第17話
諸々のやることが終わり、今度こそ自室へ戻る。明日はどんな顔をして嘉根さんに会えばいいのか。疑いを気取られないように通常通りに居ろと佐々木先生はいうが、嘉根さんは友人たちの少しの変化にも鋭く気がつくので、かなり気を配って周りの人間をみている。つまり、僕なんかが懐疑心を隠したところで、見抜かれてしまうと思う。
なるべく話さないように行動しようと心に決めて、今日行かなかった分の塾のテキストに目を通して今日は眠る事にした。
木曜日の朝を迎え、最初に嘉根さんと企んでいた冤罪晴らしのタイムリミットは明日となった。
いつも通り朝の支度をして、相変わらずだらしない妹に起きるよう声を掛け、玄関へと階段を降りる。
どうなるのか分からないが、本日は午前で授業が終わるため、いつもより幾分か軽い荷物を持って学校へと向かう。
昨日は慣れないことや予想外のことに見舞われたが、登校する生徒はいつもと変わらぬ騒がしさだった。
しかし、いつもと違うところもあった。警備員の数が、いつもは校門に一人いるだけなのに今日は校門に二人、校内に二人とかなり多くの配置がなされている。さらにいえば、近くの交差点にはお巡りさんが立っており、パトロール中のパトカーも頻繁に交差点を走っていた。
これらの警備強化は、おそらく夏休みの開始に合わせたものではなく、前担任の乙訓先生の娘さんのことがあったからであろう。
駐輪場に乗ってきた自転車を停めて、鍵を掛けて昇降口へ向かう。すると、この早い時間に珍しく、友人の相澤くんと福田くんが話をしていたので、声を掛けることにした。
「おはよう、珍しいねこんな早くに」
「お!悠君!おはよう!いつもこんな早い時間なの!?」
「あ、悠、おはよ。僕ら今日は親に送ってもらったんだ。電車が人身事故で止まっちゃって」
「俺は遅れて行けばいいって言ったんだけど、たまたま休みだった親が電車止まってるの知っちゃったから半ば無理やりに送られたってワケ」
「あはは、相澤くんにとっては災難だったね」
三人でケラケラと笑いながら、職員室に寄って教室の鍵を借りて教室に入る。乙訓先生の娘さんの事故の際に置いてあった花は撤去され、いつも通りの教室が待っていた。
他に早く来た生徒は居らず、福田くんの話によるとこのクラスの大半は電車通学らしいので今日は八割くらいの生徒は来ないんじゃ無いか、との事だった。
僕はチャンスだと思った。
正直、僕は嘉根さんのことを何も知らない。相澤くんや福田くんはなんだかんだと他の生徒とよく喋っているので、嘉根さんの事を聞けば何か知っているかもしれない。
淡い期待を抱いて、いつものように三人で椅子を持ち寄って話を始めた。
「ねぇ、きみ達に聞きたいことがあってさ、……嘉根さんの事なんだけど」
僕がそういうと下卑た顔で茶化されるかと思いきや、二人は顔を合わせて無言でうなづきあい立ち上がった。
そこまで拒否しなくとも、と抗議をするべく口を開こうとすれば、福田くんがスッと口に手を当てて開かないようにしてきた。
もしかすると、僕の友人達はかなりの情報を持っているのかもしれない。
抵抗を止めると、相澤くんが手招きをして教室から出るように催促してきた。福田くんも同じように僕の手を引き、なるべく音を立てないようにか、椅子も引かずに動くよう指示されて教室の戸もゆっくりと閉め廊下へと出た。
二人が歩いて廊下の一番奥、非常出口がある手前まで来たところでようやく口を開いた。
「ここまで来れば聞こえないかな」
「……相澤くん、福田くん、どういう事?」
「いや、俺らもよく分かってないんだけど、嘉根さんが机に盗聴の機械を仕込んでいるのは間違いないんだよ」
「恋人の愚痴、聞かれたく無いだろ」と微妙に勘違いをしていたようだが、かなりありがたい気遣いをしてもらっていたようだ。あのまま嘉根さんが怪しいと話していれば、僕は金や権力でどうかなっていたかもしれない。
廊下で壁にもたれて、相澤くんと福田くんには話しておこうと思い、全てを打ち明けることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます