大巨人種 VS 上位種
「あのね、私が戦っちゃダメですか?」
「はぁ?あの子、間違いなく上位種だよ。いくら大きくて強いって言っても巨人種が上位種には・・・」
優奈のとんでもない申し出に驚いた美晴だが、冴香に聞いた話を思い出した。
そう言えば優奈ちゃんって同じ大きさだったら冴香ちゃんに負けないくらい強いんだよね。ぱっと見で身長差は3倍まで無いし・・・
「でも、もし上位種様が誰もいない時にこんなことになったら、私が戦わなきゃいけないし、今日だったら負けても美晴おねえさんがいるから・・・」
なるほど、自分が最上位の時に備えた予行演習か。
「わかった。でも、私が危ないって思ったら助けに入るからね。」
「はいっ!」
その時だ。上空から「なぁにゴチャゴチャ言ってんだぁ!」と、敵の上位種が蹴り上げて来た。
ドォォォンッ!!
思わず両腕を胸の前にクロスして防御姿勢を取った優奈に、大巨人の蹴りが炸裂する。が、優奈の足が海底をズズッと少し移動しただけだった。
「うっそ・・・防いじゃった。どんだけ強いの?」
美晴が思わず驚愕の声を上げる。
「なんだ、冴香おねえさんより全然弱いじゃん。」
ケロッとした顔でそう言うと、優奈は軽くジャンプして敵の太もものあたりを軽く蹴り抜いた。
ドォッゴォォンッ!!!
美晴は唖然として敵の上位種が数百km先の内陸部まで吹っ飛ばされて行くのを目で追っていた。ジャンプもそうだが蹴りの破壊力は間違いなく上位種のものだ。
「す・・・凄い・・・ね。」
「敵の上位種って意外と弱いんですね。」
「そ・・・そうだね。」
美晴はそこそこ高い山脈に頭から突っ込んでいる敵の上位種から目を離すことが出来なかった。
敵の上位種の女も何が何だかわからないという表情で顔を上げていた。
何かを叫びながら立ち上がろうとしたが、上手く立てない。右脚の太ももが完全に骨折して動けなくなっていたからだ。
優奈は、それでも何とか左脚で立とうとする上位種の左太ももめがけて回し蹴りを叩き込み、さらに数百km内陸部に吹き飛ばす。
「優奈ちゃん、空手でもやってたの?」
あまりにも蹴りのフォームが綺麗だったので、追いついた美晴が思わず声をかける。
「はい、覚醒する前に空手と水泳やってました。でも、ちょっと弱すぎてビックリです。」
「そうね、私は優奈ちゃんが強すぎてビックリしてるんだけどね。」
数百km彼方では、両脚が壊されて身動きが取れなくなっている敵の上位種が必死に後ずさっている。それを見ながら、ふたりは近づいていった。
「ちょっと質問させてね。正直に答えないと両腕も使えなくなるよ。」
怯えた顔で横たわっている敵の上位種を見下ろして、美晴が敵国の言葉で質問を始めた。
「いつ、覚醒したのかな?」
「き・・・きのう・・・」
「他に覚醒した子は?」
「い・・・いない・・・」
「なんで軍艦に乗ってたの?」
「そ・・・それは・・・ヒィッ!ギャァッ!!」
美晴が敵の上位種の左肩を踏み砕いていた。
「い、言います。わ、わたし、が、学生で、軍の覚醒訓練受けてて・・・」
「覚醒訓練?そんなことやってるんだ。場所は?」
「しゅ・・・首都の向こう、国境沿い・・・」
「ありがと、ご苦労様。」
敵の上位種がホッとした表情を見せると同時に、だんだん身体が小さくなっていく。
「即席上位種、みたいなもんかな?だから限界迎えるのも早いんだね。じゃあ、優奈ちゃん、殺しちゃってくれる?」
美晴は、手のひらサイズまで小さくなった上位種の無事な右腕を摘まんで、優奈に向けて放り投げた。
「正直に話したのに殺しちゃうんですか?」
「もういらないでしょ?生かしておいても私たちの味方になる訳じゃないし。あれ?優奈ちゃん、会話の内容って・・・わかるの?」
「首都の向こうで覚醒訓練してるって、ちゃんと聞いてましたよ。」
敵国の言葉って高校までの授業じゃ習わないはずだよね。それを理解しているってことは、体力や膂力だけでなく頭脳も上位種クラスということになる。
「まあ、この程度なら慌てて潰しに行かなくてもいいでしょ。」
「はい、じゃあこれ、潰しちゃいますね。」
優奈は、泣き叫んでいる身長200mほどまで小さくなった敵の上位種をそのまま標高500m以上の爆乳山脈の谷間に押し込むと、ブルンッ!と軽く揺すった。
