高校2年生、御園美晴の場合 4

基地に隣接する広大な演習場の中央で美晴は放り投げられて盛大に尻もちをついた。

普通種であれば、車など軽く跳ね上げられる衝撃だが、この場にいるのは全員巨人種なので問題ない。というか、軍の巨人がふたり増えていた。

「さて、じゃあ尋問を始めましょうか。最初は美晴ちゃん。あなたね。巨人種に覚醒したばかりみたいだけど、ちょっと調子に乗っちゃったのかな?」

たぶん4人の中で最上位なのだろう。後から加わった20代後半の女性が一歩前に進み出て、美晴と瑠理香を見下ろした。

そろそろいいかな。そう思って美晴がゆっくり立ち上がり、制服を脱ぎ始めた。

「それより、私を無造作に放り投げるとか、そっちの方が調子に乗ってるんじゃないのかなぁ。」

全裸の女子高生が4人の軍の巨人を軽く見上げて、口角を釣り上げた。

カチンときたのは、美晴を吊るしたままここまで連れて来た10代後半の女性だ。一歩前に進むと、右脚を思いきり振り上げた。

ヴォンッ!!!

蹴り上げた彼女の右脚が盛大に空振りした。

「えっ!?」

驚いたのも無理はない。右脚があの生意気な女子高生を捉えたはずが、忽然と消えてしまったのだ。直後に頭上から女の子の声が轟いた。

「空振り?だっさぁ。でもさぁ、私を蹴っ飛ばそうとしたってことだよねぇ。じゃあさ、私が反撃しても文句ないよね。」

見上げると今まで見下ろしていたはずの女子高生が、恐ろしく巨大な姿で右足を振り上げていた。

ズゥッドォォンッ!!!

美晴がしゃがみ込んで防御姿勢を取っている女の真横を少し強めに踏みつけた。

その場にいた全員が数十m跳ね上げられ地面に叩きつけられる。軍の巨人の残り3人のうち、最上位の女性がよろよろと立ち上がった。

「あ・・・あなた、ま・・・まさ、か、じょ・・・じょうい、しゅ、なの?」

冷たい視線のまま美晴はしゃがんで、その女性を指先で軽く突きとばすと、女性は軽々と数百m吹っ飛ばされた。

「『様』が抜けてるわ。気をつけなさい。おばさん。本来なら不敬罪で死刑よ。」


美晴がズズンッ!とその場に座り、あの好戦的な若い女の脚を摘まんで目の前で吊るしていた。今の美晴の身長は、軍の巨人たちの約10倍、2000mほどだろうか。

小さな人形のような女は泣き叫んで必死に命乞いをしている。

(これ、面白いなぁ。こいつらの記憶リセットして、何回でもやり直したいわぁ。)

いくら万能の上位種でも、そこまで魔法じみたことは出来ないだろう。いや、直近の記憶を消すのならできるのかも。いやいや、それより今は別のことだった。

「今さら命乞いしても遅いと思うんだよねぇ。逆らっちゃいけない相手に逆らったんだからさぁ。」

「ご・・・ごめん、なさい・・・し、しらな、かった、んです・・・ゆ・・・ゆるして・・・」

そりゃ知っててあんなことしたら即刻死刑だよねぇ。

そこに一機のヘリコプターが近づいて来た。

『美晴様!どうか、お怒りをお沈めください。私どもの話を聞いていただけないでしょうか。どうか、お願いいたします!』

(おかあさんの根回しの結果かな?きっと軍のトップなんだろうなぁ。)

