高校2年生、御園美晴の場合 2
巨人種はその巨大さ故に普通種との共同生活は難しい。いくら気を付けても踏み潰しや蹴り飛ばしといった事故が減ることは無い。
誰もが巨人種に覚醒すると、近くにコロニーがある場合はそこに移住し、無い場合は人里離れた山中か海辺にその住処を求めることが多い。
そしてそこに自分が住む家を作るのだ。建物の建設は普通の建設会社が行うが、力仕事は覚醒した者が手伝うことが多い。その方が圧倒的に早いからだ。
逆にみどりのように街中に居を構え続ける巨人種は極めて少ない。みどりの場合は当時100km以内にコロニーが無かったこと、娘が普通種ということもあり、みどり自身の希望もあって強硬に居続けたのだった。
さらに現在のコロニーの場所にも家を作り、ある意味二重生活を続けていた。
(それも終わりかしらね。コロニーの家、拡張しないとかな。)
そんなことを考えながらたまに何かを踏み砕きながら歩いていくと、山間に聳え立つ巨大な家屋群が見えて来た。
そのコロニーには、みどり以外にふたり、美晴の同級生の瑠理香と女子大生のあずさが住んでいる。
瑠理香は身長92mと、コロニーの中では最大身長を誇る。しかもまだ覚醒が終わり切っていないようで徐々にだが成長が続いていた。
あずさは身長56mでみどりとほぼ変わらない。大人しい性格で、高校2年で覚醒した時もパニックにもならず落ち着いたものだったようだ。
翌朝、瑠理香とあずさはみどりに呼ばれてみどりの家に居た。高さ100mの天井は瑠理香の頭すれすれなので、いつも身を屈めてドアを抜けるとしゃがんだまま部屋の中に入るのだ。
そして、今、その瑠理香が軽く見下ろす先の小さなテーブルの上によく知っている女の子がいる。
「美晴、おはよ。昨夜はよく眠れた?」
「巨人用のタオルを蒲団代わりにして眠れるわけないでしょ?ゴワゴワして硬いし。」
「でもさ、覚醒したんでしょ?美晴は元々でかいんだから、そのタオルもハンカチくらいになっちゃうよ。」
ケラケラと笑いながら言う瑠理香を見上げて、美晴は思わず耳を塞いだ。
「うるさいんだからっ!もうちょっと小声で喋んなさいよっ!」
美晴は普通種が巨人種に言ったら次の瞬間にはミンチにされてしまうようなセリフを平気で口にした。これも元々仲が良かったからなのだろう。
「まあまあ、それより美晴ちゃん、ちょっと立ってくれる?身長測ってみよ。」
横からあずさが顔を覗かせた。
立ち上がった美晴の横に、巨人用の特大定規が並べられる。
「え~っと・・・美晴ちゃん、元の身長ってどんくらいだっけ?」
左目を瞑り右目を細めて、10cm刻みの目盛りを見ながらあずさが囁く。
「192cmです。」
男女合わせても学校で最長身だ。
「う~ん・・・みどりさ~ん、ほんとに覚醒してるの?今の身長もたぶん190ちょっとくらいなんだけど・・・」
あずさは少し困惑した顔で振り返って、みどりを見つめた。
(あ~・・・ひょっとしてあっちか・・・)
「美晴ちゃん、全部服脱いで。」
「へっ!?おかあさん・・・そういう趣味?」
「違うわよ。とにかく全部脱ぎなさい。下着もね。」
まあ、何か考えがあるのだろうと思ってブツブツ言いながらも美晴は服を脱いでいった。ブラを取ると高校生ではまずお目にかかれない特大サイズの胸がブルンと揺れる。
「毛深いから嫌なんだけど・・・」
そう言いながらも下も脱ぎ捨てた。たぶん逆らったところで引き千切られるだろうと思ったからだ。
みどりは全裸になった娘を軽く摘まんで床に下ろした。美晴が顔を上げると3人の巨人がとんでもない威圧感で聳え立っている。思わず逃げ出したくなった。
「じゃあ、言うとおりにしてね。目を瞑って巨人になった自分を想像してみて。」
(まさか・・・ね)
母が想像していることが美晴にも理解できた。もうひとつの可能性、つまり・・・
ゴンッ!
「うわっ!」
目をあけると目の前にひとりの女の子の顔があった。間違いない、瑠理香の顔だ。口をポカンと開けて呆けているようにも見える。
(えっ?瑠理香ちゃん?ってか同じ大きさ?)
