11話

 今日の部活は軽めの走り込みをした。早く授業が終わったせいで、日がまだ高い。だが、今日は思いの外心地の良い風が吹いている。まあ鈍るさは感じるが、日頃そんなに風が吹き抜けると言った事はなく、日差しも強いので有り難い。そんな事を思いながら空を見上げれば、風の吹いてる事もあり、筋雲が空のキャンパスに描かれていた。


(うん、気持ち汗だわ)


 そんな事を思ってる最中、目線を下に移した瞬間、学校屋上に人影が見えた。またその人物が一瞬ではあるが、先まで話していた神崎に似ていたのだ。尽かさず、屋上に視線を送ると、その人影はなかった。


(見間違えかな?)


 小首を傾げつつ、私は再度部活に勤しんだ。

 その後、10分程で部活は終了し、私はその足で接骨院へと向かった。今日は先客が2組おり、既に仕切ったカーテンの中にいるらしい。カーテン越しで話しをしている状態だ。そんな中、先生は私が来た事を知り、入り口から一番近い仕切を指さす。私はそれに従い、先に入り、ベッドに座り、足を揉んでいた。

 その時、ドアが開く音と共に聞き覚えのある声がした。佐藤である。すると、一番手前にいた私に気づく。


「佐藤君? お疲れ。どうしたの?」

「うん。外に筒宮の自転車あったから」


 すると彼は、室内に入ると、私の座るベッドの横に施術用の備品椅子に腰を下ろした。


「ちょっと、昨日の件で聞きたい事がって」

「あ、うん。何?」

「昨日も言ったけど、筒宮って表情にでちゃってるっていう話ししただろ?」

「う、うん」

「俺に、何か隠してる事ない?」

「隠してる事ですかっ?」


 思わず目が泳ぐ。彼はすぐさま私の顔に寄ると共に、再度問う。


「で、隠してる事、あるよね」


 イケメンに目と鼻の先で問われられるとこんなにも威圧感とやらを感じるものだろうか? 照れるより、冷や汗が一気に出る。


「あっ、うううっ」


(もう駄目だこりゃ)


 降参の白旗が胸でなびくと共に、赤砂に胸底で謝りを入れる。まあしかし、どっちにしろ赤砂とて、神崎にバレている様子であり、私が必死に黙秘しても仕方ない事だ。私は一回息を吐いた。


「昨日の植物園の企画。佐藤君と神崎さんをくっつけようって話赤砂君から持ちかけられたの」

「はあ、何それ?」

「うーん。彼曰く、2人がお似合いだから的な事言ってたかな? あっ、でも私はそういった事わからないから、赤砂君が暴走したら止めるっていう話しをしてて」

「ふーん」


 そう言うと彼が目を細くし、こちら見た。私は肩を竦め視点を反らす。


「ご、ご免なさい」

「別に。筒宮の場合巻き込まれた感じだし。それより修の奴。何考えてんだよ。どうみたらそんな風になるかな」

「それはちょっとわからないけど、赤砂君はそう思ったみたい」


 2人は首を傾げる。と、その時、佐藤と私のスマホが鳴りだす。彼はポケットから取り出し、液晶を見る。それと同じくして私も施術のベッドに置いたスマホを確認した。そして再度小首を傾げる。


「なあ、筒宮。神崎知らない? 今、噂の主の赤砂からのメールなんだけど、まだ神崎が帰宅してないらしい」

「私も赤砂くんからだよ。内容も一緒っぽのかな? うーん。神崎さん。下校の時には会ったけど。どっか寄り道とかしてるんじゃない?」

「だと思うんだが、修の奴何焦ってんだ? 2人に一斉送信だろきっと」

「だよね……」


 すると、再度メールが届く。


「…… 一緒に探して欲しい?」

「何かあったのかな?」

「これだけじゃな……」


 だとしても、昨日の今日であり、少し心配ではある。


「先生。施術まだ先ですよね」

「ああ」

「佐藤君私、とりあえずちょっと探して来るよ。施術も直ぐじゃないから」


 そう言い立ち上がり、接骨院を出ると、私の背後に佐藤が続く。


「佐藤君はっ」

「顔見知りになって日が浅い筒宮が行くのに、つき合い長い俺が行かないっておかしいだろう? とりあえず一回合流して事情聞くか」

「うん」


 その後、接骨院の最寄りコンビニに待ち合わせをすると、赤砂が猛スピードで自転車を飛ばし、駐車場へとやってきた。そんな彼の表情は切実であり、そんな説破詰まった状況なのかと目を見開く。


「ご、御免2人共っ」

「修。何だなあのメール。だいたい神崎が帰ってこないだけでこの騒ぎって」

「まあ、あれだけのメールじゃあ背景わかんないもんな。今日さ帰り早かっただろ? で、葉実。母親と出かける約束してたらしくてさ。うちのかーちゃんと葉実んちのかーちゃん仲良くて、俺にかーちゃんが聞いてきたってわけ。それから葉実にメールしても返信ないからっ」

「そっかーー 神崎さんそういうの守りそうだし、連絡ないって心配だよね」

 

確かに下校も早かったし、普通に帰宅すればとっくに家に居てもおかしくない。それに空は既に綺麗なオレンジ色であり、日が傾き始めている。


「修心当たりとかは?」

「さっき回ったけど居なかった」

「そうなんだ。うーん下校で会った時も特に何も言ってなかったし……」

「えっ、かのかちゃん葉実と会ったの?」

「うん」

「その時の様子とかっ、何か些細な事でも良いからっ」


 赤砂が真剣な眼差して私を見ると共に、必死さがヒシヒシと伝わる。


「些細ってっ。そういえば、見間違えかもしれないからだけど、部活中に神崎さんが学校屋上で見かけた様な気がしたんだよね。ただ、それこそ下校の時に風紀の見回りって言ってたから、見回りしてるのかなって」

「確か、今日の先生達の会議ってうちの学校が会場だったよな。だから早く下校になったとかで」


 すると、赤砂はすぐさま自転車の向きを変えた。


「おいっ修!!」

「俺、学校行ってくる」


 すると猛スピードでその場を去っていく。私等は呆気にとられながらも、学校へ向かう事、5分。空はブルーに変色している中、学校に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る