第2話 京中鉄道轟山線 八島駅

 


 彼女は、普段明るいうちに、京中鉄道轟山線に乗るが、その日は友人と都内で遊んでいて、轟山線の起点・飯野に着いた時点で夜21時を回っていた。


 京中鉄道の本線や都内線というメイン路線に新型が登場するたびに、前世代の車両が送られてくるのが閑散路線の轟山線である。


 古めかしい、よく言えばレトロな車両のロングシートに腰掛け、少し酒の入っている彼女はうとうとしだした。


 ただ、21時05分の発車直前、1人のサラリーマン風の若い男性が同じ車両に乗ってきたのには気づいた。


 


 列車は、昔フラッグシップトレインだったことを誇るようにスピードを上げ、轟山線を走る。


 彼女は大学の1年から3年までの3年間を除いて、この轟山線沿線に住んでおり、昼間は見慣れた風景を走る轟山線の風景を眺めながら乗るが、夜は流石にスマホに目を向けていた。


 北飯野、高橋、蔵州湯沢と見慣れた駅を過ぎ、彼女の住む西小田まではあと二つ。


 次は小田だ。


 小田駅近辺は彼女の友人宅もあり、夜でも外の風景はなんとなくわかる。


 


 ガタン。


 


 ん?


 その瞬間列車が止まる。


 さっき蔵州湯沢を出たから次は小田。


 そのくらいは地元の彼女ならわかるが、小田駅に着いた様子もない。


 そしてアナウンスもなく扉が開く。


 ふと駅名標が見えたので確認した。


 


 八島。


 


 いつも乗っているはずの轟山線に乗ったのに、聞いたことがない駅だ。


 新駅ができるような場所でもないし。


 後、不思議なことにこの駅に入る直前、通った覚えのないトンネルに入った気がする。


 しかも、普段は蛍光灯の白い光が見えるのに、外は真っ暗、1箇所だけ道路用トンネルみたいなオレンジの光が見えたけど、灯りには見えなかった。


 そうこうするうち、もう1人乗っていた男性が不思議そうにしながらも駅に降りたのを彼女の目が捉えた。


 彼女はぼんやりとその様子を見ていたが、降りて大丈夫なんだろうか、と思った。


 まもなく、列車の扉が閉まり、またアナウンスもなく発車…ホームに男性を残して。


 彼女はその時の男性のパニックになっている顔が、頭から離れないという。


 もしかすると彼の側からすると、自分が見たこともない駅に置き去りされるのを見て驚きもしない彼女は、この世のものではないと思われているかもしれない。


 


 彼女はそのまま列車に乗っていると、八島駅を出た直後、アナウンスが聞こえ、小田駅の薄明かりが灯るホームに着いた。


 見慣れた小田駅の駅名標が、彼女を少し安堵させた。


 隣駅は蔵州湯沢と西小田…八島の文字は見えない。


 そこからはまた何もなく、西小田、そして彼女の自宅へとたどり着いた。


 


 あとで彼女が知ったことである。


 蔵州湯沢〜小田間で通る林の中では、戦国時代に合戦が行われ、のちに和解したその時のお互いの大将が犠牲となった兵士を弔うために「矢志麻やのじま神社」という神社を建てたそうだ。


 矢志麻の由来はその戦いで命を落とした互いの陣営幹部である「八山」氏と「島野」氏を合わせた「八島」を元にしたらしい。


 八島駅…彼女が見た謎の駅は、まさにこの由来となったものである。


 矢志麻神社の由来になった2人の戦国の武人が、現代の人物を呼んだのかもしれない…彼女はぼんやりとそれを聞きながら思った。


 

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