第3章:覚醒

画面に新しいメッセージが現れた。


**『拓海さん、少し休憩しませんか?』**


「え?」


拓海は画面から顔を上げた。図書館の時計を見る。


3時間が経っていた。


3時間?


嘘だろう。さっき2時頃に来たと思ったのに、もう5時を回っている。


**『驚いていますね』**


文字が現れた。まるで拓海の表情を見ているように。


**『でも、それが正常な反応です』**


**『深い集中状態では、時間感覚が変わります』**


**『本を読みふけっていて、気づいたら何時間も経っていた』**


**『そんな経験、子供の頃にありませんでしたか?』**


確かにあった。図書館で本を読んでいて、閉館時間になって驚いた記憶がある。


**『今、あなたは久しぶりにその状態を体験しました』**


**『しかも、スマホで』**


拓海は自分のスマホを見下ろした。


いつの間にか、持ち方が変わっていた。片手でだらっと持つのではなく、両手でしっかりと持っている。まるで本を読む時のように。


姿勢も変わっていた。背筋を伸ばして、集中している。


**『気づきましたか?』**


**『あなたの姿勢の変化に』**


まるで心を読まれているようだった。


**『3時間前のあなたを思い出してください』**


**『ベッドに横になりながら、片手でスマホをいじっていた』**


**『5分おきに他のアプリに切り替えて』**


**『何も考えずに、ただ刺激を求めていた』**


**『でも、今は?』**


拓海は考えた。


確かに、今の自分は全く違う。


真剣に読んでいる。深く考えている。物語の意味を理解しようとしている。


**『あなたは変わりました』**


**『たった3時間で』**


**『いえ、正確には』**


**『あなたは元に戻ったのです』**


**『本来のあなたに』**


拓海の胸が熱くなった。


**『ここで、重要な質問をします』**


**『今のあなたと、3時間前のあなた』**


**『どちらが本当のあなたですか?』**


答えは明確だった。


今の自分だ。


集中している自分。深く考えている自分。物語に没入している自分。


こっちが本当の自分だ。


**『正解です』**


**『SNSを見続け、短い動画を消費し続けている時の自分は』**


**『本当のあなたではありません』**


**『それは、現代社会が作り出した「偽のあなた」です』**


**『本当のあなたは』**


**『深く考え、長く集中し、物語を愛する人間です』**


拓海は涙が出そうになった。


**『でも、ここで終わってはいけません』**


**『この気づきを、一時的なものにしてはいけません』**


**『今の状態を、日常に持ち帰る必要があります』**


そうだ。拓海は思った。この感覚を忘れたくない。


**『そのために、具体的な提案があります』**


画面が変わった。


## 『スマホ図書館の作り方』


### ステップ1:アプリの整理

- SNSアプリを2ページ目に移動

- 読書アプリを1ページ目に配置

- 通知をオフ設定


### ステップ2:読書アプリの選択

- Kindle

- Apple Books

- 楽天Kobo

- その他電子書籍アプリ


### ステップ3:時間の置き換え

- 通勤中:音楽→読書

- 待ち時間:SNS→読書

- 寝る前:動画→読書


### ステップ4:環境設定

- 読書専用の姿勢を作る

- 集中できる場所を見つける

- 読書時間を決める


拓海は画面を食い入るように見た。


どれも実践できることばかりだ。


**『難しくありません』**


**『今まで5時間SNSに使っていた時間の』**


**『1時間だけを読書に変えるだけです』**


**『1時間あれば、短編小説なら1本』**


**『長編小説なら1週間で読み終えます』**


**『1年間で50冊以上読めます』**


50冊?


拓海は驚いた。今まで年間1冊も読んでいなかったのに。


**『そして、あなたは気づくでしょう』**


**『読書が、人生を豊かにすることに』**


**『語彙が増え、思考が深くなり、想像力が豊かになることに』**


**『他人との会話が深くなり、物事の見方が多角的になることに』**


拓海は想像した。


読書家の自分を。


深く考える自分を。


知的な会話ができる自分を。


魅力的だった。


**『でも、最も重要なのは』**


**『集中力の回復です』**


**『今日、あなたは3時間集中しました』**


**『これは、あなたの潜在能力です』**


**『読書を続けることで、この集中力は日常生活にも適用されます』**


**『勉強、仕事、人間関係』**


**『すべてが変わります』**


拓海は興奮していた。


可能性が見えてきた。新しい自分の可能性が。


**『ただし、一つだけ注意があります』**


**『最初の1週間が勝負です』**


**『古い習慣が、あなたを引き戻そうとします』**


**『SNSの誘惑、動画の誘惑、ゲームの誘惑』**


**『それらに負けず、毎日少しずつでも読書を続けてください』**


**『21日間続けば、新しい習慣として定着します』**


拓海は決意を固めた。


やってみよう。


本当の自分を取り戻すために。


**『素晴らしい決意ですね』**


また心を読まれた。


**『それでは、最後に一つ』**


**『今の気持ちを忘れないために』**


**『今の感覚を言葉にしてみてください』**


**『心の中で構いません』**


**『「今の自分はどう感じているか」』**


**『「3時間前の自分とどう違うか」』**


**『「これからどうしたいか」』**


拓海は考えた。


今の自分は...満足している。充実している。生き生きしている。


3時間前の自分は...空虚だった。受動的だった。何も考えていなかった。


これからは...読書を続けたい。この感覚を維持したい。本当の自分でいたい。


**『その気持ちを、大切にしてください』**


**『それが、あなたを支える力になります』**


**『そして、覚えておいてください』**


**『今日という日を』**


**『あなたが本当の自分を取り戻した日として』**


拓海は深く頷いた。


忘れない。絶対に忘れない。


この感覚を。この決意を。この瞬間を。


**『それでは、物語を完結させましょう』**


**『あなたの新しい物語の、始まりとして』**

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