ダフネ

沈丁花の香りに誘われて

見知らぬ路地へ足を踏み入れた

細い道に惑いながら

深紫の彩りを胸に描く


切れかけた電灯が

墨染の時と争っている

目をこらして明暗の境をさぐり

手のひらを翳せば

格子戸の影もゆらめく


沈丁花のことを英語でダフネという

ギリシャの神話では

アポロンの愛をこばんで月桂樹に姿を変えた


追えば樹木になるというのなら

僕を誘う香りは何故あふれているのか


その時、電灯が夜とのせめぎあいに負け

またたく間に檳榔子染のとばりに包まれた

くらやみに慣れてくると


格子戸の角、板塀の陰にその姿をみつけた

追うのをやめたので現れたのか

闇の町なみに空だけが柔らかくあかるい


きみは樹木になったことを悔やんでいないか

神は乙女を追いつめたことを悔やんでいないか


僕は僕ゆえに悔やんでばかりいる

沈丁花にみちびかれて来た道をもどる

惑うこともいのちに許された枝道

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