高校2年生、御園美晴の場合 3
1週間後、美晴と瑠理香は並んで歩いていた。美晴の身長は106mで瑠理香より少し背が高いくらいだ。
実は、美晴は528cmと巨人種にしては小さ過ぎ、普通種としては大き過ぎるなんとも中途半端な大きさで成長が止まってしまったのだ。
上位種であることをまだ公にはしたくなかったので、少し巨大化して巨人種として覚醒したことにしたのだ。
美晴は足元のビルや逃げまどうこびとたちを見下ろしながら、無造作にビルを軽く蹴り崩し、人や車や木造家屋は踏み潰しながら学校に向かっていた。
隣りで幹線道路を歩いていた瑠理香が心配そうに声を掛ける。
「み、美晴ちゃん、あんまり派手に破壊すると、軍の巨人種の人が来て面倒なことになるよ。」
軍の巨人種はおよそ普通種の100倍の巨人だ。というより、わざわざ50倍を大きく超える巨人種を破格の条件で軍に招請している。なので、一般の巨人種では歯が立たないほど強い。だが、美晴はあっけらかんとしたものだ。
「いいんじゃない?巨人種で遊ぶのも面白いかも。」
「そうじゃなくて、バレちゃうって。面倒だって言ってたの美晴ちゃんじゃん。」
「そっか~、じゃあちょっと大人しくしとくかな。」
そう笑いながらも、またもや10階建ての雑居ビルを蹴って粉砕していたが。
学校では校長以下すべての教職員と生徒全員が揃って新しい巨人種様を出迎えていた。美晴が巨人種として覚醒したこと、明日から学校に行くことを前日のうちにみどりが連絡したからだ。
「へぇ~、全員で出迎えてくれるんだ。そう言えば瑠理香ちゃんの時もそうだったっけ?」
美晴が4階建ての校舎を軽々と跨ぎ越して校庭の一角を踏みつける。衝撃で生徒が何人か倒れていた。
「うん、これってけっこう優越感だよね~。」
瑠理香も同じように校舎を跨いで、美晴の隣に立って足元を見下ろした。
「そう言えば瑠理香ちゃんの時、先生一匹潰さなかった?」
「ああ、あれ?あれは元々嫌いな奴だったからね。顔見た瞬間に潰したくなったのよ。」
足元のこびとたちがざわめき出す。
「あ~、今日はきっと潰さないと思うよ。別に嫌いな奴もいないし、でもそうだなぁ、なんかムカついたらどうするかわかんないけどね。」
美晴は笑顔でそう言いながら、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
「じゃあ、もう解散でいいよ。校長たちはこれからどうするか相談しなきゃだから残ってね。まさか、校舎に入って授業受けろとは言えないでしょ?別にそれでもいいけど。」
美晴はケラケラ笑って、教師たちの前に右手を下ろした。
校長、学年主任、担任、生活指導の4人の教師が、靴を脱いで美晴の掌によじ登る。
何か月か前、他の地域だが巨人種の生徒の掌に乗る際に靴のままだったことがその生徒の怒りに触れ、全員握り潰された事件があったばかりだったからだ。
「私は別にそんなことじゃ殺したりしないよ~。」
美晴はそう言いながらゆっくりと掌を上げながら、生徒たちがいなくなった校庭に座り込み、隣に瑠理香も座り込んだ。衝撃で校舎の窓ガラスが何枚か割れたようだ。小さな悲鳴が聞こえる。
「でさぁ、出席のことだけど、どうする?」
教師たちが顔を見合わせる。やがて校長が恐る恐る口を開いた。
「で・・・では、瑠理香様と同じく週1回の登校というのはいかがでしょう?」
中高生で巨人種に覚醒した場合は、全く学校に行かなくても全て出席扱いになる。だが、登校するかしないかは覚醒した本人次第だ。ほとんどが瑠理香のように週一登校に落ち着いているようだ。
瑠理香も最初は学校に行かなくてもいいかな。と思っていたが、毎日退屈なので毎週水曜日に登校することに決めていた。雨の日や気分が乗らない時は行かないがその程度の緩さで運用されている。
「わかった。でも、瑠理香ちゃんと別の日にしてくれとか言わないよね。」
少し脅すつもりで親指以外の指を折り曲げる。担任の女性教師が悲鳴を上げるのが可愛いと思ってしまった。
「あれ?先生、こんなのでビビってんの?今度、先生の目の前でこびとを潰して見せてあげるよ。先生がどんな声で鳴くか楽しみにしてるよ~。」
美晴は掌に乗せた教師たちを校舎の屋上に転がり落とすと、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、明後日、また来るね。」
そう言って、慌てて立ち上がった瑠理香を伴って歩き去って行った。
「まっすぐ帰ってもいいけど、どっか寄ってく?」
足元をほとんど見ずに歩く美晴が声を掛ける。が、瑠理香の視線は向かっている先の街の中心部の向こうからやって来る者に釘付けだった。
「み、美晴ちゃん・・・あれ・・・」
「どれ?おぉ~っ!でっかいねぇ!」
瑠理香が指さす方向には、ふたりの巨人がこちらに向かってくるのが見えた。身長は目測でこちらのおよそ2倍の200mくらいだろうか。
「隠し続けるのは難しそうだね~、盛大にお披露目すっかな。」
「え?でも、外国とかにバレると色々面倒だって・・・」
「あ~、それ?お母さんが上手くやっとくって言ってたから大丈夫じゃない?」
美晴の中ではバレたらその時はその時くらいでしかないらしい。バレたところで、美晴に手出しをして何とかなるものでは無いとわかっているだろうからだ。
街の中心部を通り過ぎて少し離れたあたりで、美晴と瑠理香は軍の巨人ふたりと対峙していた。
「アンタたち、暴れすぎ。ちょっと基地まで同行してもらうわよ。それとそっちのアンタ、瑠理香ちゃんだっけ?前にも警告したよね。今回はちょっとお仕置きしなきゃだから覚悟しといてね。」
10代後半くらいの女性が両手を腰に当てふたりの女子高生を見下ろしている。もうひとりの20代後半くらいの女性は女子高生が逃げないように後ろに回り込もうとしていた。
「あれぇ?おねえさんたちはこびとの巣とかも踏み潰しちゃっていいわけ?それって不公平じゃない?」
美晴が生意気そうな口調で、住宅や逃げまどうこびとを踏み潰しながら移動している20代後半の女性を一瞥した。
「アタシたちは認められてるからいいの。それに破壊は必要最低限に留めているし何の問題も無いのよ。でも、アンタたちは別。で?同行するの?それとも強制連行の方がいい?」
「強制連行ってどうすんの?」
「こうすんのよっ!」
10代後半の方はかなり好戦的らしい。言うと同時に右手が近づいて来て美晴の胸倉を掴み上げた。
(なんかめっちゃ動きトロいんだけど・・・私から見るとトロいだけなのかな、ま、いいや、このまま連れてってもらおう)
「ちょっとぉ、苦しいんだけど・・・」
胸元まで引き上げられた美晴はちょっと辛そうな顔をして巨人の顔を見上げるが、その顔は強者が弱者をいたぶる時によく見せるような表情だった。
「基地に着いたら解放してあげる。でも、アンタはかなり生意気そうだからちょっと教育も必要そうよね。み・は・る、ちゃん!」
10代後半の巨人が美晴を吊るしたまま歩き出した。続いて、20代後半の巨人に突かれるように瑠理香が続く。瑠理香は全く何も言えず蒼白のままだった。
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