第3話 日陰の少女【インウィディア・開拓区】
「とまあ言ったものの、当面は情報収集に徹するぜ。この星についてからというもの、魔物に食われては森の奥で復活を繰り返してきたからな。ここまで来られたのも久方ぶりだ、最新の情報がほしい」
「わ、わかった! じゃあわたしも……」
言いかけたその時、目の前を同じくらいの背丈の少年少女たちが駆け抜ける。
「あ、ごめんなさい!」
すれ違いざま、女の子の腕がリメアにぶつかった。
女の子は慌ててこちらを振り向き、ペコリとお辞儀する。
「だ、大丈夫! 気にしないで」
リメアはブンブン首と手を横に振った。
「あれ? あなたキャラバンの子? そのお洋服とってもかわいい!」
「え? わたし? えと、うん、そう。そんなかんじ!」
少し照れながら歯切れ悪い返事をするリメアを見て、女の子は目を輝かせる。
「やっぱり! 実は今みんなで遊んでるんだけど女の子の数が足りなくって、押されてたの! よかったら手伝ってくれない?」
「え、あ、でも……」
急に遊びに誘われ、アーヴィに目線を送るリメア。
「はっ、いいんじゃねぇか? そっちはそっちでいろいろ聞いてこいよ。俺は俺で勝手に動く。今日は夜がある日だ。夕方この噴水前に集合な」
「え、えー?」
ひらひらと手を振り、背を向けて立ち去るアーヴィ。
隣を見れば、満面の笑みを浮かべている少女がいた。
「来てくれるってことよね?」
「う、うん。じゃあ、行く!」
「やった! 今英雄と魔王に分かれて戦ってるんだけど、男の子が英雄ばっかりやりたがって困ってたの!」
「英雄? 魔王?」
首を傾げるリメアに、女の子はうーんと考えて、わかりやすく説明してくれた。
「えっとね、魔王はこの町中に隠れるの。英雄はそれを見つけて背中にタッチ。魔王は見つかったあとでも逃げていいけど、一度隠れたらその場所を移動しちゃだめなの」
「ふんふん」
頭の中で、リッキーが割って入ってくる。
「なるほド、かくれんぼと鬼ごっこヲをミックスしたような遊びデスね!」
(そうみたい! 楽しそう!)
少女はリメアの手をとって走り出す。
「こっちに来て! みんなに紹介してあげる!」
「うん!」
リメアは元気よく返事を返し、一緒に駆け出した。
「リメア様、楽しむのは結構ですガ、情報収集も忘れないでくださいネ」
(わかってるよ! でも、もうわかったことがあるよ!)
「なんでショウか」
(この星では、子供が笑ってるの!)
水気を含んだボブが勢いよく足を前に出すたびに、首元で跳ねる。
雨上がりの町には至るところに水たまりができていた。
水面には青空が反射していて、リメアたちは白い雲を順番に踏みつけながら進んでいく。
たっぷり遊びながらお菓子屋の前までたどり着くと、そこには同年代らしい9人の子供が集まっていた。
こちらに気づいてちょっと驚いたような顔をしている。
「どうしたの、その子」
「女の子少ないから、誘ってきたのよ!」
女の子から目配せをされ、準備していた挨拶をするリメア。
「あ、あの! はじめまして、リメアって言います! よ、よろしくね!」
「いーよいーよ、そんなにかしこまらないで!」
「男5、女5でちょうどいいな。さっきは女子が負けたから、魔王組継続な!」
「えー! 英雄と魔王は交代ごうたいにしようよー!」
きゃいきゃいと言い争う少年少女。
(こ、子供がいっぱい……!)
