顔合わせ会 第二部(女子会)前編
首脳陣がバスに乗り、そのバスが首相首席秘書官の掌に乗せられて退場する。
次いで、軍の女性が持ってきたドールハウスのような建物が4つのテーブルの中央に置かれ、上位種のふたりが席を立つと突然掻き消えた。
「ほぇ?」
素っ頓狂な声を上げてしまった冴香の耳に、女性の声が入る。
「第2部はここでやるから、早くいらっしゃい。」
いつの間にかドールハウスの前に立っているふたりの女の子、さっきまで目の前にいたふたりの上位種だ。茶髪の女性が冴香に向かって微笑みかけていた。
(いちいちちっちゃくなるのかぁ・・・)
そうは思ったが、このままでは会話も出来ない。そう思って冴香が立ち上がると、真由美が察して掌の上に通常サイズ用の服を乗せて立っている。
「ありがと。」
そう言った瞬間、冴香の姿と真由美の掌の上の小さな服は消え去り、小さくなって服を着た冴香がドールハウスの前に立っていた。
「改めて、はじめましてだねぇ。」
ドールハウスの中で、対面は比較的和やかに始まった。最初に口火を切ったのは美晴だった。
「まずは自己紹介ね。私は御園美晴、高校2年生。最小身長は今と同じ528cm。よろしくね。」
「あ、鏑木冴香です。中学3年、身長は698cmです。」
思わず敬語になったのは美晴が上位種だからではなく、年上だったからだ。
美晴が手を差し出していたので軽く握手を交わした。もうひとりが驚いた顔をしていた。
「いや、タメとは聞いてたけどめっちゃ大人っぽいじゃん。。。あぁ、私は、大神千鶴。中3で身長は198cm。今はふたりに合わせて3倍に巨大化してるけど。」
「ああ、こちらこそよろしく。」
次いで冴香は千鶴とも握手を交わした。
丸テーブルを中心にして3つのシングルソファーが置かれていたので、それぞれに腰掛ける。同時に大柄な(といっても3人の股下にも届かない身長の)女性兵士たちがそれぞれに飲み物を運んで来て、こぼさないように必死にテーブルの上に置いて退室した。
ここからは3人の世界か。。。冴香はそう感じた。が、いきなりやり合うことは無いとも思っていた。
「今日はどういうご用件で招待してくださったんですか?」
冴香は美晴に尋ねてみた。
「あ~、その前にさ、冴香ちゃん、私が年上だから敬語使ってる?だったら、タメ口でいいから。千鶴ちゃんなんか初めて会った時からタメ口だったし。」
「うそっ、最初はちゃんと敬語だったじゃん!」
千鶴が子供のように少しふくれっ面になる。ハーフっぽい顔立ちの美人で、モデルのようにすらりとしているが、出るところはしっかり出ている大人の身体だ。
「まあ、だったら普通にしますね。でも、一緒に住んでるふたりが年上なんでクセになってるかも。」
これに千鶴が食いついた。
「えっ!?巨人種に敬語使ってんの?」
「あ~、そういうのあんまり気にしないんで。それに、あのふたり、覚醒する前の命の恩人なんで尚更かな。」
「まあ、いいんじゃないの?私だって昔からの友達は今でもタメ口だし。」
何故か美晴が援護射撃をしてくれた。こちらは少しあどけない顔つきだが、スタイル抜群のやはり美人だ。しかも胸の大きさは相当なものだ。
(上位種って、覚醒すると身体つきもエロくなるとか・・・なのかな?)
