顔合わせ会 第一部
「ねえ、由美子さぁん、これって行かなきゃダメなやつぅ?」
隣りの小坂姉妹の家にお邪魔して我が物顔でソファに寝そべりながら、上位種・巨人種専用のSNSに届いたダイレクトメッセージを、床で正座している由美子に見せる冴香の表情は全く気乗りしない感じだ。
内容を要約すると、『政府主催の上位種様の顔合わせ会を行いたいため是非ご出席を賜りたい。』だ。しかも、差出人は首相の首席秘書官を務める巨人種のキャリア官僚で、ご丁寧に首相の招請であることも書き添えてある念の入れようだ。
ここまでの権威であっても、上位種に対しては強制力は全くない。いや、強制力など行使したら最悪その日のうちにこの国は消滅してしまう可能性だってあるからだ。
「それ?私たちのところにも届いてたわよ。同行しろってさ、なんか命令されてる感満載なのよね。」
由美子の横でやはり正座している真由美が、自分宛てのメッセージを冴香に見せた。こちらは差出人は同じだが内容は業務命令といった感じのものだった。
「うわぁ!高圧的~!なんか、扱いが全然違うね。それはいいんだけどさぁ、この第1部はブッチしてもいいかもだけど第2部はまずいよねぇ・・・」
顔合わせ会は2部構成になっていて、第1部は確かに政府主催なのだが第2部は先に覚醒した上位種2名の主催によるお茶会なのだ。さすがにこれは断れないと由美子は感じていた。
(うわぁ、冴香ちゃんわかりやすいくらい面倒くさがってる。でもなぁ、上位種様に逆らう訳にはいかないし・・・)
「行きたくないの?」
とりあえず理由を聞こうと由美子が尋ねると、想像通りの答えだった。
「だってさぁ、面倒じゃん。私、上位種だよね、一番強くて偉いんだよね。だったら向こうから来るのが筋なんじゃないの?」
「いえ、招待状の送り主も上位種様ですから。しかも、おふたり」
「行かなかったらケンカになるのかなぁ。」
冴香が残酷そうな笑顔を浮かべるのを見て、由美子ははぁ、とため息をついた。
「冴香ちゃんが普通種の時は最強でも、上位種ではそうだとは限らないでしょ?向こうの方が上だったら今度こそ間違いなく殺されちゃうよ。それに、上位種同士が争ったら人類が滅亡するかもしれない。。。」
巨人種同士の争いでも中規模都市が壊滅するほどの被害になるのだ。上位種同士が争ったら・・・想像するだけで恐ろしい。
「なるほどねぇ。じゃあさ、付き合ってよ。それとも、私ひとりで行かせるのかなぁ?この大きさのままだったら歩いてどのくらいかかるのかなぁ?」
ここから指定された軍基地までは300kmほど離れている。小さいままでも走ればすぐだが、走る気は無いらしい。
「わかったわ。どのみち私たちも行かなきゃならないみたいだし、御付きの巨人種がひとりもいないと思われると冴香ちゃんの威厳に傷がつくから元々付き合うつもりでいたけど。」
「威厳?そんなもんないよぉ。あるのはどちらかというと威嚇だよね。元ヤン、あ、まだ引退してないから現役ヤンキーだからさ。」
ヤンキーっていうより見た目ギャルなんだけど、とツッコミを入れると殴られそうなので、由美子は黙々と返信を書き始めた。
冴香が覚醒して1ヶ月ほどが経とうとしていた。
最初の頃は色々あったが今はもう落ち着いたものだ。登校は冴香の気分次第の不定期登校であれからまだ1回しか行っていない。
「だって行っても退屈だしさぁ。ちょっと動くと色々壊しちゃうしね。こびとの悲鳴は嫌いじゃないんだけどさ。」
という理由らしい。ただ、身体を動かすのが好きなタイプなので、時折真由美を誘って山岳地帯を抉りながら運動したり、海に行って遠泳したりしているが、本気になると地球にどれだけの影響があるかわからないのでかなりセーブしているようだ。
毎日ダラダラ過ごすのも性に合わないと思ったのだろう。顔合わせで何か面白いことがあればいいのに、と言葉とは裏腹に冴香は少し期待を抱いていた。
冴香たちは、住んでいる場所から300kmほど離れた軍事基地に向かっていた。ここで顔合わせ会が開かれるからだ。3人の上位種が住んでいる場所からほぼ等間隔に近い場所にある軍事施設としてここが選ばれたらしい。
「でもさぁ、300kmってちょっと遠いよねぇ。巨人種でも30分くらいかかるんじゃない?」
「そうだね。でも上位種様だったら巨大化しなくても数秒でしょ?冴香ちゃん、先に行ってもいいわよ。」
真由美が、掌の上でのほほんと寝そべっている通常サイズの冴香にそう答えると、
「ん?真由美さん、それって私に300km移動しろって言ってる?不敬なんですけど~。」
真由美の顔が一気に蒼白になる。
「そ・・・そんな、つもりじゃ・・・申し訳ありません!」
立ち止まって掌の上の女の子に最敬礼する巨人の婦警。少し後ろを歩く由美子は、また真由美のことからかって・・・と複雑な表情だった。
海に面したかなり広そうな基地の入り口に近づくと、冴香は服を脱ぎ捨てて真由美の掌から飛び降りた。
ズズンッ!
