第3話

(前回までのあらすじ)


がらどんどんを足止めし、なんとかラーメンにありつけたぴのこ。


トドオカはぴのこの割り箸を操るサイキックも活用し、なんとか逃げ延びようとする。しかしがらどんどんは周到だった。


ラーメンを食べ終わり、消えてゆくぴのこのサイキック。すぐ背後にはがらどんどん。トドオカが絶望しかけたその時、遠くのタワマンに一条の光が輝く!


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 トドオカはいつも命を狙われている。ぴのこもだ。理由は無い。Twitterとはそういうものだ。


 政治、思想、経済、タケノコ、カクヨム―――そこにはありとあらゆる争いの種が常にバラ撒かれている殺伐のジャングル。インターネットを得た猛獣たちは常に互いを食い合っている。


 そしてタワマンに住んでいるこの男もまた、トドオカの命を狙うヒットマンだった。彼の名はニート先生。トドオカの生活圏をすべて見渡せるタワマンを所有しているヒットマンだった。彼は今、千載一遇の好機を得ている。


「トドオカさん、それは駄目だ……」


 ニート先生は対仏アンチフランススナイパーライフルに小麦粉を込めながら言った。


「素晴らしきツイッタラーが俺以外のフォロワーに殺されようとしている。俺はつらい、耐えられない。死んでください、トドオカさん。俺の相互フォロワーとして」


 相互フォローは必ずしも味方であるとは限らない。ニート先生は高級ネギトロ張りソファに腰かけたまま、背もたれに銃身を置いた。スコープがトドオカの眉間を捉える。発射!


 放たれたイギリスパンが光の速さで飛翔し、トドオカの横っ面にめり込んだ!


「ぐぉふうううッ!」


 空中で顔を歪められたトドオカは真横に吹っ飛ぶ。それにより、奇しくもがらどんどんが投げたコンクリートブロックを回避した。


 トドオカとぴのこはロードローラーのローラー部分の如く高速で回転しながら街の空を飛んでいく。だがこれは渡りに船だった。


 がらどんどんは勢い余って行き遅れTwitterミーム存在の養殖場に頭から突っ込んでいる。後はラーメン屋を探せばいい。


 トドオカはイギリスパンを咀嚼しながらぴのこに問う。


「なんか助かった! ぴのこ! お前、今のうちにラーメン屋を探せへんのか!」


「待っててください、今腹の虫が探しています! どこだ……ラーメン屋……!」


 両こめかみに人差し指を押し付けるぴのこ。彼の尖った前髪をかき分けてハナカマキリが姿を現し、スマホで周辺を検索し始めた。


 検索には時間がかかる。トドオカが通常ではありえない挙動をしているためGPSが正常に機能しないからだ。ぴのこは鼻から大きく息を吸い、イマジナリーラーメンの匂い評論をインターネット座敷牢に送信する。検索が成った!


「そこです、トドオカさん! そこの大谷翔平みたいな建物!」


「そこやったか! ふんんんんんんぬっ!」


 トドオカは空中で体勢を立て直し、偶然近くを飛んでいた野生のきのこの山を蹴って斜めに落下した。


 サッカーゴールを改造して作った最先端セキュリティゲートをぴのこバットで粉砕し、ダイナミック入店!


「ラーメンもらうで!」


「そこの券売機でご注文を!」


「券売機の上から下まで!」


「券売機の上から下までー!」


 滞りなく注文完了! 後はラーメンが来るのを待てばいい。


 しかし背後から火山噴火じみた極大轟音が鳴り響いてきた。家屋やビルやタワマン、アニメイトなどを吹き飛ばしながら迫ってくる者がいる。誰か確認するまでもない。ぴのこの偏執者、がらどんどんだ! インターネットミームが体中に噛みついているが、まるで気にせず暴走している!


「ぴのこさぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 遠雷の如き呼び声に、ぴのこは震えあがった。


「くそっ、どこまでも追いかけてくる……! 何が何でも俺を殺すかトドノベルを書かせるかするつもりか……!」


「ぴのこ、お前はラーメン食ったれや。ワイが時間を稼ぐ」


 トドオカは拳と首を同時に鳴らしながら言った。


 ぴのこは息を呑む。


「む、無茶だトドオカさん! さっきだって時間稼ぎが精いっぱいだったじゃないですか! 俺が券売機の上から下までラーメンを食って執筆して……その間ずっと耐え続けるなんて、そんなこと……! またレトルトカレーを使われたら、このラーメン屋ごと揚げナスですよ!?」


「いや、さっきの空中戦でレトルトカレーを出さんかったっちゅーことは、撃ち止めになったっちゅーことや。ケツァルコアトル製ケツァルカレーはそう簡単にリロードできるもんとちゃう。メキシコとの為替とかがあるからな……それに、こっちにも手があるんや!」


 トドオカはポケットからスマホを取り出すと、画面にチョップ突きをたたき込んだ。そしてスマホから引きずり出したるは―――ニート先生!


