9話
その後、園内がわからな私は、最後まで彼の撮影に同行し、オススメスポットを教わった。そして今は、待ち合わせの場所のベンチに座っている状態だ。ただ、私達も時間に少し遅れてしまった事もあり、先に2人が来ているのではと思っていたが、まだ来ていない状態。しかも時間を過ぎていた。
(ここ広いもんね)
そんな事を思いながら、先程撮ったチェキの写真を見つめる。佐藤の指南もあったが、本当によく撮れており、ずっと見ていたいぐらいだ。すると、ベンチ裏で写真を撮っていた佐藤が私の隣に座り、液晶を覗いていた。
「どう、今日の取れ高」
「まあまあ」
「それなら良しだね」
「だな。にしても。その写真そんなに良かった?」
「うん。勿論!! 一眼レフとかじゃなくても綺麗な写真って撮れるんだね」
「経験で技量は育つから」
「そうかもしれないね。だって佐藤君写真撮り始めてどのくらいなの? それこそ、むねぢ先生からアルバム見せてもらったけど、結構前っぽかったし」
「…… そうだな。少なからず10年は経つ」
「だから、凄い綺麗な写真撮れるんだね。むねぢ先生の所で見せて貰った写真。動物の躍動感とか、花の可憐さとかが、撮れてて、素人の私が見ても凄いって思ったよ」
そう言い写真から目を外し彼を見た。すると佐藤は豆鉄砲を食らった鳩の様な表情を浮かべたかと思うと、慌てて目を反らした。
「そ、そう」
少し照れたのがわかると共にこっちまで気恥ずかしくなり、私は口を開く。
「っていうか。それ思うと写真の影響力って絶大だよね。私もさ、小学3年ぐらいにある写真見て、それからライフプランが決まったというかさ。本当一枚の写真でも人生変わっちゃう人とか私含めていると思うし、そんな一枚撮れる人って凄いと思う」
「……」
彼の沈黙で一気に汗が吹き出す。明らかに語り過ぎてしまった。しかし今となっては後の祭りである。
(どうしよう。顔あげられない)
その時佐藤がクスクスと笑い出す。半信半疑で彼を見ると、明らかに彼は笑っていた。思わず不思議そうな表情を浮かべると、その表情に気づいた佐藤が口を開く。
「御免」
「別に、構わないよ…… にしてもここ最近思うんだけど、私に対しての態度がだいぶ違ってきたなって」
「…… かもな。だって筒宮ってそのまんまだろ?」
「そのまんま…… とは?」
「言葉のまんまだよ。打算とかないだろ? 思った事はわりかし顔に出やすい。人のそのままの言葉を疑う事無く受け止め、行動にもする。まあ散々お人好しとはいってるけどな」
「うんーー その話聞くと単純って言われてるみたいなん感じなんだけど」
「そうかもな。でも単純って否定的だと俺思ってないよ。こんな複雑な社会の中で生きてくと、性格摺れるし、警戒もする。でも筒宮がそんなんだろ? ほぼ無防備な奴に警戒するって馬鹿みたいじゃん」
「はあ…… 因みにそれって誉め言葉になるの?」
「さあ。どうかな……」
「そこ濁す所なの? もうーー」
(完全にからかわれてない?)
まあ以前よりはギスギス感がないだけ良いのだが、それとは別に本人が無自覚で振りまく、男前オーラに翻弄されている現在。
(こっちの気も知らないで。私だって言いたい事はあるんですよ)
そんな思いをぐっと堪え、一回溜息をつく。すると、オルゴールの様な音が聞こえ、周りを見渡す。
「園内の花時計の音」
「花時計? そんなのあったんだ」
「まだ見てないし、後で合流した後行ってみる?」
「うん。っていうか2人共遅いね。ちょっと赤砂に連絡しみるね」
「? 筒宮。修の連絡知ってるの?」
「ま、まあね。ちょっと事情があって? 成り行きで」
「…… ふーん」
すると、佐藤がこちらに流し目をしする。
「な、何よ」
「さっき言ったよね。筒宮は顔に出やすいって。それにっ」
「っと、とりあえず連絡してみるね」
私は慌てて話しを反らす。これ以上ツッコまれてはたまったものではない。
(もう赤砂君何やってんのよ。あくまでフォロ要員が問いつめられてるんですけどーー)
その時だった。視界にこちらに向かって歩いてくる葉実の姿を捉える。だが彼女の様子が明らかにおかしい。俯き、早歩きの上、どことなく機嫌が悪く見える。するとその背後から走る赤砂の姿。
「葉実待てって!!」
彼が叫ぶ声を初めて聞き驚きと同時に、この2人の間で難事が起きている事を察する。そんな中、葉実が私等の前まで来ると、顔を上げる事なく、口を開いた。
「私、先帰るわ。2人共御免」
「ど、どしたの神崎さんっ、具合悪いの?」
その時、葉実の肩を掴む、憤りを感じさせる形相の赤砂がいた。
「おいっ、どういう事だよ葉実っ!!」
「どうも、こうもない。私は帰るって事」
「何でだよ!! まだこれから回る所だって」
「もういい!!」
葉実の声が響く。彼女が声を荒げる姿など想像すらしていなかった為、目を見開くと共のに、ただならぬ空気が周辺を覆う。私の今回の立ち位置としてフォロ要員だとしてもこの状態を収拾出きるだけの器量なんぞは持ち合わせていない。
(どうしろとーー)
「と、とりあえずはっ」
「赤砂、わかってない」
『落ち着こう』と言おうとした途端、葉実が苦虫を噛みつぶした様な言葉発したかと思った途端、顔を赤砂に向けた。その表情は苦しげで今にでも泣きそうな顔だ。
「もう、私に構わないで!!」
そう言うと、彼女は1人走って行ってしまった。そんな事を言われた赤砂は、呆然と立ち尽くしそんな彼女の背中を見つめる。勿論、いきなり修羅場と化した現状に私と佐藤は呆然とし、その場で暫く佇むしかなかった。
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