第3章:君はずっと、先を歩いていた
三度目の8月31日。
私はもう、朝のセミの声だけで泣きそうになっていた。
でも、立ち止まるわけにはいかない。蓮を助ける方法を探さなきゃ。
このループには、きっと意味があるはずだ。
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放課後、私は思いきって蓮の家に向かった。
昔から何度も遊びに行ったことがある、懐かしい玄関。
インターホンを押すと、彼のお姉さんが出てきた。
「あら、○○ちゃん? 蓮なら出かけてるけど……あ、ちょっと待って。部屋に何か忘れ物取りに来たんだっけ?」
違う。でもうまく言葉にできないまま、私は「少しだけ」と言って部屋に入れてもらった。
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蓮の部屋は、意外と整っていた。
その中で、机の上に置かれた一冊のノートが目に留まった。
迷った。でも、どうしても気になって手を伸ばした。
《8月31日、またやり直し。3度目。》
《8月31日、君の笑顔が見られた。それだけで今日は成功かも。》
《8月31日、もう何回目か分からない。君に伝えるべきか悩む。》
――それは、蓮の日記だった。
私がループを始めるずっと前から、彼はこの日を繰り返していた。
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帰り道、私はひとりで歩きながら、空を見上げた。
あの穏やかな笑顔の裏で、何度も何度も同じ日を過ごしていたなんて。
私に気づかれないように、ただ私のそばで笑っていてくれたなんて――。
涙が止まらなかった。
でも、それと同時に心の奥から湧いてきたのは、彼を知れてよかったという不思議な安心感だった。
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翌朝。
目を覚ますと、やっぱりセミの声が響いていた。
けれど今度は私は、迷わず蓮のところへ走った。
教室の窓際、見慣れた寝たふり。
私は、彼の前に立って言った。
「蓮、知ってるよ。あなた、ずっと繰り返してたんでしょ」
彼の目が、驚きに見開かれる。
「……思い出したの? いや……まさか、君も……?」
私は頷いた。
ようやく、2人の時間が重なった瞬間だった。
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