西の大陸にて

「えっ?千鶴様が?」

身長162mでようやく覚醒に伴う成長が終わった瑠理香と、身長211m、40倍に巨大化した美晴が、通っている高校のふたりの巨人が座れるくらい拡張した校庭に座って話をしている時に、美晴が言ったことに対する反応がこれだ。しかもそのまま両手を口に当てて絶句している。

「な~に?嫌なの?千鶴ちゃんに言いつけちゃうよ~。」

来年千鶴がこの高校に入学するという話をした美晴が嬉しそうに茶化した。

「だって私、ちょいちょいこびとで遊んでたりしてるでしょ?千鶴様って意味なくこびとを潰す巨人種って嫌いみたいに言ってたじゃん。」

「なるほどぉ、千鶴ちゃんに潰されると思ったんだ。」

瑠理香がゆっくりと頷く。

「でも、瑠理香ちゃんって月にせいぜい100匹くらいでしょ?少ない方だって。」

「そうかなぁ・・・」

「そうだよ。それにもうひとり、この高校に通うんだったら通学するたびに数万匹は潰しちゃうよって宣言してる子もいるし。」

「えっ?それって・・・冴香様?」

「なぁに?冴香ちゃんにもビビってるの?でも冴香ちゃんはこっち来る気無いみたいだしなぁ。ちなみに冴香ちゃんのどこが怖いの?」

「だって、冴香様って見た目めちゃめちゃ怖そうじゃん!目が合っただけでヤバイって言うか・・・」

「あ~、それは冴香ちゃんの前で言わない方がいいわ。笑顔で八つ裂きにされちゃうよ。」

それを聞いた瑠理香の身震いで、校舎が大きく揺さぶられる。

「よっぽど酷いことしない限り私が守ってあげるから安心していいよ。じゃあ、今日は先帰るね。ちょっと行くとこあるからさ。」

そう言って美晴は歩き去って行った。


ズシンズシンと地響きを立てて、片側3車線の幹線道路を足元もろくに見ないで歩いている美晴。ふと何かを思い出したように立ち止まった。

制服のブラウスのボタンを二つばかり外して、爆乳の谷間に指を突っ込む。

摘まみ出したのは、ほぼ鉄板状に潰れた赤い車体の路線バスのようなものだ。

「まあ、瑠理香ちゃんの気持ちもわかるんだよねぇ。私もたまにやりたくなっちゃうし。」

摘まんだ路線バスを目の前まで上げてしげしげと見つめる。バスの車軸やエンジンといった相当硬いものまでものの見事に潰れていて、全体的に鉄板状態だ。

もちろん乗客が乗っていたバスを摘まんで挟んだのだが、人の姿はどこにもない。

バスの壁面に貼りついているとても小さな四肢のようなものが見えるだけだ。

赤色は塗装などでは無く、乗客たちの体液の色なのだろう。赤い雫がぽたぽたと零れ落ちている。


巨人種でも200mクラスの爆乳の子であればバス程度は簡単に挟み潰すことができる。片方だけで数千tはあろうかという脂肪の塊に挟まれてタダで済むはずはない。

あの首相になった巨人種も、バスや電車などを普通種を乗せたまま挟み潰したり、乳の重さだけで押し潰したりしているらしい。ただ、彼女の場合趣味と実益を兼ねて、言うことを聞かない官僚などを粛清しているという側面も持っているが。


上位種ともなると圧力は数十倍にもなる。ペシャンコにならない方がおかしい。

美晴は摘まんでいたバスをポイッと投げ捨て、今日の目的地に向かって少し巨大化しながら歩き出した。



数分後、美晴は西の大国との間に広がる海峡を見通す場所に身長528mの水着姿で立っていた。実は、急激に増えた巨人種の子たちを一時的に西の大陸に移住させていたのだ。復興を企図しているという西の大国を牽制する目的も兼ねている。

特に有効なのは200km以上向こうにいるというのにその姿が見える優奈の存在だ。

小学校6年生だというのに身長6000mを超える巨体は上位種や一部の巨人種の間では『大巨人種』とも呼ばれ、敵に巨人種が現れても指一本で駆逐することができるし、優奈本人も尊敬する冴香にそう頼まれればがぜんやる気になるのだ。