大人数の輪に入るのが初めてのリメアは、どうすればいいかわからなかった。
にこにこと笑顔を振りまきながら、必死で話についていこうとする。
しかし既に出来上がった関係の内輪トークに、置き去りにされてしまった。
結局リメアはなにも発言できないまま、少女たちの議論を見守る。
すると先程リメアの手を引いた少女が、流れを断ち切って注目を集めた。
「ねぇちょっと! せっかく新しい子が来たんだから、こっちに英雄をさせてくれてもいいんじゃない?」
これには威勢良かった少年たちも言い返せなかったのか、それぞれ顔を見合わせて小さく頷いた。
「じゃあ、その子……リメアちゃんを含めて、今回だけは女子が先に英雄な。俺達が魔王になるけど、お前ルールは知ってるのか?」
「もう教えてるよ、ね?」
「う、うん! 隠れた魔王を見つけて背中をタッチすればいいんだよね?」
急に話を振られてあたふたしながらリメアが返す。
「あと、雨が降ったらそこで終わりで、このキャンディーショップの前に集合な! 魔王を全員捕まえられなかったら魔王の勝ち、雨までに英雄が捕まえきったら英雄の勝ちだ! じゃあ俺達は隠れようぜ!」
言いながら少年たちは一斉に駆け出し、四方に散らばった。
残された女子たちは顔を見合わせる。
「ほんと男子たちってば」
「こうでもしないと英雄譲ってくれないんだから」
「魔王ばっかり飽きちゃうよ」
「ねー!」
少女たちが口々に愚痴をこぼすのを、リメアは愛想笑いしながら隣で見守った。
「みんな、手を出して!」
ひとりの少女が手を前に出すと、他の少女たちも集まってきて円陣を組む。
「あなたも、ほら!」
促されるままリメアも輪に入り、最後に自分の手を皆の手の上に乗せた。
「男子たちを全員捕まえるよ! えいえいおー!」
「おー!」
5つの小さな手が空に向かって掲げられる。
それを合図に全員が一斉に背を向けると、別々の方向へと散らばった。
「み、みんなの自己紹介聞く前に始まっちゃった……!」
ぽつんと残されたリメア。
女子のひとりが気づいて振り返り、通りの向こうから声を投げてよこす。
「ボーっとしてたらすぐまた雨が来ちゃうよ! 早く早く!」
「わ、わかった!」
リメアも他の子達を見習って、その場を後にした。
が、かくれんぼ鬼はリメアの想像以上に難しかった。
「行き止まり……!」
路地裏に入ったリメアの前には、建物の壁。
「こっちも!」
店の裏手には柵。
「うーん」
倉庫とお店の間の道はパイプで通れない。
開始地点からまだそれほど離れて以内にも関わらず、立て続けに袋小路へと突っ込んでしまう。
「まだ町の構造に慣れてないから……! えへへ、ちょっとだけ、ちょっとだけ!」
そうひとりごとを呟いて人の目がないことを確認すると、リメアはぴょんと屋根に飛び乗った。
「見晴らしがいいのは……あそこだね!」
町のシンボルで1番の高所、雨降らしの大樹へと駆けて行く。
樹に近づけば近づくほど建物の足場は減っていき、代わりにせり上がった根がどんどん膨らんでいく。
「この樹、近くで見たらめちゃくちゃ大っきい……!」
やっと幹下までたどり着くと、リメアは大樹を見上げながら胸を膨らませる。
(アリシア。わたし今、すごくドキドキしてる。こんな景色、フェニスにいただけじゃ見られなかった。いつかあの星に帰ったとき、初めての木登りがこんなに大きな樹だったってこと、お話したいな……)
リメアはでこぼこな木の表皮に手をかけ、樹の幹をスルスルとよじ登っていく。
ちょうど雨を知らせる鐘の真下まで登り切ると、リメアは片手で幹に張り付いたまま、振り向いて町を一望した。
巨大な樹の根を境界壁代わりに、町は樹を中心にぐるりと発展していて、外側へ向かって放射状に広がっている。
根がちょうど地面の下に隠れる先端付近同士を繋ぐように、外壁で円を描くように町は囲われていた。
「下からだ見えなかったけど、根っこの向こうは全然景色が違う……! あっちは工場がいっぱい。反対側は畑でいっぱい!」
先程までリメアがいた居住区とは様変わりし、地表にせり上がった根を挟んで町はきれいに区分けされていた。
工場は子供が走り回っている様子はなく、畑の方は主だった建物が少なく、かくれんぼには適さない。
つまり子どもたちが隠れられる範囲は、いまリメアの眼下にある居住エリアに限られている。