ほぼ同時に真由美の隣に身長209mのガッチリとした体格の美少女が黒のタンクトップと黒のショートパンツといういで立ちで聳え立っていた。
飛び降りてから巨大化、由美子が持ってきた30倍サイズの服を着る。これをほとんど瞬時にやってしまう。上位種にしかできない芸当だ。
「何とかなんないのかなぁ、これ・・・」
冴香自身は別に全裸でもいいのだが、上位種が簡単に裸体を晒すものでは無いと由美子に言われてから巨大化する必要がある時はだいたいこうしている。
入り口で待っていた身長180mほどの軍の巨人の少女が驚いた顔をして出迎えてくれた。
「か・・・鏑木、冴香、様・・・ですね。お、お待ちして、おりました。。。」
それでも上位種に失礼があってはいけないと深々と頭を下げ、3人を先導して会見場所である100倍サイズの巨人種用の部屋よりかなり広い建物に案内していった。
中に入ると中央に4つのテーブルが口の字型に並べられ、一番奥のテーブルの向こうにひとりの巨人種の女性が立って、冴香の姿を見るなり深々と一礼した。
左右のテーブルにはひとりずつ着席しており、たぶん上位種のふたりなのだろう。チラッと冴香を見たようだが何事も無かったように前を向いている。
さらに壁沿いに5人の巨人種が並んで立っており、彼女たちも冴香の姿を見るなり一礼する。いつの間にか、入り口で頭を下げた真由美と由美子もその列に加わっていた。
「鏑木冴香様、お待ちしておりました。失礼ながら覚醒された順に座席を用意させていただきました。」
「あ~、席次とかそういうの気にしないから、ここに座ればいいのね。」
冴香が空いている入り口に一番近い席に座ると、正面の席に何人かのこびとがいることに気が付いた。
「それでは、会談の説明をさせていただきます。」
首相首席秘書官を名乗った女性が、テーブル上にいるこびとたちの紹介をする。内閣総理大臣をはじめとした主要閣僚と軍部のいわゆる長官職と呼ばれる面々だ。
(これ、ここに核ミサイルでも撃ち込まれてらこの国やばいよなぁ。あ、でも、あたしたちのうち誰かが巨大化しても一緒か。)
冴香は両側に座っているふたりの上位種を見やってそう思ったが、どう考えてもそんなことをしそうなのは自分自身だけだということに気が付いて苦笑してしまった。
その瞬間、左側の茶髪のショートカットで軽装の可愛らしい雰囲気の女の子がチラッと冴香を見て微笑み、右側のストレートの黒髪で制服姿のちょっときつめの顔の女の子は少しムッとした顔をしていた。
「第2部は3人だけで話すんだよね。だったら説明はいいからさっさと第1部やっちゃおうよ。」
茶髪の美少女がそう言うと、首席秘書官は「は・・・はい、失礼しました。では、首相、お願いします。」と言って、壁際の巨人種の列に加わった。
第1部は極めて軍事的な話だった。この国の国防の現状と諸外国の動き。特に、上位種を擁する3つの軍事大国について、巨人種も相当数いるらしい。
「巨人種がどれだけいても、別に脅威にもならないわよ。」
黒髪の美少女が冷たい視線のまま一刀両断する。
(ってことは、脅威は上位種なのかな?どんだけ強いのかなぁ。ちょっと興味あるな~。)
冴香の顔が少しにやけそうになる。強いからと偉そうにしている奴をボコボコにするのは大好きだからだ。
ひととおりの説明が終わったらしく、茶髪の美少女が口を開いた。
「状況は分かったわ。でも、国や軍の指示に従うつもりは無いから。でも、外国の上位種のことは私たちで考えるから安心していいわよ。」
「私も意見は同じかな。」黒髪の美少女が同調する。
そっか、そう言えばこのふたりは私が覚醒した時には仲良かったんだっけ?
「私も同じかな。言うこと聞かせるのは好きだけど、人に指図されるの大っ嫌いだから。」
冴香も残酷な笑顔で言い放った。
政府と軍部の首脳の面々は、予想していた通りの反応だったらしく、多少ざわついただけで収まった。右端に居た総参謀長が口を開く。
「皆様のご意向は承知いたしました。我々も皆様に何かをお願いすることはあっても指示・命令は絶対に行わないことをここに誓約いたしますので、今まで通り随時ご協力いただければと考えております。」
こうして第1部は締めくくられた。たぶんこれって、国としての最低限の面子を保つためのセレモニーだったんだろうと冴香は感じていた。
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