# 第2章:深層侵入
*健太は物語の続きを読むことにした。*
*画面には新しい文字が現れ始めた。*
---
## 『健太の物語』の中の物語
*健太がアプリで読み始めた物語には、もう一人の大学生が登場した。*
*その学生の名前は翔太。彼もまた、図書館で不思議な体験をしていた。*
*翔太のスマホにも、謎のアプリが現れていた。*
*そのアプリは翔太に言った:*
*「あなたの集中力を測定しました。平均持続時間:7.9秒」*
*翔太は驚いた。健太と似たような数字だった。*
*そして、翔太も物語を読み始めることになった。*
---
拓海は混乱した。
物語の中の健太が読んでいる物語に、さらに翔太という人物が出てきている。
つまり、今自分が読んでいるのは...
1. 拓海が読んでいる「健太の物語」
2. その中で健太が読んでいる「翔太の物語」
二重構造?
でも、なぜか面白い。翔太がどんな体験をするのか気になる。
---
## 『翔太の物語』の中の物語
*翔太が読み始めた物語は、さらに奇妙だった。*
*そこには「涼太」という大学生が登場した。*
*涼太もまた、図書館で同じような体験をしている。*
*彼のスマホにも同じアプリが現れ、同じような提案をされていた。*
*「物語を読んでみませんか?」*
*涼太は承諾し、物語を読み始めた。*
*その物語のタイトルは...*
*「ある読者の物語」*
---
「え?」
拓海は声を上げそうになった。
三重構造になっている。
1. 拓海が読む「健太の物語」
2. 健太が読む「翔太の物語」
3. 翔太が読む「涼太の物語」
頭がくらくらしてきた。でも、なぜか読むのをやめられない。
---
## 『涼太の物語』の中の物語:「ある読者の物語」
*ある人が、スマホで小説を読んでいた。*
*その小説は不思議な構造をしていた。*
*小説の中の登場人物が、さらに別の小説を読んでいる。*
*その小説の中の登場人物も、また別の小説を読んでいる。*
*まるで、ロシアの入れ子人形のように。*
*そして、その読者は気づき始めた。*
*自分が読んでいる小説の構造と、*
*小説の中で描かれている構造が、*
*同じだということに。*
*つまり、その読者は...*
*物語の登場人物なのか?*
*それとも、現実の読者なのか?*
---
拓海の心臓がドキドキし始めた。
まさか。
自分のことを言っているのか?
拓海は今、スマホで小説を読んでいる。
その小説は確かに入れ子構造になっている。
そして、その小説の中で、まさに「入れ子構造の小説を読む読者」の話が描かれている。
境界が分からなくなってきた。
どこまでが小説で、どこからが現実なのか?
---
*その読者は混乱した。*
*でも、同時に気づいた。*
*今、かつてないほど深く集中していることに。*
*30分間、他のことを一切考えずに、*
*文字を追い続けていることに。*
*スマホの画面を見ているのに、*
*まるで分厚い本を読んでいるような感覚。*
*時間を忘れて物語に没入する、あの感覚。*
*小学生の時に味わった、*
*図書館で本を読みふけった時の、*
*あの感覚を思い出していた。*
---
拓海はハッとした。
確かに、今の自分の状態がそれだった。
時計を見ると、35分が経っていた。
35分間、レポートのことも、SNSのことも、YouTubeのことも忘れて、この画面だけを見続けていた。
いつの間にか、姿勢も変わっていた。
背筋を伸ばして、画面に向かっている。
まるで、本を読んでいる時のように。
---
*そして、その読者は理解した。*
*スマホは、最高の読書デバイスになりうるということを。*
*問題はデバイスではない。*
*問題は、何を読むかだった。*
*短い投稿、断片的な情報、瞬間的な刺激。*
*それらばかりを求めていたから、*
*集中力が削がれていただけだった。*
*でも、じっくりと読むべき物語があれば、*
*スマホでも深く集中できる。*
*長時間没入できる。*
*本来の「読書」ができる。*
---
物語が一時停止した。
画面に、例の白い文字が現れた。
**『どうですか?』**
**『今、あなたが体験していることです』**
拓海は息を呑んだ。
確かに、今まさにその通りの体験をしている。
**『あなたは今、35分間集中しています』**
**『スマホで、小説を読んで』**
**『物語の中の物語の中の物語を理解し、』**
**『現実と虚構の境界を考えながら、』**
**『深く没入している』**
**『これが、本来のあなたの能力です』**
拓海は鳥肌が立った。
**『小中学生の頃を思い出してください』**
**『夏休みの図書館で』**
**『お気に入りの小説を見つけて』**
**『時間を忘れて読みふけった時のことを』**
記憶が蘇ってきた。
小学5年生の夏。図書館で『ハリー・ポッター』を読んだ時。3時間ぶっ通しで読んで、母親に怒られた。
あの時の感覚。
今、まさにそれを体験している。
**『あなたは読書家だったのです』**
**『ただ、読むべき物語を見失っていただけ』**
**『スマホが悪いのではありません』**
**『スマホで何を読むかが、問題だったのです』**
拓海は深く頷いた。
理解できる。完全に理解できる。
**『物語の続きを読みますか?』**
**『それとも、ここで現実に戻りますか?』**
拓海は迷わずタップした。
「続き」を。
---
## 【物語継続 - 第4層】
*涼太が読んでいた「ある読者の物語」は、さらに続いていた。*
*その物語の中で、読者は新しい発見をしていた。*
*「読書」の再定義を。*
*読書とは、紙の本を読むことではない。*
*読書とは、文字を通して物語世界に没入し、*
*作者の思考を追体験し、*
*自分の内面と対話することだ。*
*媒体は関係ない。*
*紙でも、スマホでも、タブレットでも。*
*大切なのは、どれだけ深く読むか。*
*どれだけ長く集中するか。*
*どれだけ真剣に向き合うか。*
---
拓海は感動していた。
まさに、今の自分が証明している。
スマホで、これほど深く集中して読書ができる。
40分間、完全に没入している。
---
*そして、その読者は決意した。*
*スマホの使い方を変えよう。*
*SNSやゲームに費やしていた時間の一部を、*
*読書に充てよう。*
*短い刺激ではなく、長い物語を。*
*断片的な情報ではなく、構造化された知識を。*
*受動的な消費ではなく、能動的な思考を。*
---
画面が再び白くなった。
**『いかがでしたか?』**
**『4層の入れ子構造を、最後まで理解できましたね』**
**『これは高度な読解力です』**
**『40分間の集中力も、見事でした』**
**『あなたは確実に、読書能力を取り戻しています』**
拓海は満足感に包まれた。
久しぶりに、頭を使った充実感。
知的な疲労感。
そして、物語を完全に理解できた達成感。
**『でも、ここで終わりではありません』**
**『本当の変化は、これからです』**
**『次の段階に進む準備はできていますか?』**
拓海は画面を見つめた。
まだ続きがある。
もっと深い世界がある。
そして気づく。
今の自分は、完全に変わっている。
40分前の自分とは、明らかに違う。
集中している自分。
深く考えている自分。
物語を愛している自分。
本来の自分を、取り戻している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます