顔合わせ会 第二部(女子会)後編
「千鶴ちゃん、冴香ちゃんにプレゼントあるんじゃなかった?」
胡散臭い話は終わりにしようということになり、次の話題を美晴が突然振ってきた。
「ああ、あれ?アンタさぁ、さっきちいさくなる時にいちいち着替えてたじゃん?あれ、面倒くさくない?」
「だって仕方ないじゃん。服の大きさとか変えられないでしょ?でも・・・そういえば・・・」
このふたり、小さくなった時に着替えてない。たぶん巨人種の眼だと追いつかなかったと思うけど、着ていた服が塵になって、小さくなったふたりがジャンプしてテーブルに着地するまでに何かがまとわりついて服になってた。
「着替え用ナノマシン。一応1億個くらい入ってるけど、あまり巨大になりすぎると時間かかるから適当に増殖してくれる?あと、制御プログラムはスマホに送っとくからあとは好きに改造して。」
千鶴が小箱を冴香の前に差し出した。
箱を開けると、塵のようなものが一斉に噴き出してくる。あ~、さっき見た奴と同じだわ。そう思って眺めていると千鶴がまた口を開く。
「初期設定しておくから、服脱いでくれる?」
「え?ああ、わかった。」
冴香は立ち上がって着ていた服を脱ぎ始めると、ふたりから同時に「おおっ!」という歓声が上がった。
「なっ、なに?その反応ちょっとエロいんだけど・・・」
ケンカ最強の番長が、まるで気が小さい少女のような反応を見せてしまう。
「いや・・・凄いとは聞いてたけどこれほどとは・・・腹筋バキバキじゃん!太股も凄い迫力だしおっぱいも馬鹿でかいし、これ、本当にタメ?」
千鶴がそう言うと美晴も賛同した。
「そうねぇ。覚醒する前でもプロレスラーとか相手でも勝てたんじゃないの?」
「ああ、一度プロの格闘家って言ってたヘタレをボコボコにしたことはあるかな。」
冴香はその時のことを思い出して、クスッと笑った。
脱ぎ捨てた服は床に落ちている。しかし、冴香は同じ服、黒のタンクトップと黒のショートパンツを身に纏い、ご丁寧に下着までつけている。
「すごっ!ちょ~便利だよっ!千鶴ちゃん、ありがとう!」
「い、や、どう、いたし、まして・・・」
筋肉の鎧を纏ったモンスター級の身体の女にまるで子供のような笑顔で礼を言われて、千鶴も思わずたじろいでしまった。
「カスタマイズとか面倒だったら、手伝ってあげるから、遠慮なく言ってね。さ・・・冴香、ちゃん。」
普段は冷酷無比な千鶴がたどたどしく答える姿を、美晴は笑いを堪えて見守っていた。
「あともうひとつ、プレゼントって言うか計画してることを話しておくわね。冴香ちゃん、最近ストレス溜まってない?」
「え?ああ・・・自由に身体動かせないとか、けっこうストレスかも・・・」
美晴に聞かれて冴香は正直に答えた。実際、今のサイズで偉そうにしている強そうな男をボコボコになどできない。たぶん指1本でも簡単に殺してしまえる。軽く暴れればこの軍基地程度は簡単に破壊し尽くせる。もちろん今のサイズで、だ。
正直、上位種って意外と不便だと思っていたのだ。でも、それはこのふたりも同じなのでは?
「本気まではいかなくても、運動不足を軽く解消してくれる場所って欲しいと思わない?」
「あればいいですけど・・・加減を間違えるとこの大きさでも国丸ごと潰しちゃいますよね。」
「なので、地球以外の遊び場所を見つけるために恒星間航行ができる宇宙船を作ってるの。たまに巨人種も連れて行きたいからかなり大きいのを作ってるんだけど、ちょっと人手が欲しくって、手伝ってくれると嬉しいんだけど。」
何となくやりたいことはわかったが、ずいぶんスケールがでかいなぁ。それに疑問がいくつか。。。
「恒星間宇宙船って・・・そんな技術どこに・・・あ、まさか。」
「だいたい考えてることはわかるわ。地球外生命体って意外と地球に来てるのよね。で、そいつらを捕まえて船の構造とか調べてたんだけど、意外と簡単にできそうなのよ。」
「乗ってた宇宙人は面倒だから殺しちゃったけどね。キモいし、人間っぽいのもいたけど、ピーピーうざいし。」
横から千鶴が口を挟む。美晴と冴香が楽しそうに会話しているのが気にくわなかったという顔つきだ。それをあえて気づかないふりをして冴香が質問する。
「で、その宇宙船で、そいつらの星に暴れに行くってこと?」
「そういうこと!楽しそうでしょ?どう?冴香ちゃんも参加しない?」
地球人を殺すよりも罪悪感は無いかなぁ。というか、最近は普通種だったら潰しても仕方ないと思い始めてるし・・・
「いいですよ。正直退屈してたんです。でも、私たち3人が出かけてる間に何かあったらどうするんです?」
宇宙船を飛ばすとなったら間違いなく外国に知られることになる。その宇宙船に誰が乗っているかを知ったら動き出してくる国もあるだろう。
「だから、最初に外国の上位種をせん滅するのよ。あのお姉さん以外はね。あ、これ、私たちしか知らないことだから、あの巨人種にも内緒ね。」
あのお姉さんとは星の裏側に住む温厚なお姉さんのことだろう。
千鶴の答えは冴香の想像大きくは超えなかったがかなり攻めたものだ。だが、冴香も同じようなことを考えていた。3人ともそれなりに過激なようだ。
そして、その過激な計画が実行に移されるのは時間の問題になっていた。
「はぁ・・・うちゅう・・・」
宇宙に行くという話は巨人種にも公開していいということで、帰宅した後の夕食時に冴香が話すのを聞いて、由美子と真由美の反応はほぼ同じだった。
違いと言えば、真由美が大木サイズのブロッコリーを食べようとしたが動揺して落としてしまったくらいだろう。
30倍に巨大化してふたりと同じ食卓を囲んでいた冴香が床に落ちる前にサッと拾って口に放り込みながら、嘯いた。
「まあ、地球上ではそんなに派手に暴れられないからさ。」
「「当たり前ですっ!!!」」
珍しく、声を揃えてふたりに叱られてしまう。
それにしても、と冴香は思う。本当に上位種って言うのはとんでもない存在。いや、存在だけで天災級なのだろう。
(そりゃ国を挙げて何とかしたくなるわけだわ。)
ただ、もうひとつの話は、事が終わるまでは秘密なんだろうなとも思う。
「ま、そん時のお楽しみだよね。」
冴香はふたりに聞こえないよう小声で呟くと、お世辞にも美味しいとは言えない巨人種用の合成肉を口に放り込んで水で流し込むのだった。
ほぼ同じ頃、軍事大国間で秘匿回線を使った会議が秘密裏に行われていた。
極東の島国に突如現れた3人の上位種の顔がモニターに映し出されている。
「ずいぶん可愛らしい上位種様だな。これなら別に脅威にはならないんじゃないかね。あの国も調子に乗っているようだし、ここはどうだろう?三方から一斉に攻撃して三分割するというのは。」
・・・
「よかったねぇ、美晴さん可愛いって。」
「いやいや、千鶴ちゃんでしょ?正統派美人だし。でも、冴香ちゃんもワイルドだけど美人だよねぇ。いいなぁ、なんか見た目だけだと私が年下みたい。」
「十代は可愛い方がいいって。ってか、あいつらいつ頃来るのかなぁ。」
当然この程度の秘匿回線など千鶴にとっては何の障壁も無いほど簡単に突破できるので、きっちり盗聴していたのだ。向こうにも上位種はいるが、頭脳労働はしない。政府や軍にとっては、上位種は単なる大量破壊兵器でしかないからだった。
「さあ、近々じゃない?いちおう冴香ちゃんにも連絡入れとこうか。」
「そうだね。でも、冴香ちゃん、味方になってくれそうでよかったよね。握手した時に思ったのよ。この子、敵に回したらヤバイって。」
「ああ、それ、私も思った。私たちふたり掛かりだったら勝てるかも知れないけど、余力無くなるだろうなって。」
美晴も千鶴も同意見だったそうだ。実は、同じことは冴香も感じていた。タイマンでギリギリ勝てるかどうかと。遠く離れた場所の冴香のくしゃみが聞こえてきそうだ。
「わかる~、そういえば奴らの新しい上位種は?尻尾掴めそう?」
千鶴は東に1人、西に2人の新たな上位種覚醒の情報を掴んでいたのだ。今はそのスペック、特に巨大化能力の情報を何とかかき集めようと各国の諜報機関のハッキングに余念がない。
「明日くらいには掴めるかも。でも、あんま期待しないで。意外と硬いのよ。」
そんなことを言ってもあっさり突破してしまうのが千鶴なのだ。
美晴が大きく伸びをする。
「じゃあ、私たちもお開きにしようか。お腹もすいたし。」
「そうだね。じゃあ帰るね。お邪魔しましたぁ。」
言うが早いか身長198mの千鶴の姿はどこにもなく、ほぼ同時にドッゴォォンッ!という轟音が壁の方から轟いた。瞬時に小さくなって壁を突き破ったのだ。
「もう、また壁に穴開けて・・・まあ、千鶴ちゃんもお母さんのことが心配なのはわかるんだけどね。」
「あら、お母さん想いのいい子じゃない。」
美晴の母のみどりがふたり分の飲み物を持ってきたのだが、ひとつ無駄になってしまったようだ。
「お母さん、作戦のことは誰にも言っちゃダメだかんね。」
「わかってるわよ。上位種様の言うことに逆らえるわけないでしょ。それにしても冴香様?そんなに凄い身体なの?」
「今度お母さんにも紹介するよ。見た目ちょっと怖そうだけど、すっごいいい子だよ。」
美晴が1杯目を飲み干し、2杯目に手を付ける。
「そう、楽しみにしてるわ。」
そう言ってみどりは、空になった1敗目のグラスを下げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます