26話 

 そんな思いは勿論一日で晴れるわけもなく、翌日は家から車で登校した。陸上部には一回顔を出し、心配していたであろう部員に顔を見せる。ある程度の事は後藤から聞いていたようだが皆、次々と声をかけてきた。私はそれに答え、一足早く教室へと向かう。

 日頃使い慣れていない松葉杖であり、いつも以上に時間がかかる。そんな中、どうにかクラスに辿りつく。少し早めに来た事で、クラスメイトは疎らであるが、一様に驚きの表情を向け、声をかけてくれた。すると。


「かのか!!」


 クラスに入るなり、息を切らし私の所に渚が詰め寄る。


「おはよう。渚」

「おはようって、足どうなのよ!! メール来たときはびっくりしたけど」

「まあ、見ての通り」

「見ての通りって」


 そう言うと彼女は複雑な表情を浮かべ溜息をついた。


「とりあえず、2日後に再度精密してどうするかだってさ」

「そっか……」


 渚はそう言い視線を足へと向け暫く見つめていた。まあその後は、彼女やクラスメイトの助けもあり、どうにか不便ながらも学校生活を過ごす事は出来た。ただ目立つ。それはどうにもならず、日頃そうは目に留まらない人間が一気に注目されるのは抵抗がある。


(まあ仕方ないけど)


 そんな状況化で一際印象に残ったシーンがあった。それは廊下を松葉杖を突き、職員室に向かっていると、目の前から佐藤と赤砂が取り巻きを従え来たのだ。その直後、私を捕らえた赤砂は瞬きをし、佐藤は目を見開き私を見ていた。

 一瞬彼の口が開いたが、取り巻きもいたせいか二人とは何もなかった様にすれ違う。その後二人からどうしたメールが届く事となった。

 そんな生活を送り、あっという間に精密検査当日。この日は一日検査に明け暮れ、結局結果を聞く時には、丈夫日が傾いていた。

「おう、悪い。来てもらって。今日は二人の教師は不在だから、その椅子どっち使う?」

「どっちでも良いですよっ。それより後藤先生すいません。今他の部員も大事な時期なのに」

「何、構わないだろ。俺たいした事してねーから」


 そう言い一番近場にある不在の教師の持ってくると、私を座らせる。放課後の校内の割に静かな室内。一般教室等から離れているせいだろう。

 相変わらず後藤の机の上は山が連なっている。らしいといえばらしい状況に緩い笑みを浮かべた。そんな彼と今、向き合い昨日病院結果と今後について話す所なのだ。


「で、どうなの?」

「はい…… 変形性足関節痛中期らしいです。とりあえず検査後は病状もはっきりしたので。それに今はサポーターつけてるんですが歩くぶんには問題ない程度です。ただ激しい運動は悪化すると。また中期と言うこともあり、これからの事を考えると、手術も視野に入れるべきだと言われました」

「それだと、完全復帰できるの?」

「…… いえ。先生曰く。生活には支障がなくなると言ってましたが、今の様に走れるかどうかは断言できないと言われました……」

「そっかーー」


 丈夫背もたれに寄りかかりながら両手を頭上に置く。そして天井を見上げる後藤は暫くの間、その姿勢を保つと、一気に体を起こしこちらを見た。


「で、筒宮はどうしたいんだ?」

「…… 私は」

「…… すまねえな。こんな時に方針的な事ビシっ言えれば良いだけど、俺には無理だわ」

「…… 先生」

「部活頑張って、筒宮みたいに成績良い人間が、今後左右する事決めなきゃいけないって、しんどいだろ?」

「……」

「でも一つだけ俺からの助言として。後悔だけはするなよ」


 いつも見たことのない先生の真剣な顔つきに奥歯を噛みしめる。そして私は一回頷く。


「じゃあ。とりあえず、部活はどうする?」

「明日から走り込みはせず、ストレッチ等しようかと」

「そっか。わかった。部員にはその胸伝えておく」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言い立ち上がり一礼する。そしてドアを開けると、人影はないものの、廊下を掛けていく音が微かに響いていた。誰かがこの階にいたのだろうか? 一瞬首を傾げるも、私は戸を閉め、誰もいない廊下を歩き、教室へと向かった。

 先と違い、行き交う生徒が居るが放課後と言うこともあり、疎らだ。そんな中、廊下を進み教室に入ると、渚が外を伺う様に眺めていた。


「渚?」

「お疲れーー」

「先帰っても良かったのに」

「うん。それでもさ。一緒に帰ろうかなって。どうせかのかの事だから明日から部活出るんでしょ?」

「うん。大会に出るかの結論はギリギリになっちゃうけど、部活はストレッチをやる感じにした」

「そっかーー」


 すると彼女が深い溜息を突き、両肘を着くと両手の指を強く組んだ。


「何かさ。私凄く今悔しいだよね。かのかがあんなに頑張って来たっていうのに。やっぱ近くで見てた事もあるとは思うけど、本当にっ」


 渚の指に力が込められるのが見て取れた。私の為に、心を痛めてくれていることが伝わる。そんな渚に感謝の思いと共に、私自身はどうしたいのかという疑問が脳裏に過る。

 現時点でも、未だにひとごとの様にしか思えないのだ。それはこれからを左右する決断をしなくてならい事による自身の現実逃避なのだろう。だがそんな悠長な事をしている時はもうない。一層の事誰かに委ねたい思いが病院で結果を聞いた以降、胸に沸いては消える。が、そんな事を他者に頼めるわけがない。

 思わず私は渚を見つめつつ、薄い笑みを浮かべる。すると、いきなり私のスマホが震え、すぐさまスマホを探し出す。そして画面を見ると、佐藤という文字が目に飛び込み、その後に一文が書かれていた。


『今週の土曜暇?』







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