第14話 踊りの人々の中で
祭囃子と太鼓の音が聞こえる中、颯真様に手を引かれながら歩いている。
わらぶき屋根の寄り合い所の前にいると、楽し気の声が、どこからかしこから聞こえてくる。大人も子どもも、夜の闇に紛れて楽し
この浮足立った空気は、確かに野党や盗賊にとって、いい鴨に見えるだろう。夜の闇が深まるとともに、それは感じとれて危険……なのですが、とても楽しいです……。
子どもの時以来、盆踊りについては、多くの人が賑わうという理由で、私も百合様も行くのは伯父様からも禁じられていました。子どもの時、両親家族と参加して以来の盆踊りへ、また家族が出来てから参加するなんて、とっても不思議なめぐりあわせに思えてなりません。
闇の中、提灯の明かりが静かに揺れている。隣を歩く
盆踊りはなれたご様子のポン太ちゃんは、数少なくはありますが、それでも子供たちを集めている味噌をつけた団子の夜店の料理の説明をしてくださったりしてくれるので、すっかり盆踊りに慣れて『本当に、こんな楽しいかったなんて……』と、冷たくひやされたきゅうりを食べながら思うのです。
「ほかに何か買うか?」と、鹿島様のお顔が近くにあることに、気付くと心臓が跳びはねる。
颯真様は鹿でも、人のお姿でも優しい……。
「いえ、緊張でもうお腹もう一杯です」
「そうか……では、もし今夜何かしらの事態が起こった場合、相手は最近どこからかで手に入れた鉄砲を持っている可能性が高い。そんな中で、俺の怪我が何らかの方法で回復しているとわかれば、その理由を探しまわっている間に、志穂を見つけてしまうかもしれない。だから、志穂がここに残れば、守られたこの場で、俺が体調を整えるための時間稼ぎが出来るかもしれない。だから志穂はここで待っていてくれ」
「わかりました。無理に遠くへ引きつけようとはしないでくださいね」
「あぁ、わかっている」
「そう聞いて安心しました。ここくらいなら颯真さまは、どこへいっても探し出してくさりますから」
子どもの頃の鹿さんは、どこにいても現れた。きっと何かしらの方法で探し当てられるはずです。しかし彼は口元を手で隠し、耳元を赤くする。
「あれはお前が行きそうな場所を把握していたので、探し当てていただけだ。お前たちを探し当てる能力などない」
「えっ!?」
ポン太ちゃんは、私の後ろから顔を出しそう叫んだ。まわりは、そんな可愛らしい女中さんに注目が集まるが、ポン太ちゃんは手をふってその場を収めた。
「私と鹿さんはお友達でしたから、ポン太ちゃんも驚くことではないですよ。ですよねー颯真様」
「あぁ、こちらも遊んでいる幼子のもとへ行くの、最初ははばかれはしたんだが……」
ポン太ちゃんに、言い訳をするように颯真様はいい、ポン太ちゃんは真ん丸おめめでそんな颯真様をみる。
「俺としては、幼い子どもを一人で待たせるべきではない。そう思っただけだ。だからそんな目で見るな」
「僕はこんな目です。子どもを森で一人にしない事についてはわかっていますよ。本当に大丈夫です。ポン」
「そうだ。森は安全そうで、蛇や野生動物、子ども自身が迷子になる事もある。別れの時も、ある日突然だと、待っているかと思いやはり胸が痛たんだ。だから真珠の髪飾りなら、幼い子どものことだ、喜んでいる内に私を忘れると思ったが、ああ、まで待っているのは予想外だった」
私は驚きで、心臓が飛び跳ねる。突然、来なくなった鹿さんを待っていた寂しい日々を、鹿さんは知らないと思っていた。どこかで私のことを見ていてくださったなんて……。颯真様は、昔から……どこまで心根の優しい方なのだろうか……。
そこで、盆踊りの曲が変わり、踊りの方向が変わった。
やぐらのまわりの、輪の中の人々が右や左へ踊りを進めて、手を、足を動かしていく様の中を、子どもたちは駆けまわる。
そんな子どもたちの中にも、やはり私の時代と同じように幼い弟や妹を背負い、揺れながら踊りの様子を見る子もいる。そして、いきなり火がついたように泣く赤子に、戸惑いもせず体を揺すり寝かしつけてしまった。子どもたちは、すくすくと育つ中で生活力をつけていく。その姿は、目を見張るものがあった。
「志穂……、疲れてはいないか?」
「そうでした! 志穂様は朝からおにぎり作りに、村への移動、そしてお墓の手入れに大忙しだったのです。おのこの僕らとは違いますし、今日は寝た方が良いのでは?」
「そうですね。疲れてないわけではありませんが、次はいつ来られるかわからないので、もうしばらくだけ……構いませんか?」
そう視線をまわりに向けると、久しぶりのお祭りで一番の着物を身につけ笑顔で笑う顔見知りの女性たちと、粋な法被を身につけお面をかぶって夏の終わりに、居なくなった人々を思いながら「踊っている。それは子ども時代の両親の思い出と重なっていた。幼馴染の中には十を待たずに、町へと奉公へ行ったものもいる。と、村人の話から聞いている。
そんな思い出たちが、盆踊りの曲とともに、心の中から上がって来ては、心の奥の方へとふたたび落ちていった。
「ふっ、お前が望めばいつでも連れて来てやるのに……だが、祭り中は、絶対に手を離すな! もう、二度と会えなくなるぞ」
「もう、森の中で育った鹿島様は、大袈裟なんですから……、あそこの三役の方々が座っているござ付近には、誰も居ません。あそこなら、治安の良さそうな様子で、待ち合わせにも安全ですって」
そこでは伯父様が何もなかったように座っているが、奥様の件についてはいったいどうなっているのでしょうか?
