第2章:8月31日が、また来る


 私は立ち尽くしていた。

 時計は午前7時を指し、窓の外では蝉が喧しく鳴いている。

 あの日とまったく同じ――。いや、あの“朝”とまったく同じ。


「……え、何これ」


 スマホの通知を見ると、日付は8月31日(金)。

 カレンダーも昨日と同じ。さっき貼ったはずの文化祭のポスターは、教室にまだ貼られていない。


 どこをどう確認しても、今日は――昨日だった。

 繰り返している。そんなバカな話があるはずがないのに。





 登校してみると、蓮がまた窓際の席で寝たふりをしていた。

 見慣れた、でも“もう一度会えないと思っていた”その姿に、私は息を飲んだ。


「……蓮……」


 彼はいつものように、のんびりと目を開けた。


「おはよ。てか、なんでそんな顔してんの?」


 私は言葉が出なかった。

 泣きそうだった。

 けれど、この“奇跡”の意味を確かめるため、私は無理やり笑った。


「ううん、なんでもない。おはよ、蓮」





 その日も、同じように文化祭の準備が進み、体育館では笑い声が響いた。

 私は、事故を防ぐために、帰り道を変えようと蓮を誘った。


「たまには遠回りして帰ろっか。商店街のほうから」


「ん? なんか珍しいな。……でも、いいよ」


 そうして事故を回避したはずだった。

 けれど――その夜、蓮はひとりでコンビニに向かい、そこで別の事故に巻き込まれて死んだ。





 次の日、目が覚めると、また午前7時。

 セミの声。日差し。カレンダーには8月31日(金)。


「……どうして……」


 救えたはずなのに。

 少し道を変えただけで、蓮は別の運命に引きずられた。


 なぜ“彼”だけが、何度でも死ぬのか――。

 どうして私はこの日を繰り返しているのか。


 そしてこの時、私はまだ知らなかった。

 蓮もまた、同じように“繰り返していた”ことを――。

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