しかし、十数人の巨人種とはいえ、皆十代の少女たちである。指導役兼お目付け役兼指南役(破壊とか殺戮の)兼教師役兼相談役として、美晴、千鶴、冴香が中心となって、主だった巨人種も含めて交替で訪れることにしていた。

「しっかし、本当にでっかいなぁ、優奈ちゃん。あんなでっかい子の先生とか不安だわぁ。ちょっと巨大化した方がいいかな。」

美晴が上位種の中では優奈との最後の対面なのか、珍しく少し緊張していた。


「今日は泳いで行きますか。」

ザッパァァンッ!

528mの巨体が海に飛び込む。既に水深は1000mを越えているので海底にぶつかる心配はない。まあ、ぶつかっても海底が抉れるだけだが。

大型船を余裕で転覆させる大波を起こしながら軽くクロールで20秒ほど泳ぐと、もう西の大陸は目の前だ。幅200km、今の美晴の感覚で700mほどの距離を20秒で泳ぎ切ってしまうのだ。やはり上位種の運動能力は桁外れだ。


海上に腰が出る辺りで立ち上がり、ボロボロになりながらもまだ何とか形を保っている都市に上陸する。国内にいる時とは違って、無造作に残っている建物や逃げまどっている普通種を踏み潰しながらあたりを見回すと、100kmほど離れた場所に、巨人種にはあり得ないサイズの人影を見つけた。


さっきからずっと座ってるけど何やってるんだろう。

よく見ると、座っても山より巨大な優奈の周りに何人かの巨人種の姿が見える。

一緒に仮移住してきた子たちだろう。

「こんにちは~。」

座ったまま優奈の手が届く距離のあたりで、美晴はそこにいる巨人種に声をかけた。

優奈も座ったまま美晴を見下ろしている。そこで、何か気付いたようだ。

「あの・・・美晴様、ですか?」

オレンジ色のビキニに包まれた爆乳がドッタプゥンッ!と揺れる。冴香ちゃんが言った通りマジででかい!たぶん、美晴が優奈と同じくらいに巨大化しても負けるかもしれないほどの巨大さだ。

