27話 

「これも綺麗だね」

「ああ。冬の湖の写真」


 8畳程のある和室の部屋で様々な大きさの写真を広げ、それらを見て感嘆の声を上げる。ここは佐藤の家である。先日メールを貰いやりとりをした結果、部活を少し早めに切り上げ、接骨院後伺う事になったのだ。

 私が施術が終わるぐらいに、接骨院に顔を出した彼と合流。そこから橙色に変わりつつある空の下、一緒に移動。10分かかるかかからないかで自宅に着いた。木造の二階建て。話によると築30年は経っているとかで、どことなく古民家カフェ的雰囲気を醸し出していた。

 そして今通されている所は、応接室だろうか。襖に仕切られた部屋に廊下兼縁側からは、綺麗に整えられた庭が夕暮れに染まつつあった。何気なくその様子を見つめると共に、少し気持ちが落ち着く。そんな室内で待っていると彼は次々と写真を持ってきては説明をしてくれる。まあ今日の目的は先日の星の写真を見せるという名目ではあったが、結局の所今までの写真を見せてもらっている状態だ。

 彼もまた快くそれにつき合ってくれている。そんな中、碧映が私の顔色をいきなり伺う様子を見せ、鼓動が強く打ち付けた。


「かのか。椅子の方が良い?」

「え、ああ。大丈夫だよ。さ…… 碧…… 映君」

「なら良いんだけど。必要になったら言って」

「う、うんありがとう」


(やっぱり慣れないーー)


 先日の件から二人の時には名前で呼ぶと約束したものの、私はどうにも恥ずかしくて仕方がない。彼は何の躊躇もない感じだが、私は彼から名前を呼ばれる度に、そして彼の名を告げる時にも鼓動が速まって仕方がない。

 まあしかし、最近は以前に比べよく笑う様になったせいか、その顔に反応することなく、ふつうに受け入れるようになったのは少し進歩したような気はする。


(まあイケメンなのは変わらないんだけどね)


 でも以前の事を思えば凄い変わりようだなと思う。本当に出会った当初は笑うどころか睨まれていたのだから。それを思えば感慨深く、こちらも嬉しくなる。そんな事を思い、思わずふっと笑みを浮かべると同時に彼と目が合った。すぐさま顔が赤くなり視線を反らすと、彼が喉を鳴らして笑う。


「何よ」

「いや、相変わらず照れてるなって。もうそろそろ慣れろよかのか」

「い、いや幾分か免疫はついた筈」

「そうか? でも…… 良かったよ。そうやって笑えるようなら」

「?」

「いや。色々あったっていうか。今も進行形だろ? その足」

「う、うん?」

「い、いやその。俺聞くつもりなかったんだけど、後藤に用事あってこの前放課後に、社会準備室行ったら、静かな上にあそこ廊下側の欄間開け放っていたから話声聞こえて」


 あの人影の正体がハッキリした所で、私は首を横に振る。


「別に良いよ。それより有り難う。心配してくれて。今回呼んでくれたのも、私を励ます為でしょ?」


 私はそう言い笑みを投げ掛けた。すると、彼が少し照れた様な表情を浮かべる。


「ちょっと、飲み物持ってくる」


 その顔を隠すかの様に彼は部屋を出て行く姿が少し幼く見え、再度笑みを浮かべ、部屋を出る彼を見つめた。そして私以外居ない部屋で、写真を再度、手に取り見入る。

 すると、何気なく手にしたアルバムを見ていると、碧映が父親を撮った写真が幾頁もわたり納められていた。彼が人物を撮った最後写真。やはりどれも良い表情であり、本人が言ってた通り、父親っ子だったのだなと理解出来る写真だ。

 そんな中、私の人生感の主軸となった写真に目に止まる。私も、そして周りの人達もこんな風に笑っていて欲しいと願い見入った写真。


(今の私はどうなの?)


 周りに心配されているのがわかる。でも、このままでは時だけが過ぎ、ギリギリでなし崩しの状況で決めざるを得なくなる様な流れになってしまうのではないか?


(それだけは嫌だ)


 その時、後藤の言葉が脳裏を掠めた。


『後悔だけはするなよ』


 じっと写真を見つめ、思考を巡らせた。そんな時間が数分経過した所で、彼が飲み物を持ち、部屋へと入って来る。私はその間もずっと例の写真を見続けた。


「かのか。本当にその写真好きなんだな」

「…… うん」


 暫しの沈黙の後、私は口を開く。


「碧…… 映君。以前出来る事あれば言ってって言ってくたよね」

「ああ」


 その言葉の後、私は顔を上げ、彼を見つめる。


「じゃあ。お願いしたいことがある」

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