しばらく歩いていると、颯真様が弾かれるように村の外へ向かう人影を追いかける。
「おい、ポン太あれをみろ」
いままで、私と強く結ばれていた手は、今やほどかれ、颯真様はずんずんと知らない男性を追い進んでいく。
『盗賊が入る時はよく引き込みがいる。今回も居るかもな』そう、盆踊りの前にポン太ちゃんと話す小声を聞いた。
盗む前に目当ての屋敷を構成する人の数や、保安の様子を伺い、鍵を開け、盗賊を家に引き込む者たち。庄屋の家でも、注意するように言われていたが……。
「鹿島様!?」
「志穂はここへ待って居てくれ、少し見てくる!」
彼はいきなり駆け出し村の外へと行くようだ。引き込みがすでに村へ侵入していたのか? 私はここで待つべきか、伯父様に伝えるべきなのでしょうか?
「志穂様は、明るい場所を通り誰かにお知らせください」
「ポン太ちゃんも気をつけてね」
そう言って踊りの輪の中心から、伯父様や他の三役の方々のいる方向を目指す。
「志穂待ちなさい!」
声のした方を振り返ると、百合様が鬼の形相で人をかき分け進んでくる。太鼓が響き楽しげな楽器が鳴り響く中で、背中に嫌な汗がツゥーーと流れる。
何で? どうして? 今はこんな時に……私は慌てて逃げようとしたが、あまりの人の多さで目の前にまわりこまれてしまった。
「百合ちゃん辞めた方がいいって」
「うるさい!! あんたは黙ってて」
友だちの声はもう百合様には、入らないようだ。なら、私なんかが話して聞いてくれはしないだろう。なら、やはりと、今の内に逃げ込もうとしたが、今度は手首を掴まれ逃げられない。
「離して……」
「志穂の癖に生意気だわ、貴方のせいで母は実家へ帰されることになったのよ」
やはりそういう結果になってしまったのか……、そう思いはすれど、それを聞いている暇など今はなかった。私は目の前のこの手を払いのけても、進む理由があった。
しかし彼女の後ろで人垣が割れ、やってくる伯父様と目が合う。そこには怒りしかないようにも見えた。けれど、たぶん、百合様を助けるためにやって来たのだろう。これ以上のことを、起こさないようにと。
「伯父様、鹿島様が人影を追って行きました!」そう言った、私の腕は引っ張られる。
「志穂!、今」と、私の言葉をかき消そうと、する声に。
「黙って! 百合ちゃん! 私は鹿島様の話しをしてるの」
そう彼女の顔を見て言い、伯父様に振り返った。ざわざわと声がするが、伯父様には動揺は見られない。百合様は静かに菊さんに連れられ、その場を退場した。
「志穂、鹿島様はしばらくは大丈夫だ。だが、逃げ場であるこの場所は確保する必要がある。計画通り、
「「はい!」」
そう、声が上がったと思うと、まわりに何人か散らばって行く。
「他の者たちも準備が出来しだい、決められた場所を見回ってくれ。火をかけられた時や、逃げ易いように女、子どもは距離をおいてその場で待機してくれ」
それだけ言うと私は、伯父様たちにポン太ちゃんを指さす。
「颯真様は、あの子の辺りから村の外へ出ていきました」
「わかった。だから志穂はここに居てくれ」
「いいえ、あの子と一緒に待っていますから、怪我をしたら必ず戻って来てね」
「……無理はするなよ」
そう言って三役の方々方へと戻って行った。これでひとまず安心だが、やはり、颯真様が帰って来ないことが心配だった。あの追って行った相手は、問題のある人物の可能性が高いようだ……。
続く
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