第2話
(前回までのあらすじ)
暴走したがらどんどんに追い回されたぴのこ。それに巻き込まれたトドオカもまた逃亡劇に加わる羽目に。
がらどんどんを鎮めるためには10万文字のトドノベルを今日中に完成させるしかない。しかしがらどんどんは強大であり、ぴのこがラーメンを食べることさえ許さないのだ。
ラーメン屋に辿り着いたトドオカは、ラーメンが来るまでぴのこを守らなければならない! 果たしてトドノベルは完成するのか?
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「ぴのこさぁぁぁぁぁぁぁん! 脳が空きましたぁぁぁ! トドノベルはまだですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
がらどんどんが叫びながら、トドオカ&ぴのこが入店したラーメン屋へと突撃してくる。トドオカはラーメンが来るまでどう時間を稼ぐか、脳内Twitterタイムラインを即時展開して検討を行う。
だが駄目だ! 彼のタイムラインには頭のおかしいボンクラしかいないため、ろくな案が出てこない! こうなったらトドオ空手による暴力で防ぐ他ない!
ぴのこを背負っている都合上、両腕は使えない。ならば脚部だ。トドオカは腰を落として身構える。がらどんどんとの接触まであと30メートル!
しかし距離が20メートルになったところで、がらどんどんが何かを取り出す。銀色の、薄く四角い何かを。その正体を察してトドオカは戦慄した。
がらどんどんが持っているものは、南米に伝わる対テスカトリポカ用神聖殺戮神造兵装! その名も―――。
「“レトルトカレー”かッッッ!」
「断食! 断食! 断食ですよぴのこさぁぁぁぁぁん! カレーで我慢してくださぁぁぁぁぁい!」
がらどんどんがレトルトカレーを突き出し、握りつぶす。たちまち吹き出す大量のカレールー! カレーはマグマで湯煎され、太陽並の熱量を誇る。一滴でも浴びれば大地は米に、水はシチューに、人は揚げナスに変えられる! 触れてはならない!
「ええい、厄介なブツ持ち込みおって!」
トドオカは毒づきながら小ジャンプ。空中で足を180度広げて高速回転し始めた。回転は風を呼び、風は竜巻となってレトルトカレーに向かって放たれる! トドオカの圧倒的暴力が生み出す反社会的台風射撃だ!
カレールー奔流と風が激突! あたりに飛び散ったルーの雫がアスファルトやコンクリートをビーフシチューに変えていく! カレーにかかれば致命傷だった!
だが、完全には止められない。太陽神ケツァルコアトル製ケツァルカレーは太陽に匹敵する温度を持ち、上昇気流を発生させている。徐々に押し込まれるトドオ旋風。トドオカはNow Loadingを示すグルグルを遥かに超える速度で回転しながら店主に怒鳴った。
「店主! ラーメンはまだなんか!」
「もうすぐピットインです!」
ラーメン屋のキッチンの横壁をぶち抜いてF1カーが突入してきた。麺の湯切りを終えたのだ!
そして湯切り専用フォーミュラマシンの突入を見逃すがらどんどんではない! 彼は背負った星間航行用スターゲートから何かを射出! 空中に現れたそれは衛星兵器―――サテライト・お好み焼き粉キャノンである!
「食べさせない……! 私がこんなに飢えているのに……! ぴのこさんにラーメンなんて食べさせない! お好み焼き発射ァ―――ッ!」
衛星兵器内部で凄まじい爆発音がした。サテライト・お好み焼き粉キャノンはお好み焼き粉で粉塵爆発を起こし、そのエネルギーを叩きつける異常関西兵装だ! 一節にはフィッシュ・アンド・チップスと同等の破壊力を持つとされている!
上空より、ラーメン屋めがけて放たれるレーザービーム状の炎。トドオカはレトルトカレーを押しとどめるのに精いっぱいでこれに対処できない! このままでは強くなれる理由もわからぬまま紅蓮の華が咲き誇ってしまうだろう!
かくして、ラーメン屋は爆発四散した。粉塵爆発の熱波がレトルトカレーを吹き飛ばし、ラーメン屋は灰と化す。ぴのことトドオカはトドノベルの犠牲者となったのか? 否である! 空に向かって伸びる大量の割り箸の上を無傷のトドオカが駆け抜けていた。ぴのこはラーメンを食べている。
衛星兵器が直撃する寸前、ラーメンは既にサーブされていた。ぴのこは無事にラーメンを口にし、割り箸を操ってすんでのところで脱出したのである。
割り箸の架け橋を走りながらトドオカは問う。
「なんとか間に合ったか……! これで書けるな、ぴのこ!」
「んあふぁふぉふぉふぉんふぁふぁふぉふぉふぁ!」
ズルズルとラーメンをすすりながら答えるぴのこ。右手は箸、左手はどんぶりを持っている。では執筆は? 彼のノートパソコンの上には大量の割り箸が浮いており、それらが高速でタイピングを繰り返している!
ぴのこはラーメンを食べている間に限り、サイコキネシスで割り箸を操ることができるのだ! これでラーメン問題は解決した。一旦は。
「ぴのこ、次のラーメン屋はどこや!」
トドオカの叫びに応じて、方位磁針割り箸が方角を示した。
現在、ぴのこの執筆力は食べているラーメンの値段分倍増している。今食べているラーメンは一杯1700円だったため、一時間当たり3000文字の執筆が可能と仮定して時速510万文字の執筆が可能! 分速にして85万文字書ける計算である。
ならば即終了―――とはいかない。割りキネシスに時速500万文字分、次のラーメン屋を検索するのに時速5万文字分のエネルギーを使っているため、実質一時間5万文字しか執筆できない。10万文字もの長編を書くともなれば、その5倍近い文字数の設定資料とプロットも要る。何より、ぴのこは5分もあれば1ラーメンを消費してしまえるのだ。
この速度を維持するためには、5分ごとにラーメンを供給し続けなければならない。だが、トドオカは半ば安心していた。いかにがらどんどんと言えど、空までは追ってこれないはずだからである。
「今のうちに次のラーメン屋を探し、あわよくば完全に撒いてゆっくり執筆する環境を整えるで! それでこのふざけた鬼ごっこもおしまいや」
「ふざけてるんですか、ぴのこさん。ふざけないでください。真面目にトドノベルを書いてください。待っている読者がいるんですよ!」
トドオカとぴのこはゾッとして背後を振り返った。がらどんどんがカレーをジェット噴射しながら追跡してきているではないか! 両足を大量のふりかけご飯で作った筋斗雲で固めている!
「ふざけて遊んでないで早く続きを書いてください! あなたが危篤なんです!」
「ん゛――――――――――――っ!?」
ぴのこは驚きのあまりラーメンのスープを飲み干し始めた。割り箸がさらに素早く操られる。しかしラーメンを食べきってしまえば割り箸操作能力は失われてしまう。
どんぶりがカラになると同時に、割り箸が空中分解し始めた。
トドオカが薄氷を踏み割ったかのようにつんのめる。
「う、うおおおおおおっ!? ぴのこ、割り箸が!」
「すみませんトドオカさん! ラーメンが、もう……!」
「なんやて!?」
トドオカは生まれて初めて絶望を味わった。割り箸方位磁針も失われ、どっちにラーメン屋があるかもわからない。背後には空中飛翔がらどんどん。
終わった。そう確信したトドオカの体がベクトルに従って回転する。
彼の目には遠くのタワマンと、その窓のひとつに煌めくひとつの光が映っていた。
つづく
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