規格外の巨人種?

冴香は優奈を掌に乗せて大陸中央に向かって歩きながら、美晴と千鶴にこの大陸の巨人種の生き残りの話をしていた。

「う~ん、見た感じ敵対はしなさそうだけどね。」

「でも、こっちのこと恨んでるんじゃない?」

「それはまだわかんないねぇ。」

「4人だっけ?いったん様子見でいいんじゃない?ちょくちょく様子見に行けば。」

「そだね~。」

「そう言えば、冴香ちゃんどこ向かってんの?」

「あ~、中央部。なんかそこら中からマグマが噴き出して凄いことになってるって聞いたから様子見かな?」

「そ、わかった。じゃあ、気を付けてね。」「気を付けてね~。」

「ほ~い。」

という感じで通信が終わった。


大陸の西側は、千鶴が軽くなぞっただけなので地中には大きな影響は無かったようだが、中央から東は一度深さ数十kmも掘り返したようなものだ。土砂で埋めたものの凹ませてしまうため押し固めるわけにもいかず、軽く均しただけで放置していたら、案の定水とマグマが染み出して来て至る所で水蒸気爆発やら火山噴火を起こしているありさまだった。

「まあ、これじゃあこびとは生きていけないだろうから近づかないとは思うけどね。逞しい奴もいるかもだから。」

「冴香おねえちゃん、私たちもこびとさんがいなさそうなところに行くの?」

「様子見るだけだけどね。嫌だった?」

「ううん、冴香おねえちゃんと一緒だったら全然いいよ。山とかできてたら踏んじゃってもいい?」

「いいよ~。他の子だと危険だけど、優奈ちゃんくらい大きかったら大丈夫かなって思って連れて来たんだから。」

「ありがとう。楽しみ~!」

そんな話をしながら、明らかに地表の色が変わっている場所に近づいていった。


「なんか凄い景色だね~。優奈ちゃん、大丈夫?息苦しくとかない?」

冴香は優奈を地上に降ろして、6980mまで小さくなる。5890mの優奈と並ぶと優奈の身長がちょうど冴香の肩の辺りに届くかというところだろうか。

「うん、大丈夫。でも、本当に誰もいないね。」

優奈は足元を見下ろしてみるが、人間はおろか動くものは何もない有り様だ。

もう、少し先では標高1000m級の火山が出来上がっていて周りの地形を変えながら噴火を繰り返している箇所がいくつもある。

「ちょっと多すぎかなぁ。さて、どうやって減らすか・・・」

「踏んじゃう?」

「いいけど、巨人種じゃやけどしちゃうんじゃないかな?」

「でも、今もあったかいくらいだから・・・」

よく見ると、優奈の左足に細い溶岩流が当たっているのが見える。

「優奈ちゃん、熱くないの?」

「うん、大丈夫!」

大きな胸をドンッと張って元気に答える小学生の女の子、本当に熱くないらしい。

「じゃあ、この辺の山は踏んで溶岩を止めとこうか。」

「うん、わかったぁ!」

優奈は元気に山々を簡単に崩すほどの地響きを立てながら走り出していった。


確かに上位種にとってはこの程度は生あったかい程度なんだけど・・・

冴香も噴火している火口を踏み潰しながら歩き回っている。

(ひょっとして優奈ちゃんって実は・・・)