「ということは覚えるのは……この区画だけだね!」
リメアは目を凝らし、居住区の構造を頭に叩き込む。
子供が隠れられそうな場所、行けそうな場所がいくつも見つかった。
「えへへ、じゃあいくよー……!」
リメアはぐっと身体を幹に寄せた後、バネのように樹を蹴飛ばして樹の根っこへ飛び降りる。
そのままの勢いでぴょんぴょんと建物の屋根へと移り、狙いをつけた最初のポイントへ。
回り込むようにして、軒先のオーニングテントをクッションに一回転しながら大通りに着地する。
「怪しい場所ひとつめ……あ! みーつけた!」
最初の少年は大通り沿いにあるお店の脇、大きな水瓶の後ろに隠れていた。
「わっ、見つかった! お菓子屋から結構離れたはずなのに!」
少年は見つかったとわかるやいなや脱兎のごとく走り出す。
「あ、そっか、見つけたあとタッチしないといけないんだった!」
少年は小気味よく靴音を跳ねさせながら、へへん、と横顔で振り向き笑う。
「見つけたときに捕まえなかったのが運の尽きさ! あの中でおいらが1番足が速いんだ! そんなフリフリがついた服で追いつけるかよ――」
「はい、タッチ」
「え」
驚愕に目を見開いた少年の顔が、油の刺されていない扉のように、ぎぎぎ、と正面へと向けられる。
そこにはフリルの付いたワンピース姿の少女が、にっこり微笑んで立っていた。
リメアはポンポン、と少年の肩を叩くと、次の獲物を探しに走り出す。
「嘘……だろ……」
背後で膝をつく少年を置き去りにしながら。
そこからはワンサイドゲームだった。
どんなに足が早くても、どんなに隠れるのがうまくても、片っ端からリメアが見つけ、追いかけ、背中を叩く。
結局女子サイドの英雄ターンは、3度も継続することとなった。
「ちょ、ちょい待った!」
息を切らせた少年が手を挙げる。
「どうしたのかしら、魔王さん?」
女の子のひとりが、カールした髪の毛をくるくると指で絡めながら小首を傾げる。
「ひ、卑怯じゃないか? そ、その子強すぎだろ……!」
「あら、女子と男子に分かれて勝負しようっていい出したのはそっちじゃない? 数が揃ったら、私達だって負けないんだから!」
4人の女の子が腕を組んで男子たちを威嚇する。
いつの間にか、リメアは女王ポジションに立たされていた。
「数の問題じゃないだろ……明らかにその子が強すぎるんだって」
男子たちは路上にへたり込み、かんぜんに伸びている。
「もう、男子たちって元気良かったの最初だけじゃない。じゃあこうしましょ。勝った方からひとりずつ、負けた側に人が移るの。そうしていけば、文句ないでしょ?」
「た、助かった……」
さすがの女子もこれでは勝負にならないと思ったのか、バランスの調整がしやすいルールを提示した。
全員が納得したのを受け、ゲームが再開される。
しかしどれだけ女子が男子たちの魔王組に合流しても、リメアの一強状態は変わらない。
気がつけば、リメア対子どもたち全員の構図が出来上がってしまった。
「な、なにもんなんだあの子……!」
「私、すぐにみつかっちゃった」
「とんだ英雄を招き入れてしまったようね……!」
少年少女は各々がリメアを称賛する。
「えへへ……」
リメアは情報収集もそっちのけで、夢中になって遊んでいた。
太陽は西の空に差し掛かり、わずかに赤みを帯びている。
ハッとリメアはアーヴィとの約束を思い出した。
確か集合は夕方だったはず、と。
「あ、そうだ、次の回が最後になるかも!」
談笑している子どもたちにリメアが声を掛ける。
「うわ、もうこんな時間かぁ」
「そうだね、僕らも夕暮れ前に帰らないと怒られちゃう」
「えー、まだやろうよ! 次の次で最後!」
全員が頷き合い、次の次でゲームの終了が可決された。
9人の子どもたちが、四方八方へと走り出す。
すでにリメアは町を完全に把握していて、目をつぶっていても足音だけでみんながどこへ向かったかわかってしまう領域に達していた。
「わたしこそが真の英雄! 俊足のリメアが、魔王たちを全て斬り伏せて見せよう!」
みんなのごっこ熱がリメアにも感染しており、大仰な宣言とともに捜索を開始する。
「ひとり目ぇ!」
「うわぁ!」
「ふたり目!」
「ひぃっ!」
矢継ぎ早にこどもたちをみつけては、逃げる間もなく背中をタッチしていくリメア。
