わたしはすでに死んでいる

@Naturu1743

第1話

その日はいつもと変わらない日。のはずだったんだ。その日、僕はいつもより少しだけ早く起き、そしていつもより少しだけ早く学校に着いた。「今日は遅刻してへんな」と頭の中で独り言のようにそう思った。それくらい僕の日常はその日も当たり前のように過ぎるはずだと思っていた。というかそんなことも考えていないくらい、当たり前の日常になんの感謝もありがたさも感じていなかった。


授業中に知らない記憶が流れてくるまでは。


それは突然僕の中に侵食してきた。

その記憶は苦しそうな誰か(名前も知らない誰か)の悲痛な叫びだった。それから声が聞こえた。

「俺の人生と変わってくれ」と聞こえた。


僕はその提案を受け入れてしまった。拒否することは出来なかった。もしかしたら心のどこかで自分の平凡な毎日を変えたいと望んでいたのかもしれない。それにこの人は苦しんで今にも死んでしまいそうだと思ったのだ。だったら僕にできるのはそのお願いを受け入れてやることだと思った。その人は一瞬嬉しそうに笑った。

そして、入れ替わりが起きた。


正確に言うと僕は僕のままでその人もその人のまま、人格だけが入れ替わった。


その日から僕の人生は僕ではない誰かのものを生きているようだった。僕は僕を僕たらしめていたものはその人に変わった。しかし、身体は僕で、見た目も僕のまま。形はそのままで中身だけが違う誰かになったようだった。僕という存在が僕のなかに占める割合が小さくなったという感じ。だから完全にその人になった訳じゃない。しかしそれがまた僕を苦しめることになるとは知らなかったのだ。その日の僕は何かがおかしかった。


その日から僕は自殺未遂を繰り返した。何故か自分でも分からない。

その人を僕だとみんな、信じた。


今これを書いているのは僕だけど、日常を送っているのは僕じゃない。入れ替わったその人だ。

そして厄介なのは、その人が時々”自殺”を試みようとしてしまう所だ。自殺未遂を繰り返すようになったのは多分その人の希死念慮を受け継いでしまったからだと最近、分かった。


今となってはあの人(僕ではない人)は僕の人生をめちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃにした当本人なのだが、僕はそれをずっと、認めたくなかった。記憶を書き換えて、最初から僕の人生はこうだった、、、と信じようとした。僕は僕のたった一回の決断でこうなったと信じたくなかった。あの人のお願いを聞いたことでこんなことになるなんて想像していなかった。


わかる通り、これは僕の自伝であり、セミファクションとして書いた作品だ。僕の人生を大きく変えた出来事をフィクションを混じえて書いたつもりだ。多重人格を元にして書いたのもある。こんな感覚で生きてるひともいるんだなくらいで読んでいただけたら幸いだ。


最後に、「わたしはすでに死んでいる」というタイトルは僕のことを言い表す言葉としてかなり的を得ていると思ったのでこれにした。タイトルがこの文章全てを言い表している。

それから、僕が一番この小説で問いたいのは、「自分を自分としてたらしめているものとはなんだろう?」「なにを持って自分としているのだろう?」ということだ。この問いは多重人格者じゃない人にも関係していると思うのだ。僕らは案外脆い生き物で、自己とは簡単に崩壊する。そんなものなのだ。ということをここに残しておく。それが自分を救うことに繋がるような気がするから。






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