第3話お母さんの暗闇

トイレを出た僕の目の前にいたのは優しいお母さんでは無かった。

雷の様に怖いお母さんでも無かった。

顔は笑っている。

保育園の先生と話している時のお顔。

でも違う。

目の下が黒くて綺麗なワンピースを着ている。

この時のお母さんは雷よりもものすごく怖い。

お布団の外の暗闇に飛び込むよりも怖い。

このお母さんは好きじゃない。

でも僕はお母さんが嫌いになれなかった。

今もまだどこかで優しいお母さんを探している僕がいるのがわかる。

久しぶりに母さんのことを思い出した。

今も思い出すと体がすくむ。

頭ではわかっていても脳と体にこびりついた十年間が一瞬の記憶にも反応してしまう。

こうなると僕はしばらくその場を動けなくなってしまう。

脳がずっと母さんの情報を消そうと動いている。

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