断崖裁判
椋鳥
断崖裁判
「刑に処す」
厳かな男の声が、静寂と喧騒の合間を縫うようにして、この場所に響き渡る。
「断る」
さながら運命に抗う勇者のような目つきで、僕は群衆を睨む。この場の誰も、僕を裁けないし、僕を貶められない。
「執行せよ」
詠唱が始まる。そう錯覚してしまうほど男の発音は異常だった。
「なんでだよ」
黒服の男に体を押さえられながら、僕は叫ぶ。上の歯と下の歯が上手くかみ合わないのに、無理やり食いしばったからか、顎がしんどい。
「連れて行け」
きっとまた、地獄が始まる。そんなのはもう、こりごりだ。関節という関節が悲鳴を上げて、僕を縛る。
「よいしょ」
まるで荷物のように、担ぎ上げられる。指先一本動かせずうめき声が出る。いや、空気の塊を連続で出しているだけか。
「安心しな」
僕を担いでいる鉄甲冑の男が、朗らかに言う。なにに安心すればよいのか、いまいちよくわからない。
「全部にさ」
男が言うと、僕たちを閉じ込めていたこの場所の壁が倒れていく。
「はじめよう、本当の裁判を」
不自然に曲がった視界から見える人々の顔。それに浮かぶのは驚愕であったり恐怖であったり、けれど一つ共通しているのは目一杯に表情を動かしていることだけだ。
「刑に処す」
その言葉がすべてを飲み込んだ。
断崖裁判 椋鳥 @0054
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