美晴はニヤリと笑うと、女を摘まんでいない方の左手を水平にしてヘリの下に差し出した。乗れという合図だ。


広大な左手に着陸したヘリからふたりの男が降りて来た。もちろん、靴は脱いでいる。

「で?私に何の話なのかな?その前に、アンタたち誰よ。靴脱いだのは褒めてやるけどまず名乗るのが礼儀でしょ?」

ふたりはそれぞれ、軍務大臣と軍統合作戦本部長を名乗った。なるほど、政治と軍の軍務関係のトップか。

さらに、軍務大臣は内閣総理大臣の全権を委任されていることと、この一帯は認識阻害のジャミングと光学迷彩が施されていることも併せて説明された。

「ふ~ん、隠してもらったのは礼を言うわ。ありがとね。で?面倒くさいから本題に入ってくれるかな。それとも女子高生の裸、眺めたいの?」

美晴がわざとらしく左手を下げると、山のように巨大な胸と建造物のような巨大な乳首が露わになった。

「い・・・いや、その、我々にはもったいないです。本題ですが・・・」

前置きして説明が始まった。

要約すると、軍所属の巨人種の非礼は深くお詫びするので、命だけは助けてやって欲しいということと、可能であれば軍務に協力して欲しいということだ。

「こんなのでも助けたいんだ。あ~、でも私以外を相手するのには有効か。」

美晴は右手で摘まんでいた女を高官たちに見せつけると、もういらない、とでも言うようにポイッと投げ捨てた。

「最初のお願いは聞いてやったよ。巨人種は頑丈そうだからあの程度で死ぬことは無いでしょ。二個目は却下かなぁ。何かに縛られるのって嫌いなんだよね~。」

「いえ、上位種様を縛り付けるような真似はいたしません。もちろん、国を挙げて絶対の服従を誓約いたします。ただ、巨人種では対処できない場合にご協力いただけないかと。」

「それって、私以外の上位種が現れた時の対策か、外国にいる上位種への対策ってことでいいのかな?外国の上位種は私も気になるから、協力してやってもいいよ。でも、」

美晴は条件を突きつけた。

1.3日以内に今のサイズに合う水着、難しければ下着を用意すること

2.外国の上位種、国内の上位種と巨人種の、軍や国が持っている情報を全て提供すること

3.破壊や殺戮にいちいち文句を言わないこと

「今はこんなもんかな。あとで増えるかも知れないけどいいよね。そうそう、三番目のはここにいる瑠理香ちゃんも同じだからね。」

美晴はいつのまにか太ももの上に乗せていた瑠理香を指さした。

「ああ、それとさぁ、今私のことを攻撃してるこいつらは流石に許す気は無いから。ちゃんと上位種には絶対服従って周知しといてね。」

美晴は、右手を軽く上げ、巨尻に向かって戦車砲などを打ちまくっている地上部隊に向かって軽く振り下ろした。

ズッドォォンッ!

数十両の戦車と数百人の兵士が、ただそれだけでペシャンコに潰されて地面に塗れることになった。


「さすが私のおかあさんだよね。やることが早いから助かっちゃった。」

家に戻り、みどりとほぼ変わらない身長53mになって晩御飯の時間だ。

「でも、光学迷彩のおかげで美晴ちゃんのことは外国にはバレて無さそうね。そっちまでバレると色々面倒が増えるからね。」

牛の丸焼きをフォークで突き刺して、ナイフでまっぷたつにして口に放り込むさまは圧巻だ。

「それはいいんだけどさぁ、こんな天然もの滅多に食べれないんでしょ?ご飯の時だけちっちゃくなるかなぁ・・・」

骨も関係なくバキバキグシャグシャと噛み砕いてしまう巨人にこんな食事を毎日提供できるわけがない。普段は合成肉のようなものとかかなり味と食感に難があるものらしいことは美晴も知っていた。

「そう言えば瑠理香ちゃんは?大丈夫だった?」

美晴は少し複雑な表情をする。

「う~ん、どうだろう?ちょっとトラウマ植え付けちゃったかも・・・」

基地に居る時に、太ももの上に乗せていたのだが恐怖のせいか震えっぱなしで一言も話さなかったのだ。

「そうねぇ、せいぜい2倍の軍の子くらいだったからね~。それが、20倍だもんね。私でも震えちゃうわ。」

「え~っ!?おかあさんまで?私さ、本気になったらあんなもんじゃ済まないんだけど・・・」

みどりの顔面が一瞬で蒼白になる。

「そ・・・そう、なの?」

「うん、なんか、限界が無いかもしれないっていう気もしてるんだよね。ほら、ちょっと前に船から思いっきりジャンプしたら宇宙空間に出ちゃったじゃん。」

「あ~、衝撃で大型タンカー沈めちゃった時?あれも驚いたけどねぇ。巨大化しないであの破壊力だものね。」

「いや、それはいいんだけど・・・宇宙空間でも平気だったんだよね。太陽の紫外線とかモロ浴びたんだけど全然平気で、なんか上位種って化け物なのかな?」

「まあ、そのうち慣れるんじゃない?でも、美晴ちゃんがどのくらい巨大化できるかはちょっと興味あるわね。外国の上位種は1万倍くらいが限界らしいって聞いてるけど。」

「それ、たぶん余裕で抜けると思うよ。」

それを聞いてみどりが目を白黒させているのを知ってか知らずか、美晴は5頭目の肉牛にかぶりついていた。

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