お風呂の思い出

「とりあえずシャワー浴びちゃいな。こっちこっち」


望は案内しようとするも、彼は自然とまるでこの家で暮らしてきたかのように望を追い越してテクテクと向かっていった。


なんで知ってんの⁇


望はそう不思議思いながら、ついていく。


しかし彼は風呂場の前につくと不思議そうに首を傾げている。


「あ…そこが風呂場のドアね。ちゃちゃっと適当に色々勝手に使っていいから体洗っててください。俺は君のせいで汚れた服着替えてるからじゃっ…あっタオルとか服はあとで俺持ってくからお気になさらず…でわ…」


望はさっさと着替えたくて早口で言うとその場を去ろうとした。


『僕…お風呂場行ったことない。いつも濡れちゃうからダメって連れてかれちゃうのママさんに…と言うか体洗うって⁇どうするの⁇洗濯機ならわかるけど…』


ピノと名乗った青年はそう言って難しそうな顔をする。


「なっ、何言ってんの⁇見た感じ大人だよね⁇君…もしかして記憶喪失でとか⁇と言うかまるで元々ぬいぐるみだったようなこと言っちゃって…」


望は思わず笑いながらツッコミを入れた。もし記憶喪失の行方不明になってしまった子とか言うなら大変だとも思った。しかし、確かに言ってることが一致する。俺はぬいぐるみと一緒にお風呂入る〜とか言ってよく母ちゃんに怒られてたっけな。そんなことを思い出した。


『むーくん、一緒に入りたいっていつも言ってたよね。そうだ‼︎むーくん一緒に入ろうよ?それか前みたいに洗ってよ僕を⁉︎自分で洗ったことないしわかんないもん…』


彼は笑顔でそう言ってくる。


何言ってんだお前は⁉︎望は真っ先にそう思った。しかしやっぱり言ってる事はあってる。自分が大きくなってきた頃にはぬいぐるみを大切に扱いたくて、汚れてきたら浴槽にお湯を張って洗剤を入れて手で洗ってあげたことがある。


「一緒に入るのはちょっと…君が構わないなら補助はするよ⁇嫌じゃないですか普通に…こんなおっさんに裸見られて洗われるなんて…」


望は笑いながら聞く。


『確かに、最後に見た時からとーってもお兄さんになってるけど、嫌じゃないよ。それに僕ずっと裸だったじゃないか…あっそうか…今人間だもんねぼく…服着てる…』


服を引っ張りながら彼は言う。


ぬいぐるみは確かに服を着てない。着せ替えるとかそう言う趣味は俺にはなかった。


「わかったわかった。洗ったるからほら脱げ脱げ…俺も早く着替えたいんだよ…」


望は多分ピノは服の脱ぎ方もわからないだろうからと脱がしてあげていく。何してんだろう俺は…話を完全に信じ始めている。まぁちょっとした介護をしてあげてる、そう思うことにした。自分はズボンと袖をまくるだけでにして、彼を風呂場に突っ込む。

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