、堂々とテキストを開いてこの居心地の悪い時間をやり過ごす。
それから少しして、佐々木先生がスリッパの音を静かな廊下に響かせながらやってきた。
「よし、思った通り少ないな。出席取るぞ。」
ほとんど返事のない点呼を取り、A組の生徒の出席数が三十人中十一名であることが分かった。佐々木先生はぐるりと教室中を見渡して、ため息を一つ吐いた後に連絡事項を周知させる。
「まぁ、みんな知ってる通り、近くの駅がトラブルで電車が止まって学校に来れていないお友達がたくさんいるな。それは先生方も同じでな。今日授業予定だった一限、二限、三限目は全て自習になった。同じところで自習し続けるのもしんどいだろうから、図書室が終日解放とのことなので利用したい人は図書室に居る先生に一声かけるように。先生は、理科準備室で個人面談が必要な子の対応をするけど、質問などは大募集中だから遠慮せずに来るように。今回の連絡はそれくらいかな。」
じゃあ号令、と佐々木先生が言い、僕がいつものように号令を掛ける。
自習の監督をする先生は手が足りないから居ないらしい。完全に自由自習とのこと。
僕はこんな事になるなら塾の宿題を持ってくるべきだった、と後悔しながら、なにか自習に使える教材を持っていたかカバンの中を探していれば、教室から出て行ったと思われた佐々木先生が戻ってきて、戸に手を置いて上半身だけ教室に入るような格好で声をかけてくる。
「学級委員長の芽島はいまから面談だ。理科準備室に来るように」
「え、はい」
夏休み直前に面談が必要なほど進路に迷いはないが、と思ったが、おそらく昨日の事を整理する為に私欲で面談の場を設けたのだろう。立場を利用する堂々とした犯行に、この人が教職でよかったと心の底から感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます