佐藤広輝

佐藤広輝は、小学三年生の男の子だ。広輝は、小学校の帰り道に倒れている日本人形を見つけた。広輝は、その女の子の人形の顔を見て一目惚れしてしまった。人間の女の子より美しいと感じてしまった。広輝は、その日本人形を拾って家に持ち帰った。


広輝は、日本人形を家に持ち帰るとさっそく自分の部屋の勉強机の上に置いた。広輝はその人形をじっくりと見つめた。ずっと見ていられる。広輝はそれから日本人形を、常に持ち歩いた。小学校では、広輝の持ってきた日本人形は注目の的だった。広輝は、先生にバレないようにクラスの皆に人形のことを自慢した。広輝と日本人形は、家でテレビを観る時も寝る時までも一緒だった。広輝は、一人っ子だから、人形を自分の妹の様に感じていた。夜、ベッドで横に置いてある日本人形に広輝は話しかけた。

「ねえ、もう僕達家族だよね!」

人形は、何も喋らない。

「ずっと一緒だよ!」

広輝は、喋らない人形を見つめているうちに眠った。


次の日、広輝は先生に呼びされた。クラスの誰かが、広輝が日本人形を持って来てることを担任の女性教室の米川先生に言ったようだ。

「佐藤くん!学校に授業と関係無い物、持ってきちゃ駄目でしょ」

米川先生は、声をきつくして言った。

広輝は、最初は黙っていたけど口を開いた。

「だって、あの子は僕の家族だもん」

広輝が、そう言うと米川先生は少し黙ってからこう言った。

「人形が、家族なんてありえないでしょ」

米川先生が冷たく言った。

「先生には、僕の気持ちは分からないんだ!」

広輝が声を上げた。

米川先生は、信じられないといった表情で広輝を見た。

「とにかく、人形は先生が預かります」

米川先生が言った。

「嫌です」

広輝が反抗した。

米川先生は、呆れてため息を吐いて

「じゃあ、先生が取りに行きます」

と言った。広輝はそれを聞いて諦めて、日本人形を先生に渡すことにした。そして、米川先生は放課後に日本人形を返すと言った。


放課後、米川先生は広輝に日本人形を返すことを忘れていた。学校の職員会議が放課後にあったからだ。会議が終わり、米川先生は職員室に戻って自分の机の上に日本人形があるのを見て思い出した。

「やばい。佐藤君に、人形を返すの忘れてた••••••。でも、まあ明日返せば良いか」

米川先生は、帰りの準備を始めた。しかし、米川先生は嫌な感じがした。

「待ってよ。私、机の引き出しに人形を入れたよな••••••」

米川先生は、恐る恐る日本人形の方に目を向けた。しかし、そこに日本人形は無かった。米川先生は、焦って辺りを見渡した。

「おかしい••••••人形が勝手に動くなんて!」

米川先生は、突然首に力を感じて苦しくなった。それが、何なのかすぐに分かった。日本人形が米川先生の首を絞めているのだ。

「やめて••••••苦しい」

首にどんどん日本人形の指が食い込んでいく。次第に、米川先生は倒れていった。先生は息をしていない。床に倒れている米川先生を日本人形はじっと見つめた。


次の日、広輝は驚いた。朝起きたら、返されなかった日本人形が家にあったからだ。そして、米川先生が行方不明になっていた。広輝は、日本人形を学校に持って行くのをやめた。もう二度と手離したくないから。


それから一ヶ月後のことだ。広輝の家に新たな家族が来た。犬だ。柴犬を家で飼おうと、前から家族で話が出ていた。雌なので、名前をメイと名付けた。メイは穏やかな表情で、広輝や広輝の両親を見つめた。まだ、子犬だけどとても賢くて言うことを守る。広輝は、犬を飼った事が初めてだった。メイは、すごく広輝に懐いてくる。メイを抱いているとペロっと広輝の手を舐めてきたこともあった。広輝は、よく庭でメイと走って遊んだりするようになった。メイは、吠えて広輝を楽しそうに追いかけていた。広輝は、家に友達を何人か呼んでメイを見せて自慢した。広輝はすでに、日本人形のことをすっかり忘れていた。


ある夜、広輝は寝ていたが何かの音で目が覚めた。部屋の外から、音がする。広輝は、部屋のドアに寄りかかって耳を澄ました。メイの鳴き声だ。だけど、聞いたことのない苦しそうな声で鳴いている。広輝は、ドアを開けてメイの鳴き声がする一階に降りて行った。

「メイ!大丈夫!?」

広輝は階段を降りながら、メイに声をかけた。下の階が見えた時、一瞬メイの体が引きずられて行くのが見えた。広輝は足を止めた。メイが大変なことになっていると感じたからだ。広輝は全身で恐怖を感じた。恐る恐る階段を降り終えると、足音を消しながらメイを探した。風の音が聞こえた。見てみると窓が開いていた。広輝は窓から頭を少しだけ出して、外を見た。庭の真ん中辺りに、メイが倒れている。そしてその横で小さい何かが庭の土を掘っている。広輝はそれが日本人形であることに気づいた。日本人形は、メイの体を引きずり穴に落とした。メイは死んでしまっていると広輝は分かってしまった。恐怖が全身を駆け巡る。日本人形が広輝を見ていた。そして、広輝の方へ近づいてきて途中で止まった。広輝と日本人形はずっと見つめ合った。

「ずっと一緒だよ」

日本人形がそう言った。

                   終









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怪談 日本人形 奇奇 @Otarun

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