「そうだよ~、あなたが優奈ちゃんだね。よろしくねぇ。おっとぉ!」

直後に、ズズンッ!という辛うじて残っていたビル群に止めを刺すかのような巨大地震が発生する。優奈が美晴に向き直って膝をついたのだ。

「はい、よろしくお願いします。」

たぶん、今の体格差だと美晴でさえ余裕で呑み込んでしまうほどの爆乳山をブルンと揺らして、優奈が笑顔で頭を下げた。


「優奈ちゃん、ちょっと立ってくんない?」

「はい。」

凄まじい地響きを立てながら優奈がゆっくり立ち上がる。それだけで、周りの巨人種の子たちはよろけて、グチャグチャの街に止めを刺す。

美晴の前には優奈の足首があり、そこから逞しく長い脚が伸びあがっている。

「ちょっと私も大きくなるね。」

美晴が巨大化して身長5280mになった。が、それでも優奈の肩に届かない。

「1000倍でもまだ負けるんだぁ。マジで優奈ちゃんって凄いねぇ。」

「でも、美晴様はまだ大きくなれるから・・・」

「そうだけどねぇ。ん?優奈ちゃん、何挟んでんの?」

美晴は、優奈のオレンジ色のビキニブラに包まれた山の谷間から、小さな瓦礫のようなものがポロポロと零れ落ちていることに気がついた。

「あっ、これですか?さっき、向こうの街に行った時に、ちょっと・・・挟んじゃいました。ごめんなさい。」

「あ~、謝ることじゃないからね。この大陸では好きに遊んでいいんだよ。で?何挟んだの?」

「高層・・・ビルです。でも、ちっちゃすぎて、すぐ隠れちゃって、そしたらすぐ潰れちゃって・・・」

優奈が指先で谷間を少し広げると、さらに大量の粉々になった瓦礫がパラパラと落ちていった。

「その大きさじゃあ高層ビルもちっちゃいよねぇ。じゃあ、みんなでその街に遊びに行く?まだおもちゃ残ってるんでしょ?」

「はい。」

美晴の誘いに嬉しそうに答えた優奈は、その場にしゃがむと瞬く間に巨人種全員を掌に乗せて、「早く行きたいですっ!」と歩き出した。

どうやら、優奈も初めて会う上位種様に緊張していたのか、さっきは遊びもままならなかったらしい。

(なんか、可愛い妹って感じね。冴香ちゃんの感想、納得だわ。)

美晴も、優奈に並んで残った街を踏み潰し、一緒に途中の山まで踏み砕きながら、少し先に見えるかなり大きめの都市に向かって行った。



「おっ、新しいおもちゃ発見っ!」

まだ、街の7割ほどが健在の大都市は、人や車もまだそれなりに多く、何とか街としての機能を保っているようだ。

だが、美晴が見つけたのはその先の大海原に浮かぶ小さな船だ。見た感じ軍船に見えるが、巨人が近づいて来るのを見ていち早く逃げ出そうとしていたらしい。

「みんなは街の中で遊んでてね。優奈ちゃんはちょっと一緒に来てくれる?」

「はい。」

優奈は手のひらに乗せていた巨人種を街の中に降ろすと、美晴の後について軍艦たちの方へと向かって行った。


「追いついちゃいましたね。」

「そうだねぇ。」

ふたりは逃げていく艦隊の前に回り込んで、悠然と十数隻の艦船群を見下ろしている。水深は約1000m、ふたりの膝が余裕で海面上に出る程度でしかない。

「あの、美晴様。これ、おもちゃにしていいですか?」

優奈は全長300mほどのこの中では一番大きな空母を摘まみ上げた。

「いいけどぉ・・・ねえ、優奈ちゃん、冴香ちゃんのことは何て呼んでるの?」

「え?冴香・・・おねえさん・・・です。」

ちょっと恥ずかしそうに俯く優奈。でも、空母を爆乳山の谷間に乗せることは忘れない。既に船体がミシミシと悲鳴を上げ始めている。

「ふぅん、アタシもおんなじ呼び方がいいなぁ。ダメ?」

美晴も3隻ほどの駆逐艦を纏めて手のひらに乗せながら、上目遣いに優奈を見上げた。

「え?あの、その・・・美晴・・・おねえ、さん・・・」

「そうそう!そっちの方が優奈ちゃんに言われると嬉しいんだよね。これからそう呼んで、ね!」

嬉しそうにそう言う美晴が持っていた駆逐艦を纏めて握り潰した。

「あ、はい。美晴おねえさん。」

まだ少しもじもじしているのが可愛いなぁ。と思わず美晴はうっとりしてしまう。でも、あれ?空母、どこ行った?

「あ、潰れちゃいました。」

いつの間にか深い谷間に呑み込まれていたようだ。優奈が照れ臭そうに空母の残骸を摘まみ出して。ポイッ!と投げ捨てた。


残りは仲良く半分こずつにしようか。などと話していると、その中の一隻に異変が起きる。突然、中から爆発したかと思うと、何かがどんどんと大きくなっていくのが見えた。

「上位種?まだ湧いてくるの?」

美晴は半ば呆れた顔で、自分の身長の3倍ほどの巨大な女の姿を見上げている。

優奈は少し驚いた顔をしている。当然だろう。自分より巨大な、しかも、敵意剥き出しの相手など初めて見るのだ。

「優奈ちゃん、下がってて。」

美晴が優奈の前に出ようとした。このままボコるか少し巨大化するか、いずれにせよここで抹殺しておかないといけない。最悪なのはあの街に上陸させることだ。巨人種の子たちが全滅してしまう可能性だってある。


美晴が巨大化しようとした時だった。急に優奈が後ろから声をかけて来た。

「美晴おねえさん。あの・・・」

思わず、「本気で言ってる?」と聞き返すほど大胆なことを優奈は口にしたのだった。

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