美晴が視線を落とすと、腹のあたりにふたりの女性の顔があった。ひとりはあずささん、瑠理香と同じような呆けた顔で見上げている。そしてもうひとりは母のみどりだ。その母が口を開いた。
「上位種様・・・ってことで間違いないわね。」
その声を聞いた瑠理香とあずさが、同時に美晴の前に跪いた。そして、みどりもそれに倣うように二人の横に並んで跪く。総人口100億を超える人間の中でたった数人しかいない存在が新たに誕生した瞬間だった。
上位種とは、『上位存在』とか『優等種』とも言われる、巨人種と違って体格はさほど大きくならないが、その能力は知力体力ともに普通種など虫けら以下に思えるほど圧倒的に高くなる。
巨人種と同様に生まれつきではなく、覚醒によって上位種も誕生するが、その数は非常に少なく、全世界中でも3人とも5人とも言われている。
その能力の最たるものが巨大化能力だ。自身の身体を圧倒的に大きくできるその能力は個人差もあるが山をも踏み潰すほど巨大化できるとも言われている。
そして、当然のことながら同じサイズの巨人種と上位種では、上位種の方が圧倒的に強いのだからひれ伏すのも当然のことだった。
「そんなに畏まらないで欲しいんだけど・・・おかあさんも・・・」
今の美晴にとってはちょっと小さいソファに腰かけてまだ跪いている3人を見回してみる。
「そ・・・そうは仰っても・・・」
代表してみどりが口を開くが口調は変わらない。もう、仕方ないなぁ・・・
「じゃあ、これは命令ね。今まで通り接すること。わかった?上位種の命令に逆らったらどうなるかわかってるよね。ってか、私本当に上位種なの?全然自覚無いんだけど。」
今度は瑠理香が口を開く。
「ま・・・間違いなく、じょうい・・・しゅ・・・で・・・じゃない、だよ。」
混乱しているがまあ不合格ではないかな。美晴がニコッとほほ笑んだ。
「何か試す方法ってあるの?」
「あることはあるけど・・・これ以上巨大化したら家が壊れちゃうし、あとは同じ大きさなら巨人種より圧倒的に強いくらい・・・」
みどりのこの発言に美晴が食いついたらしい。
「それ、今私って瑠理香ちゃんと同じくらいでしょ?思いっきり殴ってみてよ。」
「へっ?でも、そんなこと・・・」
「できないんだったら私が瑠理香ちゃんのこと思いっきり殴ってみるけどいい?」
狼狽する瑠理香に止めのひと言が突き刺さる。上位種との力の差は聞いた話でしかないが、同じサイズでも桁が違うらしい。もし、美晴ちゃんが本物だったら・・・いや、本物の上位種に違いない。瑠理香が観念したように呟いた。
「じゃ、じゃあやるけど・・・怒らないでね。お願いだよ。」
いつもの堂々とした瑠理香とはまるで別人のようにオドオドしている。本気で恐ろしいようだ。
美晴の方も瑠理香の破壊力は知っているが、今は同じ大きさなのでもし上位種では無くてもすっごく痛いくらいだろうと思っていた。
高さ100mの天井すれすれに立ち上がったふたりの女の子が正対しているのは圧巻の光景だ。そのうちのひとり、瑠理香が構えを取る。
実は瑠理香は小学生の時に空手道場に通っていて、黒帯寸前までいったほどの実力なのだ。
「じゃあ、いくよっ!」
瑠理香のその声に、美晴も全身に力を込める。
「せいっ!」
ズンッ!
正拳突きが見事に美晴の腹に突き刺さり、同時に衝撃が部屋全体を襲い、壁にいくつかのひび割れを作り出した。そして数秒の沈黙・・・
「ったぁいっ!!!」
瑠理香が右拳を庇うようにして蹲った。その姿を見下ろして、美晴はポカンとしている。
「今の本気・・・だよね。」
部屋の状態を見れば凄まじい威力だということは一目瞭然だ。『ビル割り』と称して瓦割りの要領でビルを木端微塵に破壊するのを何回も見せつけられていたのと同じ、いや、それ以上の破壊力だろう。
確かに殴られた感触はあった。だが、まったく痛くなかったのだ。別に美晴の腹筋がバキバキになっている訳でもないのに、巨人の本気の突きが軽く撫でられた程度にしか感じなかった。
(私って本当に上位種なんだ・・・)
「ごめんねぇ、大丈夫?」
声をかけられて顔を上げた瑠理香は、まるで怯えた子猫のようだった。
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