中学3年生、大神千鶴の場合 3

ドォォォンッ!!!

突然の衝撃に友梨佳の部屋全体が揺さぶられた。同時に、友梨佳の背後に凄まじいプレッシャーが襲い掛かる。

「まぁだわかんないのかな?おまぬけな巨人種ちゃんは。」

同時に千鶴の小馬鹿にしたような声が友梨佳の背後から響く。

「だれがおまぬ・・・」

振り返りざまに友梨佳が発した言葉はそこで止まってしまった。

目の前には天井高100mのこの部屋の天井に頭をつけて窮屈そうに座っている巨大な美少女、千鶴がいたからだった。


千鶴は目の前で口をパクつかせて座り込んでいる友梨佳を悠然と見下ろしていた。

「で?私をどうするんだっけ?ちっちゃい巨人種の友梨佳ちゃんは。」

今、千鶴は身長198mに巨大化している。身長54mの友梨佳の4倍近い。

「な・・・なんで、アンタ・・・いや、千鶴・・・ちゃん、が・・・」

「あ~、どうせ許す気無いから呼び方とかどうでもいいよ。実はさぁ、私、とっくに覚醒してたんだよね。上位種に。」

フフッ、と笑って友梨佳の脚を摘まんで目の前で逆さ吊りにする。

「う・・・そ・・・あ、あたし・・・た、たすけ・・・て・・・」

「なぁに?今さら命乞い?みっともないよ。そうだねぇ、アンタが近づいて来た時はとっくに覚醒してたんだ。」

「なんで・・・」

「なんでその時に仕返ししなかったか?まぁ、昔のことだからこれ以上変なことしなかったら許してやろうかなって思ってたこともあったからね。様子見って感じかな。そしたら、巨人種になっちゃうんだもん。ビックリしちゃった。」

千鶴はニコニコしながら脚を掴んでいる手の力を少しだけ強める。

友梨佳の絶叫ともいえる悲鳴と骨が砕ける音が同時に響いた。

「でもほら、上位種って巨人種よりも強いからさ、今もたった4倍しか違わないのにこれでしょ?こびとの大きさでもとんでもない馬鹿力なんだよ。セーブするのに苦労したんだよねぇ。」

千鶴は空いている手でまだ息がある男を軽く摘まみ上げると、男が抱えきれるギリギリの大きさの乳首にしがみつかせる。

「今でもたったの100倍だけど、こびとなんか本当に瞬殺なんだよねぇ。笑っちゃうくらいの力でしょ?」

人差し指の先を男の背中につけて軽く押し込んだだけで、プチュッ・・・指先と乳首に挟まれた男の身体は簡単に弾けてしまった。

「い・・・いやだ・・・まだ・・・お、おねがい・・・します。ゆる、して・・・」

友梨佳が必死に痛みに耐えながら命乞いする。生き延びるためには上位種様に許してもらう以外の方法は無い。もう、プライドも何もかもが崩れ落ちていた。

だが、友梨佳を運命づける何かが部屋を大きく揺さぶりながら近づいていた。


友梨佳は痛みに耐えながらベキベキバキバキと外から引き剥がされる天井を、逆さ吊りにされた状態で眺めていることしかできなかった。

天井が完全に引き剥がされた場所にはもう暗くなって星が瞬き始めた空が見え、その一角が大きな影に取って代わられた。

「す、すみません、千鶴様。遅くなりました。」

覗き込んでいたのは軍服を着こんだ巨人種の女の子だった。年齢は十代後半といったところで、身長は200m以上ありそうな体格のいい女の子だ。

「そうでもないわよ。タイミングとしてはまあまあね。それより何か忘れてない?」

千鶴は友梨佳を摘まんだままゆっくりと立ち上がる。全裸の千鶴を見て軍の女の子の顔色が変わった。

「しっ、失礼しましたっ!こちらに準備できております。」

女の子はその場に跪いて千鶴から友梨佳を受け取ると、その横に顔を下げて恭しく今の千鶴サイズの下着とTシャツ、ミニスカートを持った巨人の女の子が現れた。やはり身長は200mはありそうな子だ。

「ん、ご苦労様。」

千鶴がパンティーを履きブラをつけようとして何かに気が付いた。

「あ・・・あなた・・・ちょ、何やってんですかぁ?美晴さん。」

「あ、バレちゃった?いつ気付かれるかとヒヤヒヤしてたんだけど。」

顔を上げたのは、ついひと月前に上位種に覚醒した美晴だった。2週間ほど前にこの国にたったふたりの上位種ということもあり、お互い興味もあったので顔合わせをしたのだった。

「なにしにきたんです?暇なんですか?」

「う~ん、暇って言えばそうなんだけど、千鶴ちゃんの女王様っぷりが見たくなったってとこかなぁ。」

「悪趣味ですねぇ。」

そう言いながら千鶴は着替えを終え、あたりを見回す。巨人種の兵士が他に4人、友梨佳の家に背を向けてそれを囲むようにして立っている。

千鶴の存在を外部に知られたくないための措置でもあるが、以前から千鶴自身が希望していることでもある。恐らく電波障害と認識阻害もしているはずだ。

「まだ学校にはバラしたくないの?」

「そうですねぇ、もうちょっと今のままでもいいかなぁ。美晴さんほどでかくなんなかったし。それより行きましょ。あなたたち、その家処分しといて。それとこびとの生き残りがいたら好きにしていいから。」

