第4章:さよならを言うために、出会ったのかもしれない


 「蓮、知ってるよ。あなた、ずっと繰り返してたんでしょ」


 その瞬間、教室の空気が止まった気がした。

 窓の外では蝉が鳴いている。相変わらずうるさいくらいに。

 でも、私たちの間には、痛いほどの沈黙があった。


 蓮は静かに立ち上がって、私の目を真っすぐ見つめた。


「……そっか。ついに、君も来ちゃったか」



---


 放課後、人気のない屋上で、蓮はゆっくりと話してくれた。


「最初は、ただのデジャヴだと思ったんだ。君が泣いて、車が突っ込んできて……君を守ろうとして、俺は死ぬ。で、また朝になる」


「じゃあ、何回……?」


「たぶん、30回くらい。いや、もっとかもしれない。もう数えてない」


 彼の声は静かだった。でも、その静けさの裏にどれだけの絶望と孤独があったんだろう。

 私は、何も言えなかった。


「君が生きていれば、それでよかった。だから、何度でもやり直そうと思った。でも――」


 蓮は少し笑った。その笑顔が、あまりにも切なくて苦しかった。


「もう、終わりにしようと思ってるんだ。このループ、今夜で最後になる気がする」



---


 「最後」という言葉が、胸に重くのしかかった。

 この日が終われば、蓮はまた――。


「じゃあ、私が代わりに死ぬ。今度は、私があなたを守る」


「だめだよ。そんなの……意味ないだろ?」


 蓮の手が、私の肩にそっと触れた。あたたかくて、悲しい手。


「俺が生きていても、君がいなきゃ意味がない。だから……君だけは、生きててほしい」



---


 文化祭前夜。

 ふたりで体育館の準備室にこっそり入り、電気もつけずに、眠るまで話し込んだ。

 冗談も言い合った。過去のことも、未来の夢も。

 たとえば、こんな普通の夜が、本当は一番尊いんだと知った。


 夜が深まる頃、蓮が言った。


「もし明日、全部終わって、君の記憶から俺が消えても――それでもいい。君が前を向いて生きてくれるなら、それだけで、俺は幸せだよ」


 私は答えられなかった。

 でも、蓮の手を強く握った。

 この手が、どうか明日もそこにありますように――。

 心からそう願っていた。

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