乳圧で骨が砕ける感覚が伝わってきて、少し気持ちよくなってしまう。
直後には赤い筋が谷間から流れ落ちていったが、ふたりはそのまま巨人種の子たちが遊んでいる大都市に戻っていった。
数日後、美晴は西の大陸で起きたことを千鶴と冴香に話していた。
「はぁ、3倍の身長差でそんなに圧勝だったの・・・もはやパワーとスピードは上位種かそれ以上だね。」
「頭脳もね。向こうの言葉、完全に理解できてたんでしょ?」
美晴が大きく頷く。
「ちょっと意地悪してね。ふたりで話す時に他の国の言葉もちょいちょい混ぜてみたのよ。でも、完璧に会話が成立しちゃったわ。」
「あとは治癒力と巨大化能力かぁ。」
「怪我しなかったから治癒力はわかんないわね。巨大化能力は・・・既にあんなに大きいから、無くても問題ない気もするわね。」
「ほぼ上位種認定でいいんじゃない?」
千鶴の提案に他のふたりも頷いた。
それよりも問題は、向こうの上位種から聞き出した『覚醒訓練』のことだ。
人工的に上位種が作り出せるということであれば非常に厄介だ。上位種が3人健在のこちらでも覚醒のメカニズムは全く解明されていないのだ。
自然発生的な覚醒と人為的な覚醒は、そもそも全く別物なのかもしれない。巨大化を維持する時間が自然発生的な覚醒の場合、どんなに痛めつけられても1万倍であれば5分程度は持続したはずだ。それに引きかえ今回は1分も持っていない。
「でもさぁ、いくらアタシ達に比べてヨワヨワだって言っても次々湧いて出来たら厳しいよねぇ。潰しておいた方がよさそうだよね。」
美晴の意見に冴香も賛成する。
「そうだね。寝る間もなくなるっていうのは避けたいもんなぁ。」
「じゃあ、決まりね。誰に潰しに行ってもらうかなんだけど。」
「あ、アタシ行くっ!」
千鶴の話に冴香がノリノリで手を上げた。
「いいわよ。優奈ちゃんも一番あなたに懐いてるみたいだしね。」
「ん?優奈ちゃんも連れてくの?」
「何となくだけどね、たぶん優奈ちゃん、行きたがるんじゃないかと思って。」
「覚醒訓練のことも一緒に聞いてたしね。いいんじゃない?」
美晴も問題ないだろうと応じた。
「そんなわけでぇ、明日はアタシが行くからよろしくね。」
冴香は優奈にナノマシン通信機を使って連絡している。優奈は巨人種として唯一ナノマシンを使うことを3人が許していたのだ。
「ほんとですかぁ!?嬉しいなぁ、また、冴香おねえさんと遊べるんですね。」
「そうだね。でも、情報収集もしなきゃだから、ちっちゃくなったアタシをちゃんと守ってね。」
「はいっ!任せてくださいっ!」
外国の上位種に圧勝したのが自信につながった優奈の明るい声が、通信機から聞こえて来た。
「そういえばさ、なんで優奈ちゃんも行かせるの?」
こちらは美晴と千鶴が通信経由で会話している。
「あ~、それ?別に深い意味は無いけど、なんとなくなんだけど優奈ちゃんの覚醒って段階的なんじゃないかって思って。ほら、美晴さんの前、私があっちに行ってちょっと面倒見てたじゃない?」
「あ~、小学生であの大きさは反則だよってボヤいてたよねぇ。」
「そっちはいいからっ!あの時さ、たぶん頭脳は覚醒してなかったんじゃないかって思ったのよ。試したわけじゃないからわかんないけど。」
「なるほどぉ。身体の成長、頭脳の成長、で・・・最後は巨大化ってわけ?」
「推測だけどね。」
「でも、もしそうなったら、優奈ちゃん、たぶんアタシ達じゃあ歯が立たないくらい強くなりそうな気がするんだけど大丈夫かな。」
「そこはあまり心配してないんだ。これからどうなるかはわからないけど、素直ないい子じゃない。私としてはお母さんを守れればそれでいいからさ。」
少しの沈黙の後、美晴が口を開いた。
「千鶴ちゃんってさ、お母さんのことになると真剣になるよね。なんか理由あるの?行方不明のお父さんと関係あるとか。」
「聞きたい?」
「いや、言いたくなきゃいいけど。」
「いいよ。教えてあげる。」
千鶴はポツポツと話し始めた。
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