次の世代

プチ遠足 上陸

大きな事件があってから、いや、大きな事件を起こしてから3ヶ月ほど、しばらくは平穏な日々が続いている。

上位種の3人はなぜか週末に集まってどうということのない話に花を咲かせるのが週一のイベントになっていた。

中高生の女の子が学校の帰りにファストフードなどに集まってポテトとドリンクだけで延々とどうでもいい話に花を咲かせる。そんな感じだ。


「そういえばふたりとも高校どうするの?」

何気なく美晴が尋ねる。

「私は美晴さんの高校にしようかと思ってる。近いし。」

千鶴は即答だが、冴香は少し考えていた。

「行ってもどうせフルリモートか週一でしょ?行かなくてもいいかなぁ。」

「え~っ、ひとつの高校に上位種そろい踏みってなんか凄くない?冴香ちゃんもおいでよ。」

美晴が冴香を乗り気にさせようと餌を蒔くが効果はほとんどない。

「でも、うちから遠いじゃん。通うにしても巨大化するからさ、たぶん学校行くたんびに何万匹か踏み潰すと思うんだよね~。」

「じゃあ引っ越す?」

「めんどくさい。。。」

「もう~、冴香ちゃんのいけず~・・・」

「ここで週一くらいで話せるんだからいいんじゃない?」

ここで、ようやく千鶴が口を挟んで来た。

「でもさ、ここに来る時も何万匹か踏み潰してくるの?巨大化して来てるよね。」

「あ~、通る場所決めてるから、最近はこびとはいないなぁ。」

「だったら、学校も同じじゃん!」

美晴が復活したかのように参戦した。


そんな感じで話をしていく中で、普通の高校生ではしないような話題に移る。

「そう言えば秘書官、じゃない、首相だっけ?涼子ちゃん。上手くやってるの?」

政治や国際情勢には全く興味が無い冴香が話題を変えた。

「そこそこじゃない?でも外交とかだと相手をビビらせすぎてるらしいけど。」

千鶴は新しく誕生した政権のオブザーバーとして、涼子の相談に乗ったりしているのは他のふたりもよく知っていることだ。

「あ~、身長228mだっけ?外相の子が262mでしょ?あのふたりが並んだら普通のこびとはみんなビビるわ。」

美晴がケラケラと笑って答えた。


「そうだ。でかいって言えばさぁ。」

冴香が話題を変えると、美晴がすぐに喰いつく。

「なぁに?そのふたつぶら下げてるでっかいのの自慢かな?」

「はぁ?美晴さんだってでかいでしょ!ほら、千鶴ちゃんが拗ねるから止めなって。」

「別に拗ねてないし、ふたりがその肉の塊で大都市を瞬殺したのも記録映像でちゃんと確認してるけど、重いと大変だなぁって思っただけよ。」

「そう、重いのよ。じゃなくてさ、ほら、最近なぜかうちの近所巨人種フィーバーじゃない?」

「元々いたおばさんふたりと中3ふたりに加えて高3、高1、中3がひとりずつ、中2がふたり、中1が3人だっけ?学生だけで総勢10人かぁ!そのうちひとクラス分出来ちゃいそうだよね。そうだ。いっそのこと、学校作っちゃう?」

美晴が大胆な提案をする。そんなにたくさんの巨人種が通う学校など、大都市丸ごと潰さないと作れないだろう。

「いや、報告上がってると思うけど、おとといひとり増えた。しかも小6。身長は今朝計ったら376m!400mは超えそうな勢いだよね。」

「マジ!?ついに200倍オーバーの巨人種かぁ。って、小6なの?報告よく読んでなかったけど、なんか低年齢化過ぎない?」

美晴の口調が少し面倒くさがっている。

「そうみたい。でも、増えてるのこの国だけなんだよね。小学生も全国的に何人かいるみたいだけど、200倍超えは聞いてないなぁ。」

千鶴は逆に少し困ったような顔をしている。

「あんまり増えても逆に普通種がどんどん減っちゃうしね。とはいえ、年下とか子供を、やり過ぎたら処罰するって言うのもなぁ・・・」

美晴の言うことはもっともだとふたりも思った。千鶴が少し顔を上げる。

「提案なんだけどさ、西の大陸のこっち側に家とか学校とか作って移住させない?一応遊び場も残ってるし、なんか勢力を盛り返そうって躍起になってるって噂も聞くんだよね。」

「宇宙計画は?」

「そっちは並行して進めるけど、外宇宙の有人惑星の探索はあくまで遊び場探し。これ以上巨人種が増えたらこの島国じゃ狭すぎるって。」

ちづるの意見にほかのふたりも賛同した。

冴香など「建設ラッシュなんだけど追いつかなくてさぁ、仕方ないからアタシの家も開放してあげてるんだよねぇ。」と自虐的に笑っていた。



無人の荒野と化した東の大陸だが、中央から西側では各国が小競り合いをしながら領土拡張に勤しんでいた。そこに、東の大陸の巨人種の生き残りが現れ、拍車をかけて混乱させている。12歳~18歳の彼女たち4人は軍属では無くたまたま他の地域に遊びに行って運よく生き残ったのだ。

目の前を恐ろしく巨大な肌色の壁が右から左へともの凄い勢いで移動して何もかも、本当に何もかもすり潰す様を、上位種の恐ろしさをまざまざと見せつけられたのだ。

あの壁の正体が、たった一人の上位種の指先だと知った時にはショックで気絶しそうになったほどだ。

その場で恐怖のあまり固まって数日が過ぎた頃、恐る恐る戻ってみると、まっ平らに姿を変えられていた祖国と、そこに蟻のように群がる他国のこびとたちを見て、悲しみと怒りが同時にこみ上げ、蟻の群れを追い払うために広い国土を縦横無尽動き回っていた。

領土の拡張をしたい国々も黙ってはいない。相手が巨人種ならまだやりようがある。

強力な通常兵器なら痛みも与えられるし、一撃離脱を繰り返せばダメージも蓄積させられる。巨人種と軍隊のいたちごっこがもう3ヶ月近く続いていた。

この状態が変わる機会が、遥か海の向こうから恐ろしく巨大な少女の姿をして近づいて来た。


「ほら、あれが東の大陸だよ~。でも、やっぱなんかのっぺりしてるなぁ・・・」

身長69.8kmに巨大化した黒のビキニ姿の冴香が、手のひらに乗せた10人の巨人種の女の子たちに話しかける。冴香から見ればひとりを除けば1cmにも満たない小さな女の子たちだが、一番小さい子でも身長50m以上ある巨人種だ。

冴香が近所の巨人種の子たちを誘って、『プチ遠足』と称して東の大陸に遊びに来たのだった。

1万kmはあろうかという距離も、今の冴香の感覚では300mくらいだろうか。

のんびり歩いても5分もすればついてしまう近さなのでプチ遠足と呼んだのだった。


冴香は海岸に近づくと手のひらを陸地に下ろして、全員を着地させる。

「優奈ちゃんはちょっと待っててね。」

ひとりだけ小さな人形サイズの女の子、優奈を摘まんで少し離れた場所に下ろす。

小学6年生の優奈とは、少し前に上位種同士の間で話題に上った巨人種に覚醒した女の子で、今の身長は5890m!普通種の3000倍というとんでもない大きさに成長してしまっていた。

なので、他の巨人種と同じ場所に下ろすとうっかり踏み潰してしまうかもしれないので少し離れた場所に下ろしたのだ。


優奈を下ろした後、6980mまで小さくなった冴香が足元のどこかの国が一生懸命作った前線基地を無造作に踏み潰しながら優奈に近づいていった。

「広いよねぇ。ここなら思いきり遊べるでしょ?」

「はい。。。でも、こびとさんが・・・」

筋肉質なアスリート体型で胸とお尻が大きく発達している。その爆乳をピンク色のビキニで包んでいる姿は、とても小学生とは思えないほどだ。

「優しいのね。でも、こびとのことなんか気にしてたら思いきり遊べないわよ。ほら、他の皆は楽しそうに遊んでるよ。」

冴香が指さす方向では、30倍~100倍くらいの巨人種の子達が、必死に攻撃している軍隊をおもちゃにしたり、建設途中の建物を蹴り上げたり踏み潰したりして楽しんでいた。

「でも・・・ううん、冴香おねえちゃんが、いいって言うんなら。」

優奈は右脚をゆっくり上げると、建物や重機、沢山のこびとが集まり、ふたりの大巨人に無駄な銃撃をしている辺りに狙いをつけてサイズ1kmを超えるでか足を踏み下ろした。

ズゥッズゥゥンッ!

巨大な足跡の中は、すべてのものがペシャンコに圧縮され、何一つ動くものはない。それを見下ろして優奈はゴクリと息を呑んだ。

「どう?こびとのお友達から怖がられることも無いでしょ?」

「うん!ちょっと、楽しいかも!」

優奈が次の獲物を探していると、言い争うような小さな声が聞こえて来た。


9人の巨人種の子達が遊んでいる時、見慣れないふたりの巨人種が声を掛けて来た。

しかし、言葉が通じない。巨人種は上位種と違って頭脳は少し良くなるくらいなのだ。唯一高3の子が少し理解できたのであとは身振り手振りでコミュニケーションを取っていた。

少しして同じ体格同士で取っ組み合いが始まった。この中で284mと一番大きな中1の子は「おとなげないなぁ」と思って静観していたらしい。

そこへ、冴香と優奈が盛大な地響きを立てながら近づいて来た。

「あれ?見ない子ね。アンタ、どっから来たの?」

金髪の女の子は冴香と優奈を見上げて上位種だと感じたようだ。丁寧に事情を説明する。

「ふぅん、アンタ、この国の生き残りなの。で?自分たちの国を取り戻したい、と。」

金髪の子と、一緒に摘まみ上げた茶髪の子が並んで頭を下げる。

潰しちゃうのもちょっと可哀そうかな。冴香は折衷案を出した。

「じゃあ、今日のところは仲良く遊んだら?アンタたちにとっても、その辺のこびとたちは敵なんでしょ?だったら、こっちの巨人種の子と一緒に遊んで殲滅すればいいわ。」

もちろん、こちらの巨人種の子たちは冴香の決定にNoを言うはずが無い。

「あ、優奈ちゃんは、アタシと一緒にいてね。」

冴香は、中1の最長身の子に仲良く遊ぶように言いつけると、優奈を伴って大陸中央に向かって歩き出した。


「ちょっと広いからね。大きくなるよ。」

冴香は、再度69.8km に巨大化すると、優奈を掌に乗せてナノマシン通信機で美晴と千鶴に連絡を取りながら至る所から噴煙が立ち昇る大陸中央部に向かって歩き出した。

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