10話
「はああ」
週始めから重い溜息を漏らすと共に、渚がそんな私を見つめる。
「かのか。あんた今朝から何回そんな溜息ついてるわけ?」
「さあ、何回かな……」
「もう10回は越えてるわね」
「そっかーー」
「何かあったの? っていうか絶対何かあったよねーー」
「うん。まあ……」
「そっか…… ねえ。今日先生達の会議で学校早く終わるじゃん。部活含めて。それ終わったら気晴らしにどっか行かない?」
「ああーー 今日部活の後接骨院の予約いれちゃっていて……」
「そっかーー じゃあそうがないか。でもため込むなよーー 大会あるんし、それに」
そう言うと彼女は私のほっぺを軽く摘まむ。
「肌に悪いから。ストレスは直ぐにでちゃうのよ。肌荒れは女の敵!!」
「ありがとう渚ーー」
そう言い互いに笑みを浮かべると、私は薄雲がはる空を見上げた。
結局あの後、あからさまに肩を落とした赤砂を慰めつつも、漂う空気が重く、園内を見る雰囲気ではなかった為、解散の運びになった。勿論何が起きたのかは非常に気になる所ではるが、そんな事を聞けるわけもなく……
まあ今日ばったりあった赤砂は昨日の状況と打って変わりいつの彼ではあった。が、昨日の状態からいって、表には出していないが、かなり内心では堪えているのではないかと推測出きる。しかし事情がわからない以上変に首を突っ込むべきではない。
(全く何で私がこんな事で頭抱えなきゃいけないのよーー)
そしてまた、溜息をついた。
そんな思いのまま、いつもより早い帰りのホームルームが終わる。今日は部活も早々に終わるわけで、明るいうちに帰宅出来そうだ。そんな事を思いつつ、渚と教室を出た時だった。いきなり背後から声を掛けられ振り向くと、そこには葉実の姿があったのだ。私はすぐさま彼女に近寄る。
「神崎さん。どうしたの?」
「う、うん。昨日の……」
俯き呟く姿に、背後にいた渚に先帰宅を促し、友人はその場を去った後、再度、葉実と向き合う。
「神崎さん。昨日はあれから大丈夫だった?」
「ありがとう。大丈夫」
(そうは見えないんだけど)
常日頃から物静かな雰囲気の彼女ではあるが、今日はそれとは別のオーラが漂っている。そんな中、神崎が続けて口を開く。
「あ、あの後。どうなった?」
「あれから、直ぐに解散になったよ」
「そう。…… 悪い事しちゃったわね。しかも恥ずかしいとこも見せちゃったし。ご免なさい」
「そ、そんな事ないよ!! それこそね…… 色々あるじゃん」
その言葉から暫し重い空気が流れた時、神崎が何をボソリと呟く。それが聞き取れず聞き直す。
「あ、赤砂はあの後って」
「うんーー 凹んでだと思うよ。昨日の帰りは異様に静かだったもん。まあでも今日は見た目だけなら平常運転に見えたよ」
「そっか。有難う」
「う、うん」
すると彼女は苦笑いを浮かべ、溜息をついた。
「本当、我ながら情けなくなる」
「…… まあ色々あるよ。それに赤砂君とは幼なじみだっけ?」
「ええ。幼稚園の時からの腐れ縁。母親通しも仲良くてね。私、昔からこんなだから、赤砂が何かと私の事助けてくれる事多くて。それが度が過ぎるっていうか」
「ははは」
(思いっきり思い当たる所あります)
殻笑いをする私を余所に彼女の話しは続く。
「クラスメイトとの小競り合いが起きた時には仲介に入ってくれたりとか、有り難かったり、うれしかったりもするけど、私自身…… 性分のせいか、月日が経っていくうちに、あいつに頼り過ぎるっていうか…… 弱っている私とか見せたくないなって思ってね。あいつって見た目によらず、結構人見てるから」
「確かに。それわかるかも」
「だから、なるべくあいつにいらん事で負担かけたくないなって思っていたのに、昨日は何だか勝手にっ」
(うん? もしかして何か知ってます?)
瞬時に顔が強ばる中、彼女は自身の胸の服を掴み、視線を下に落としている。動揺はバレていないとは思うが、神崎が苦々しく言葉を吐く。
「私の気持ちも知らないでっっ、勝手に……」
(ああーー あ奴。完全にしくじりましたね)
「か、神崎さんっ。大丈夫?」
「ご免なさい。昨日に引き続き変な所見せちゃて」
「べ、別に良いよ。それより、私で良ければ話してね。そ、そのあまりそういうの溜めるの良くないないし」
「有り難う。そう言ってくれるだけでも感謝よ」
その時、校内にチャイムの音が鳴り響いた。
「話しかけといてご免なさい。私、今から風紀の関係に行かないといけなくて」
「ああ。うんじゃあ私はこれから少しだけ部活やって帰宅なの」
「そう。校内新聞見たけど、大会あるみたいだし頑張ってね」
「ありがとう」
そう言うと互いに手を振って別れ歩き出す。その最中、ふと、さっき彼女が口にした言葉が引っかかった。
『私の気持ちも知らないでっっ、勝手に……』
赤砂の戦略がバレたとして、あの言葉は一体…… 素直にそれだけ聞けば……
(神崎さん。赤砂君の事が…… まさかね)
思わず頭を振る。勝手に決めつけはよくない。だが、昨日からの一連の流れと、彼女の言動を見るに、変にしっくりきてしまうのは何故だろうか。
(だとしても、恋愛音痴の私が考えてもわかるわけないんだし)
とりあえずは、まず己の事を考えるべきだと、気持ち改める。それと共に両手で顔を叩いた。
「部活頑張りますか」
自身を誇負つもりで呟く。そして玄関を出た。
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