あっという間に8人の子供をキャンディーショップの前に送り込んだ。
「最後の子は……」
リメアはぺろりと唇を舐め、頭の中で町の3Dマップを立ち上げる。
探していない場所はもうあと僅かだ。
「そこだぁ!」
リメアは大声とともに、根っことお店の垣根の裏、人がひとり通れる程度の小道へ顔を出した。
「……っ!?」
そこにはオリーブ色の髪を三つ編みにした少女がいた。
細長い角材の上で、びっくり顔をこちらに向けて縮こまっている。遊んでいた少女たちとは別の子だった。
「あ……ごめん」
リメアが謝るとその子は胸をなでおろしながら、いいの、と小さく返して膝を抱える。
周囲を見回したが、垣根の裏にはその子以外、他には誰もいない。
日陰の中でひっそりと、まるで町全体から隠れているような少女だった。
きらり、とリメアの目が輝く。
「あなた、隠れるの上手ね! 今みんなと一緒に英雄と魔王ごっこして遊んでるの! わたしはリメアっていうの。あなたも一緒に遊ばない?」
「え……、でも、あたし……」
少女は俯き、膝を抱える手にぎゅっと力を込める。
そのまま返事が返ってくることはなかった。
リメアはこの町に来て、少女から強引に手を引っ張られたときのことを思い出す。
最初はびっくりしたが、今とても楽しい時間を過ごすことができている。
リメアは勇気を出して、伸ばした手で少女の腕を掴んだ。
「嫌じゃなかったら、一緒に遊ぼう?」
「う……うん……」
怯えと驚きが混じったような表情がこちらへと向けられる。
嫌がったり抵抗する様子はなかった。
リメアは掴んだ服の下の腕が、思いのほか細いことに少し戸惑ったが、少女が立ち上がったので改めて自己紹介をする。
「わたしはリメア。あなたは?」
「……カリネ」
「カリネ、カリネって言うのね! 素敵な名前ね!」
リメアが白い歯を見せて笑いかけると、カリネは少し恥ずかしそうに目を逸らす。
「行こっ!」
リメアはカリネを連れて、お菓子屋さんの前へと向かった。
集合場所には8人の少年少女たちがたむろして、手遊びをしたりキャンディーを眺めたりと思い思いの方法で時間を潰している。
「ごめん、遅くなっちゃった」
リメアが現れると、ひとりの少年が弁明する。
「すまん、ひとり抜けること言うの忘れてた! 店の片付けに呼び出されちゃったらしく、て……」
少年のセリフはリメアの後ろでモジモジしているカリネを見て、失速する。
「……」
先程まであれほど楽しそうにしていた全員が、困ったような表情を浮かべた。
リメアは自分がそうしてもらったように、カリネをみんなの輪に紹介する。
「この子、カリネっていうの。隠れるのきっと上手だから、一緒に遊べたらと思って……」
そこまで言葉を口にして、ようやくリメアは場の空気が変わったことに気がついた。
男子たちはため息をつき、腕組みをする。
女子たちは、ヒソヒソと耳打ちをし合っている。
「えっと、どうか、したの?」
リメアが尋ねると、少年のひとりがポリポリと頭を掻きながら前に出た。
「カリネだろ、知ってるよ。そいつ、走るの遅いし、体が弱いのかなんか知らないけどすぐうずくまるし、あんまり喋らないから別にいいよ」
「別にいいって……なにが……?」
聞き返したリメアに、少年はめんどくさそうに答える。
「いやさ、別に一緒に遊ばなくていいよって意味」
「そんな……」
リメアが絶句していると、背後で足音が聞こえた。
振り返ると、カリネの姿がない。
見回すと噴水の広場の方へヨタヨタと不格好に走る背中が見えた。
「ご、ごめんねみんな! ちょっと行ってくる!」
リメアは引き留めようとする子どもたちを振り切って、カリネを追いかけた。
「カリネッ!」
追いついたリメアは思わず声を上げた。
カリネは噴水の脇に座り込み、苦しそうに胸を押さえている。
呼吸は不規則で、額には汗が滲んでいた。
「おー、意外と早かったな」
噴水の縁に腰掛けていたアーヴィが、リメアに気づいて腰を上げた。
「あ、アーヴィ! この子、わたしのせいで……!」
「んあ? どうしたんだ?」
リメアはあたふたしながら事の顛末を告げる。
少女の顔色はどんどん悪くなり、唇は紫色に変わっていく。
「どうしよう、びょ、病院は?」
首を横に振るカリネ。
「いいの……」