千鶴は周りを見張っていた4人に命令すると、美晴と友梨佳の太ももを掴んで吊るしている女の子を連れて、ズシンズシンと歩き出した。


軍基地の中にある巨人種の兵士用の宿舎。友梨佳を掴んでふたりの上位種様に付き従っていた巨人種の子の部屋だ。天井高は300mあるので、上位種のふたりがこれ以上巨大化しなければ破壊されることは無い。

友梨佳は3人の巨人が見下ろすテーブルの上に転がされていた。脚の激痛もあるが、まさしく俎板の鯉状態だ。

「美晴さん、この子の教育、してくれます?」

最初に口を開いたのは千鶴だった。話を振られた美晴は人差し指を顎にあてて考えていたようだが答えは早かった。

「無理ね。たぶん、1日しないでミンチにする自信があるわ。でも、生かしたまま連れて来たってことはそれを望んでないんでしょ?」

友梨佳の背筋が冷たくなるような答えだ。じゃあ、なんで私は連れてこられたの?友梨佳が自問自答する前に千鶴が答えを出した。

「やっぱりなぁ。じゃあ、アンタに預けるから。しっかり教育しておいてね。」

女性兵士が深々と頭を下げる。

「それと友梨佳ちゃん。今は殺さないであげるよ。でも、死んだ方がマシって思うかもねぇ。」

千鶴がニヤッと笑う。友梨佳はその千鶴の顔を見上げて固唾を飲んだ。

「アンタの巨人種としての特権はすべて剥奪。その怪我が治ったら、軍の指示に従って働いてもらうわ。普通種の下僕として、ね。上位種に無礼を働いた罰としては軽いものでしょ?感謝しなさい。」

友梨佳は最初意味が分からなかった。特権剥奪?下僕?それって・・・友梨佳の顔がどんどん青ざめてくる。

「そん・・・な・・・それじゃあ、あたし・・・」

「そ、簡単に言えば普通種のパシリね。でかくて力もあるから、ブルドーザーとかクレーンの代わりくらいできるでしょ?もちろん、普通種に危害を加えたら軍事法廷にかけられるからそのつもりでね。」

(うわぁ、千鶴ちゃん、性格わるっ・・・)

美晴は千鶴の宣告と友梨佳の絶望的な顔を見て、少しだけ友梨佳に同情したくなってしまったくらいだ。

友梨佳は必ずスクールカーストの上位に君臨していたいわば女王様だ。それが、人類カーストの最底辺のさらに下だと宣言されたのだ。恐らく友梨佳にとっては文字通り「死んだ方がマシ」レベルの仕打ちだろう。



翌日、いつものように登校した千鶴を友梨佳のパシリの3人が待ち構えていた。3人は千鶴の姿を見つけると、猛ダッシュで駆け寄ってきた。

「あ、あの・・・昨日、友梨佳・・・様が軍に、連行、された・・・って」

「ああ、それ?うちにも昨日巨人の婦警さんが来て、そんなこと聞いた。友梨佳ちゃん、何やらかしたんだろうね。」

「え?アンタも知らないの?でも、昨日、友梨佳様と一緒だったんじゃ・・・」

ひとりが驚いた顔で千鶴を見上げる。自分たちを見下ろす千鶴の表情を見て、全員が凍り付いたように固まってしまった。

「あのさ、もう友梨佳ちゃんもいないんだからさ、私に対する態度はちょっと考えた方がいいと思うよ。私、あの頃のこと忘れてないから。」

3人は顔を見合わせる。目の前にいるのは巨人種に覚醒するかもしれない最有力候補、しかも、自分たちの後ろ盾になってくれそうな友梨佳はもう戻ってこないかもしれない。

もし、千鶴が巨人種に覚醒したら・・・3人は友梨佳に見せつけられた巨人種の圧倒的、いや、絶望的な力に心底恐怖させられた。今度は恐怖だけでは済まされないかもしれない。。。

「あ・・・あの・・・千鶴・・・様、もう、二度とあんなこと、しません。だから・・・」

「許して欲しいの?ムシがいい話ね。でももし覚醒しても今のところアンタたちをどうにかするつもりはないわよ。だから安心していいわ。でも・・・」

千鶴は少し屈んで3人の中で一番長身の女の子に顔を近づける。

「ウザいから、もう、私の近くでウロチョロするの、止めてよね。」

「は・・・はい・・・」

それだけ答えると、3人は千鶴から逃げるように、いや、校舎へと一目散に逃げ込んだ。


バスケ部とバレー部の助っ人を凄みを効かせて丁寧に断って半分寝ながら授業を受けていると、軍司令部から秘匿回線で情報が入ってきた。

普通種の学力など覚醒した上位種から見れば博士課程を修了したレベルでさえ幼児以下なのだ。ましてや中学校の授業など退屈以外の何物でもない。

「へぇ・・・また覚醒かぁ。今年は上位種の当たり年なのかな?」

千鶴は壊さないようにそっとスマホを操作して、美晴への相談メッセージと司令部への指示を作り始めた。

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