第16話
「えっ!兄ちゃんの学校じゃん!」
「ほんとだ、全国大会出場者の報道なら大会の近い時期にするから少し後だろうし……」
「いよいよ先生の誰かが犯罪したんじゃないの!?前も都内の学校で痴漢で捕まった先生がいたじゃん」
「あぁ……」
そんな事はない!とは言えないのが辛い。人間は誰しも罪を犯す可能性を秘めている。
頼むから佐々木先生ではない事を祈って、ニュースの続きを待つ。ニュースキャスターは深刻そうな顔を作って、手元の原稿をたまに見ながら報道を続ける。
「都内で高校教師を勤める乙訓信彦氏の10歳の娘の行方不明が続いておりましたが、本日頭部の無い死体が発見されました。警察は事故から殺人事件に切り替えて捜査にあたっています。犯人は未だ見つかっていません」
続いてのニュースです、と淡々と次の話題へと切り替わる。思わず妹も僕も言葉を失い、呆然としていた。
あの日、乙訓先生の元気が無かったのは娘さんが行方不明になったから。そしてそれは家出などによる行方不明ではなく、残虐な犯罪の被害に遭っていたのだ。
いくら生徒に感情をぶつける先生だったとしても、お世話になった先生だ。身近な人間が犯罪に巻き込まれると、人間パニックになるものだとどこか冷静に考えながらいれば、妹が声を掛けてくる。
「ねぇ、兄ちゃん。乙訓先生の娘さんって、交通事故に遭ったんじゃなかったの」
「……お前はそう言ってたな。」
いや、待て。乙訓先生の娘が交通事故に遭ったとされる情報を、妹は一体どこで知ったのだろう。教室に、飾られていたあの不謹慎な花の違和感と重なって嫌な予感がした。
「……なぁ、お前はどこでその事を知ったんだ。友達に聞いたって言ってたけど、その友達の名前を教えてくれないか」
「えぇ、でも、友達って言ってもオープンチャットで知り合っただけなんだもん。」
スマホを片手でスイスイとスワイプし続けて、ある画面を僕に見せてくる。
都内高校情報網完全版
そう書かれたオープンチャットグループは、百名を超えるアカウントが参加している表記がされていた。
そのメンバーリストを開いて、妹は続ける。
「これで毎回誰も知らない情報を流してくれる人がいるの。私の行ってる中学だったり、兄ちゃんの学校の情報だったりが多いから、毎回いいねしてたら向こうからメッセージ飛ばしてきてくれて。そこからオプチャじゃなくて個人的に耳寄り情報教えてもらってるの。」
妹の想像以上に危機感が無い行動に頭を抱えつつも、両親も僕も忙しくてネットにどっぷりと浸かってしまうのも無理はないか、と今後の課題として今は一旦置いておくことにした。
それよりも、その情報提供者がどうにもきな臭い。何故僕の通う高校と妹の通う中学の情報が多いのか。考えられる事は卒業生であったり、今現在通っていたり、であろう。
しかし、僕は今、夏休みの件で嘉根さんを疑っている。
佐々木先生の言うように、嘉根さんが夏休みの騒動を自ら引き起こしたのだと言うのなら。
嘉根さんが学校の権力者を動かすほどの力を持っているのなら。
もしかするとこの乙訓先生の件も、と考えるが、流石に夏休みが無くなるという騒動を引き起こすようなイタズラと殺人は別ものだろう。
少しでも疑ってしまった僕も倫理観を改めなければならないな、と思いながら妹のオープンチャットグループを後で調べると決めた。
妹に軽く危ない事には首を突っ込まないように注意して、先に風呂に入るように促す。食べ終わった食器を洗って伏せて乾かして部屋に戻る。
鍵が開く音がして、両親が珍しく二人揃って帰ってきた。なにやら先ほどの物騒なニュースの影響を受けて交通規制やパトロールが強化されており、駅が混雑していたらしい。
両親の愚痴を聞きながら、僕は再び両親の食事を用意するべく食卓へ向かった。
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