彼女の目尻には涙が浮かんでいて、誰が見ても辛そうだった。
「良くないよっ!」
思わずリメアの声が大きくなる。
「手遅れになったら……手遅れになってからじゃ、遅いんだよ!? お父さん、お母さんはどこ? 早く知らせなきゃ!!」
「ダメ……」
カリネは頑なに首を縦に振らない。
ムキになったリメアは、彼女をひょいと抱きかかえる。
見た目の割に、体重がかなり軽い。
ゾクリ、とリメアの背中に悪寒が走った。
心と体が、サイレンを鳴らしている。この感覚を、リメアはすでに知っていた。
「おい、どうするつもりだ」
背後からアーヴィに呼び止められる。
「……手遅れになる前に、わたしがなんとかする」
「はぁ……」
アーヴィは盛大に溜息をつくと、リメアの肩に手を乗せ、ぐいと引き寄せてきた。
「あのなぁ、リメア。俺達は慈善事業をしにこの星へ来たんじゃねぇんだ。わかるよな? 目についた病人を、片っ端から治療しねぇと気が済まねぇのか? あぁ?」
「わ、わかってるよ! そんなこと! でも、この子は、わたしがもう関わっちゃったから!」
「わかってねぇよ、これっぽっちも。ったく、変わってねぇな。やるのは構わねぇが、人目につかないところでやれ」
「……あっちの路地裏に行く」
リメアはアーヴィの手を振り切り、遊んでる最中に見つけた人の出入りが極端に少ない路地へと向かう。
後ろからアーヴィがついてくるが、それを制止することはしなかった。
そんなことよりも、カリネのことが心配だった。
路地裏につき人目がないことを確認すると壁を背にカリネを座らせる。
彼女に目を開ける余力はなく、息も絶え絶えで相変わらず苦しそうだった。
「リッキー!」
ぽん、とリメアの体から飛び出した球体は、指示を出す前にカリネのスキャンを始める。
「どこか悪いところがあるなら、この場で知識回路と医療回路を使って……!」
躍起になるリメアの横でアーヴィは肩を竦める。
「どうにかならねぇのかよ、その神様気取りは。どれだけ自分が傲慢なことをしようとしてるか、わかってるのか、リメアさんよ」
「アーヴィは黙ってて!」
「はいはいっと。終わったら教えてくれ。入口、見張っといてやるから」
欠伸をしながら立ち去るアーヴィをキッと睨みつけながら、リメアはリッキーのスキャンを待つ。
「……リメア様、これハ……!」
リッキーのスキャンが唐突に終わる。
「どうだったの!?」
弾かれたように顔を上げたリメアへ、リッキーは告げる。
「典型的なチアノーゼ症状が見受けられマス。しかしリメア様。申し上げにくいデスが、この少女を治療することハ……」
ゴクリ、とリメアは自分の喉が鳴った音を聞いた。
食い入るように見つめた先の球体は、申し訳無さそうに続ける。
「できまセン……」
「どうして!? 手遅れってこと!?」
興奮したリメアは思わず立ち上がりリッキーに顔を近づける。
リッキーは少し下がった後、理由を説明した。
「リメア様、落ち着いて下サイ。彼女はアリシア様のような状態ではございまセン。栄養状態、疾病なし、健康体デス……」
「どういうこと? じゃあなんで、この子はこんなに苦しそうなの!?」
「リメア様、問題があるとするならバ、彼女自身の遺伝子デス。この症状は移民後の星では珍しいデスが、かつて多くの罹患が確認された症状デス」
「多くの……?」
「エエ、彼女の体は、ある意味正しく進化した人間のカラダ。宇宙に進出した人類が、無重力下に適応したカラダなのデス」
「それって、つまり……」
言葉を失ったリメアは、カリネを見下ろす。
落ち着いたのか、少しづつ呼吸のペースを取り戻しつつある彼女が、みじろぎする。
リッキーは頭を強く殴られたような衝撃に立ち尽くすリメアへ、宣告する。
「そう、彼女は星の重力下では生きていけないホド、心肺の成長が正しく遅れているのデス」
「……っ!!」
唇を噛み締めたリメアの脳裏に、アーヴィの言葉が繰り返される。
神様気取りかよ――。
リメアは、ただひとり拳を握りしめ、奥歯を噛み締めた。
「そんなんじゃ、ないもん……」
夕日色に染まった町の陰はより濃くなり、路地裏のリメアたちをその闇の中へと閉じ込めたのだった。
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