冴香はもう一度巨大化した。

「ねえ、優奈ちゃん。」

「は~い!」

優奈が足元の大地を盛大に抉りながら駆け寄って来る。本当に屈託の無い笑顔だ。

「優奈ちゃんがもっと大きくなれたらどうする?」

足元の優奈に話しかける。

「そうだなぁ。でも、そうしたら冴香おねえちゃんのお手伝いいっぱいできるよね。」

「そうだね。だったら、今のアタシと同じくらい大きな優奈ちゃんを想像してみてくれる?」

これで巨大化したら間違いなく上位種だ。冴香は固唾を飲んだ。

が、いくら待っても優奈の大きさは今のままだ。やっぱ上位種じゃないのか。

「おっきくなれないみたい。ごめんね・・・」

「あ~、気にしないで。優奈ちゃんが悪いわけじゃないし、ほら、火山だってだいぶ減ってるのは優奈ちゃんのおかげだよ。」

冴香はまた小さくなって優奈を優しく抱きしめた。


「ねえ、冴香おねえちゃん。」

冴香の巨大な胸の谷間に顔を埋めて優奈が冴香の顔を見上げていた。

「ん?どしたの?」

「あのね・・・冴香おねえちゃんのこと、ぎゅーってしていい?」

「いいけど別にいちいち聞かなくても大丈夫だよ。上位種は巨人種より強いから。」

「そうなんだけどね。優奈って超バカ力だから言っとかないとビックリしちゃうかなって・・・」

「そっかぁ、いいよ。アタシは上位種の中でも一番頑丈だと思うから。」

「うんっ!」

冴香の両腕がものすごい力で締め上げられる。驚いた顔で優奈の顔を見下ろすがまだ戸惑っているような顔をしている。これ、全力だったら・・・

少し怖くなったが、上位種としては知っておかなければならないことだと思った冴香は優奈に声を掛ける。

「優奈ちゃん、怒らないから思いっきりぎゅってしてみて欲しいな。」

「いいの?」

「うん、大丈夫だよ。」

言った瞬間後悔した。とんでもないパワーが冴香に襲い掛かって来た。恐らく今の冴香と同じかそれ以上だ。両腕が潰れそうになり、思わず少し仰け反った背骨が軋む。

「す・・・凄いね・・・おねえちゃんより、強い、かも・・・」

胸が圧迫されて声が出しにくい。こんなことは初めてだった。


皮膚の強度やパワーレベルは上位種並みかそれ以上、恐らく体幹もそうなのだろう。それに熱や有毒ガスに対する耐性もありそうだ。

でも、巨大化できない。これって巨人種なの?上位種なの?それとも新種?

ひとつだけ言えることは、この前蹂躙した西の上位種が1万倍に巨大化した状態でも、優奈の方が圧倒的に強いだろうということだ。

つまり、1万倍上限の上位種よりも上位の巨人種と言うことになる。

(悩んでも仕方ないか。近所に住んでるんだし何かあったらすぐわかるでしょ。)

冴香はあまり深く考えずに、優奈を伴って適当に火山を間引きしながら東海岸に向かうのだった。



風の流れのせいで火山性有毒ガスがほとんど流れてこない東海岸の一角では、某国がせっせと領土拡大に勤しんでいた。東の大国が消滅して1ヶ月後には先遣隊を派遣して橋頭堡ともいえる場所を築き、それから2ヶ月ほどたった今、軍の駐屯地を中心とした街の建設を始めたところだ。民間の建設業者を使って本格的なまちづくりに乗り出そうとした矢先、それは現れた。


大陸の西側で繰り広げられている各国の領土争奪戦はもちろん知っていた。そこにこの大陸の巨人種が加わり乱戦になっていることもだ。だが、普通種では、いや、巨人種でも中央部の火山地帯を踏破することは高熱のマグマや火山性有毒ガスのおかげで不可能なのだ。

急報がもたらされるまでは西からの脅威は無いとタカをくくっていた。


大陸の西端に、現存する上位種のうちのひとりが現れたという報告が入ると、司令部は大騒ぎになる。しかもその上位種が大陸中央に向かっていると知ると、必然的に警戒レベルが跳ね上がる。だが、この時でも、中央部は人が住める場所ではないと判断するだろうと考えていた。


上位種が火山地帯を通り過ぎ、東海岸に近づいているという報告とほぼ同時に、その姿をはるか遠くに視認することができた。

身長およそ 70kmのスタイル抜群の爆乳美少女が東海岸の北寄りに向かって地響きを盛大に上げながら歩いている。この場所は同じ東海岸とはいえ、今向かっている方向からは2000kmは離れているだろう。このままやり過ごせれば・・・軍幹部たちは固唾を飲んで、大巨人の動きを注視していた。



「この辺が千鶴ちゃんが指で穴開けたあたりかな?」

東海岸に到着した冴香が優奈を降ろしてまた小さくなっていく。指1本で100km以上も押し潰してマントルまで露出させてしまった辺りは、土砂で埋めたものの周囲より少し、といっても5000m以上も低くなっているのですぐにわかる。それが延々と広がっているのだ。

「指の太さだけで100kmくらいだからね。こうやって見るとでっかいよねぇ。」

「冴香おねえちゃんも千鶴おねえちゃんと同じくらいおっきくなれるの?」

「なれるよ~。でも、大きくなりすぎるとこんな星なんかすぐ壊しちゃうからね。難しいんだよ。」

実際、もう少し巨大化すればこんな星など片手で簡単に握り潰せてしまうのだ。

「でもいいなぁ、優奈ももっとおっきくなりたいよ。」

「そうなの?なんで?」

「う~んとね。冴香おねえちゃんと一緒に居たいから・・・かな?」

優奈が頬を少し赤らめる。本当に可愛い。妹みたい。冴香は優奈を優しく抱き寄せて南下していくのだった。


若干だが空気が少し澄んできた気がする。来た道の火山をけっこう潰したせいかも知れないが、気流のせいかもしれない。しばらく進めば足元辺りまで空気は綺麗になりそうだ。つまり、こびと、つまり普通種でも工夫すれば充分生活できる環境になるということだ。やがて何やら遠くに見えてくると、冴香は勘が当たったと感じた。

「優奈ちゃん、向こうにこびとがいるみたいだね。」

「そうなの?あ、ほんとだぁ。街みたいのがあるっ!」

冴香が指さす方向を見て、優奈の顔が綻んだ。

「ねえ、冴香おねえちゃん。先に行っていい?」

「いいよ。」

身長5890mの大巨人の少女が、超巨大地震を引き起こしながら勢いよく駆け出していった。

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