「話を戻すね。貴女に来てもらった理由は、新しく上位種になった子がどんな子かを知りたかったから。ネットからの報告だけじゃわからない部分もあるでしょ?」
(なるほど、そういう意味か。だったら私も同じだな。他の上位種には少し興味があったから。)
冴香は納得したという感じで頷いた。
覚醒したいきさつや学校のこと上位種特有の話(主に途方もない怪力の話)などをしていて、不意に冴香が気になったことがあった。
「そういえばさっき、世界中に私たち以外の上位種が4人いるって言ってたけど、そんなに少ないの?」
これには美晴が答える。情報統制などする気は毛頭ないという態度だ。
「この国は私たち3人だけ、そして世界中にはあと4人いるわ。それでも、誰も何もしない。ひとりでも動いただけで小さな国なんかひとたまりも無いしね。」
広大な海の向こうの東の大陸、それなりに広い海峡を挟んだ西の大陸、大きな島々の向こうに広がる北の大陸、それぞれ軍事超大国がある場所だ。もうひとりはちょうどこの星の裏側にいるらしい。
そのうち、この星の裏側の上位種には一度会ったことがあると千鶴が話してくれた。
身長12m近い凄い美人で、手足が長くスタイルも抜群ということだった。20歳で、性格は温厚。上位種の力を使って小規模な部族衝突の仲介役をやっているって話だ。
「この人は世界の脅威にはならないと思うのよね。」
美晴が続けて言った。
「脅威?ひょっとして私も世界の脅威になるかどうかを見定めるために呼んだってことですよね。で?どうです?私って世界の脅威になるのかなぁ。」
けっこう大胆な発言だと思ったのだが、ふたりとも冷静だった。先に口を開いたのはやはり美晴だ。
「冴香ちゃん。わたしたちが『一緒に世界征服しない?』って誘ったらどうする?」
「断るかなぁ。だりぃし。でも、私の大切なものに危害を加えようとしたらボコボコにしちゃうかな。相手が誰でもね。」
「まあ怖い。でも安心して。私たちもそんなことする気は全然ないんだけど、他の3人が・・・ね。」
さっきの軍事大国の上位種のことなんだろうなぁ。じゃあ、この国狙われてる?それとも世界征服を企んでるってこと?それは千鶴が答えてくれた。
「今は三竦み状態だから身動き取れないと思うよ。新しい上位種が生まれてるのってこの国だけだからバランスも崩れないし。それに・・・」
(ん?まだあるの?)
「それに、あいつらの巨大化上限1万倍なんだって。ザコ過ぎるでしょ?」
(いやいや1万倍って相当なもんでしょ・・・いや、待てよ。。。身長2mの1万倍は20kmだから・・・なぁんだ。全然たいしたことないじゃん!)
冴香が少しニヤついたのを千鶴は見逃さなかった。。
「そう言えば、冴香ちゃんはどのくらいまで巨大化できるの?」
「どのくらいだろ?でも、1万倍以上は余裕だと思いますよ。」
知ってるくせに。冴香は内心でそう思ったが、表情には出さないようにした。
「政府の奴らなんにも言わなかったけど、うちらのこと薄々感づかれてるらしいんだよね。」
千鶴が手持ちのスマホの画面をプロジェクターに投影した。学校に行く時はだいたい通常サイズだが、美晴と釣り合いが取れるので3倍サイズでいることも多いらしくその時に使用するタブレットより大きなスマホだ。
「これ、なに?」
プロジェクターには色々な国の言語で書かれたメモのようなものが羅列していた。
「各国の諜報機関をハッキングしたデータを簡単にまとめたもの。」
千鶴がそっけなく答える。
「え?千鶴ちゃん、そんなことできるの?すっごぉいっ!!!」
「はぁ?アンタだって上位種なんだから少し学習すれば楽勝でしょ?舐めてんの?」
少女っぽく感心したのがカチンと来たようだ。この程度で怒るなんて可愛いなぁ。でも、確かに覚醒してから肉体だけでは無く頭脳も凄いことになっていることには気が付いていた。
英語が大の苦手だった冴香が、プロジェクターに映されたメモの内容を理解できるのだから不思議なものだ。
「でも、肝心なところはバレてないからいいか。弱み握られそうなのは・・・千鶴ちゃんかぁ。」
美晴は母子家庭だが母親も巨人種だ。つけ込むのは難しい。冴香も両親が離婚し疎遠になっている。それに冴香自身も両親が弱みになるとは思っていない。
千鶴は父親は行方不明だが、普通種の母親がいる。恐らく3人の中で最大の弱点になるだろう。
「本当は基地の近くに引っ越して欲しいんだけどさ。まあ、できるだけの手は打ってるけど。」
この時ばかりは千鶴も少し不安そうな顔になっていた。
「そういえば肝心なとこって?」
冴香が何気なく話題を変える。
「私たちの巨大化能力。冴香ちゃんも余裕で1万倍オーバーならこっちは心配しなくていいかな。私たちも1万倍とかゴミみたいなもんだから。」
美晴がクスりとほほ笑んだ。
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