西の開戦

同じ頃、西との国境になっている海峡を挟んで6980mに巨大化した冴香は、対岸に見える上位種と思われる4人と睨み合っていた。

向こうも1000倍に巨大化しているらしく、およそ2000~5000mというところだろうか。冴香の方を見てニヤついていた。

ただ、北とは違い冴香の近くにはそれなりの規模の都市がいくつかある。このため住民の保護目的のための巨人種の配置も30人と一番多い。

「冴香ちゃん、とりあえず20km圏内の避難は完了したって。」

冴香のでか足の横で、真由美が大声を張り上げていた。

「おっけ~、じゃあ真由美さんたちも下がってて。さすがに4人相手だとみんなを守り切れる自信はちょっとないわ~。」

「わかった~。必要になったら呼んでね。」

真由美たち巨人種も後退を始めた。



美晴と千鶴との交信後すぐに事態は動き始めた。対岸の4人が巨大化を始めたのだ。

(3人は1万倍が限界って聞いてるけど、ひとりは未知数だったっけ?)

4人とも1万倍、20~50kmに巨大化して海峡を踏みつけながらゆっくりと歩いて来る。どうやら、冴香がどれだけ巨大化できるのかわからないようで慎重だ。


冴香も都合がいいと思っていた。一気に詰められたらさすがに足元近くの都市は瞬く間に踏み潰されるだろう。

幸い約30kmほど沖合いに島がある。あの島はこちらの領土なので、あの4人のうちひとりでも島を踏むか超えるかすれば侵略と見なすことができる。

冴香は4人の動きを注意深く観察しながらも舌なめずりした。


たぶんもう国境は超えてるんだろうな。そう思って冴香も海に入る。チャプンという感覚だが、係留されている大型船は思いっきり揺れている。

「そうだよねぇ。」

独語して前を向くと、西の上位種のうち一番大きな子が島の端を踏み潰すのが見えた。同じ歳くらいの少し肉付きがいい感じの子だ。

「しっかし、全員裸ってのもなかなか壮観だね。」

クスッと笑うと、今の10倍の69.8kmに巨大化して、一気に全員を見下ろす。。。はずだった。


視界の左端、一番小柄な身長20kmほどのスリムな体型の女の子の姿が拡大する。雰囲気は千鶴に近いが千鶴ほど冷徹ではなさそうだ。

だが、その少女が冴香の前に立ちはだかり、蹴り飛ばそうと左脚を振り上げた。


「意外と遅いな。上位種だよね。」

そう呟きながら軽くジャンプする。普通種の10万倍の巨人種などいるはずが無い。間違いなく上位種だ。しかも、どのくらい巨大化できるか最後まで捕捉できなかった子なのだろう。

だが、冴香はあまり驚いていなかった。1万倍の自分の約3倍程度だったからだ。身体のラインの細さから推測すると体重差も20倍も無いかもしれない。

冴香としては蹴っ飛ばして様子を見ようと思っていた。

軽くジャンプして、10万倍上位種の腰のあたりを蹴り飛ばす。

ドグゥワッ!!!

凄まじい轟音と共に、超大巨人の身体は海峡の向こう、西の大陸に叩きつけられた。

着水した冴香は、「いや・・・さすがに手ごたえなさ過ぎでしょ・・・」

半ば呆れた顔で残された3人を見下ろしていた。


残された3人の西の上位種は文字通り唖然としていた。自分たちの2~3倍の巨大な敵の上位種の出現は想定通りだ。しかし、こちらには最近覚醒したばかりだがこの3人が束になってかかっても手も足も出ないほど強大な上位種がいるのだ。

それがいとも簡単に蹴り飛ばされてしまった。しかも、自国のかなり広い範囲を壊滅させてしまっている。だが、本当の恐怖はこれからだった。

「でかいわりに弱いんだね。アンタたちもそうなの?じゃあ、絶望でも味わってもらおうか。」

3人の目の前の敵の上位種の身体がどんどん拡大していった。



冴香は120kmのサイズを誇る超でか足の間を見下ろした。

「そういえば島は踏み潰すと領土が減るって千鶴ちゃんが言ってたっけ。

ま、とりあえず帰ってくれるかな?」

人差し指を丸めて、まずは逃げ出そうとしている身長30kmほどの上位種に近づける。今の冴香の中指の長さほどの身長だ。

ドゴォッ!!!

冴香としては軽く弾き飛ばしたはずなのだが、海峡を切り裂いて一直線に大陸沿岸に叩きつけられた。

「う~ん、弱すぎだね。」

他のふたりの上位種も次々に弾き飛ばし、冴香は西の大陸に上陸した。



ここまで大きいと都市なのか何なのか正直分かりづらい。

冴香はいちどしゃがんで、3人の上位種を摘まんで掌の上に転がし、ひとりの10万倍に巨大化した上位種の頭を丸ごと掴んで立ち上がった。

「もうおしまいなの?」

冴香としては少々、というかだいぶ物足りない。ここまで巨大化する必要も無かった気がする。実際、頭を掴んで吊るしている上位種は必死に冴香の手を掴んで逃げようとしているが、強靭な右手はビクともしない。


ふと、北の方に動いているものがあることに気がついた。

(あれって・・・美晴さん?もう10万倍になったんだ。早いなぁ。。。そうだ、あっちって確か上位種一匹だけだよね。アタシより物足りないかも・・・)

「決めた。アンタ、うちのもうひとりの上位種に遊んでもらってよ。」

冴香は頭を掴んでいた上位種を軽く投げ上げる。世界中に響き渡るようなけたたましい悲鳴を上げる女の子に狙いを定めて、冴香は回し蹴りの構えを取った。

「プレゼン・・・トウッ!」

右脚で身長200kmの超大巨人の腰のあたりを振り抜く。

ドゥッグゥワッッッ!!!!

先ほど蹴った時とは比べ物にならない凄まじい轟音と共に、超大巨人の身体は北に向かって吹き飛ばされていった。


超大巨人が超音速で数千kmも蹴り飛ばされた周囲への破壊力は途方もないものだった。進路上の都市も森林も山岳地帯も関係なく、300km以上の幅を帯状に衝撃波が襲い掛かるのだ。いくつもの都市が跡形もなく消失し、標高5000m級の山々が連なる大山脈は逆に深さ数10kmもえぐり取られていた。

冴香のこの一撃だけで、1億人以上が消失したとも言われる凄まじい破壊力だった。



「とりあえずあんたたちの親玉潰しとかなきゃね。」

冴香は掌に乗せている3人の上位種を見下ろすと、ゆっくりと西の大国の首都に向かって歩き出す。首都と言っても海岸線から2000km程度しか離れておらず、冴香の足だとたったの数歩で着いてしまう距離だ。


ひときわ大きなグレー掛かった模様。たぶんこれが首都の街なのだろう。

ズズズンッ!

あとの楽しみが減ると思ってなるべくそっと寝そべるが、大きさが大きさなので、街の手前に爆乳を置いただけで地面が少しひび割れたようだ。

「これ、片乳だけで潰せそうだなぁ。」

確かに片方だけで幅80kmを誇る爆乳と比べると眼下の小さな大都市の方が一回りほど小さそうだ。


「ほれ、着いたよ。」

冴香は寝そべったままで掌に乗せていた3人の上位種を街の中心部に転げ落とした。冴香から見れば虫けらだが、皆身長30~50kmの超大巨人である。

ただそれだけで首都の半分近くが壊滅してしまった。

「アンタたちには、絶望ってものを充分に味わってもらってから滅亡してもらおうかな。」

冴香がにやけた顔でこの国の言葉で話すと、まずはこの中で一番小さな身長30kmの女に指先を近づける。

「上位種でも色々いるみたいでさ、アンタたちはさしずめザコ上位種ってことみたいだね。それ以上でかくなれないんじゃ万にひとつも勝ち目ないから。ん?」

何となく頭上が薄暗くなった気がした。眼下で怯えている西の上位種の様子が少しおかしい。自分じゃない何かに怯えているようだ。

少し気になったので冴香も振り向いてみた。


「・・・ち・・・ちづる、ちゃん?」

頭上の空一面に黒髪の美少女の顔が浮かび上がっていた。

いや、それ、思いっきり星よりでかくなってるじゃんか!

(千鶴ちゃんでも予測できない事態があったのかぁ)

「あの、宇宙から見下ろしてる子、アンタたち、あの子にどうやったら勝てるの?

アタシもあのくらい余裕でいけるんだけど。」

クスッと笑うと、身長30kmの上位種を指先で弾き、バラバラに消し飛ばした。

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