「ぐわあああああああああッ!」


「に、ニート先生!?」


 カウンター席に向かっていたぴのこは思わず振り返った。それこそは先ほどトドオカをイギリスパンで狙撃した男、トドオカ専用暗殺者のニート先生だ!


 Twitterは匿名と思われがちだが、ちゃんとリアルと連動している。インターネットに逃げ場は無い。一方的に攻撃できる立場もだ! トドオカはニート先生にコブラツイストトドオカエディション~春風を添えて~を極めながら恫喝を行う。


「おう、ニー先。さっきはよくも狙撃してくれたな!」


「め、滅相もない! わたくしはこのようにご飯派で……」


「お前さっきイギリスパン撃ってきたやろ! お前のブルーバッジがついとんねん、往生せいや!」


 トドオカにTwitterサブスクリプションの履歴がついたイギリスパンを突きつけられ、ニート先生は観念したようだった。ハンズアップし、トドオカに問いかける。


「アカウントまでバレてちゃ仕方ない……俺は何をすればいいんです?」


「なんもせんでええ」


 トドオカはそう言うと、ラーメン屋の券売機をつかんだ。


 右手に券売機、左手にニート先生をつかみ、ふたつを頭上でドッキング! 太陽のような光芒をまき散らしながらふたつを融合し、現れたのは―――コンビニエンスストアだ!


 トドオカは片膝立ちでロケットランチャーよろしくコンビニエンスストアを構えると、直進してくるがらどんどんに向けて自動ドアを開いた!


「こっから先には行かせへん! 喰らえ、ニー先!」


 コンビニエンスストアの入口からニート先生の頭部がガトリングガンの如く放たれた。恐るべきニート先生の弾幕を前に、がらどんどんは怯まない。彼の目にはぴのこが惨たらしく殺される未来しか見えていないのだ!


 だがそれも、大量のニート先生に激突するまでだった。


「ぴのこさっ…………!? こ、これは……進めない!」


 大量のニート先生を押しのけようとするがらどんどん。しかしニート先生は空中に固定された土ブロックのように動かない。


 これは一体何が起こっているのか? Twitter民のがらどんどんにはすぐにわかった。鍵アカウントだ!


「ど、どうしてこんなところにニート先生の鍵アカウントが! こんなにたくさん! うわああああああ!」


 鍵アカウントの津波に押され、徐々に押しのけられていくがらどんどん。トドオカのTwitter歴にかかれば、ニート先生の鍵アカを量産することなど、カップ焼きそばの湯切りをするよりも容易い。


 このまま押し切れるか―――コンビニエンスストアを握る腕に力を籠めるトドオカだったが、異変に気付く。がらどんどんが、ニート先生の隙間を縫って徐々に迫ってきているのだが、その顔が塗り潰されたように真っ黒なのだ!


 その時、背後からぴのこの悲鳴! がらどんどんの声!


「ぴのこさぁぁぁぁぁぁぁん! こんなところに居たんですねぇぇぇぇぇぇぇ!」


「うぎゃあああああああああ!」


 カウンター席からひっくり返ったぴのこが目にしたもの、それはカウンターを引き裂いて現れたがらどんどんの顔面だった。ぴのこのトドノベル読みたさが限界突破し、時空を超えたのだ!


 そして鍵アカニート先生の海を泳ぐようにしてやってくるがらどんどんの本体。それはトドノベル読書本能に基づいてワープした顔面と肉体が、磁石のように引き寄せ合っているからこそ生まれた超常現象。それに加え、ニート先生との親和性が防御を不完全なものにしていた。


 ニート先生はトドオカさんの命を狙うフォロワーであり、がらどんどんはぴのこの命を狙うフォロワー。二次関数に代入すれば大体同一人物なのだ!


 さらに、トドオカに良くないことが起こる!


「ぴのこ! ん……!?」


 ニート先生の出が悪い。毎秒80ニート先生を記録していたコンビニエンスストアは、気付けば毎秒3ニート先生にまでアカウント生成量を減らしていた。


 トドオカがコンビニエンスストアの中を覗くと、ニート先生(本物)が優雅にワイングラスを傾けながら夜勤の時に限って現れるクソ客とダブスタクソ上司をペペロンチーノにしてレンチンしていた! グラスの中身はおでんの出汁だ!


「ニー先! 裏切ったんか!」


「トドオカさん、甘いですよ。俺はいつだってトドオカさんの命を狙ってるってこと、忘れてないでしょうね?」


 トドオカは歯軋りをした。相互フォロワーだからといって、味方とは限らない。昨日の敵は明日も敵、明日の友は明後日スパブロ。それがTwitterというものだ。


 がらどんどんが泳いでくる! 顔面がぴのこに催促をする。ラーメンはまだできていない。一難去ったら次難三難と続く。長男でも耐えられない波状攻撃だ!


 だがその絶体絶命の状況に、一筋の光が差し込んだ!


「へい、お待ち!」


 ラーメンが、出来たのだ!

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