第53話 黒い名簿

 ―静岡県・沼津市、午前9時27分。


 沼津港からほど近いビル街の一角。

 薄曇りの空の下、鈍い風が吹き抜ける中、ある中堅派遣会社東静人材フォースのオフィスに、出勤していた社員たちの笑い声がわずかに響いていた。


「おい、聞いたか? あの新しい案件、三島の物流センターだってよ。夜勤手当が破格らしいぜ」


 そのときだった。


> 〈警告:区域内に高温反応――〉



 一瞬、天井の蛍光灯が明滅した。


 次の瞬間、爆音がビルの腹を破った。


 炎と黒煙が弾けるように吹き上がり、窓ガラスが粉々に砕け飛ぶ。

 地上階のロビーが爆心地だった。派遣社員たちが集まっていた受付カウンターが、赤い火柱に呑まれて消えた。


 外では、通行人が叫び声を上げながら逃げ惑っていた。


---


―現場近くのカフェにて。


 一人の男が、爆発音に顔を上げた。

 白いシャツの下に、防爆ベストが見え隠れしている。


 名は佐倉悠。元派遣社員。

 半年前まで、この《東静人材フォース》で働いていた。


> 「来たか……やっぱり“黒い名簿”は本物だったんだな」


 彼の手元には、数日前に匿名で届いた一通のUSB。

 中には、特定の“派遣スタッフ”だけが過酷な労働と扱いを受けていたことを示す、違法内部資料の山――そして、『清掃済:処理対象』と書かれた削除リストがあった。


 その中に、自分の名前も含まれていた。


---


―爆破テロの背後にいたのは?


・事件は「無差別テロ」として処理されようとしていたが、佐倉は**「誰かが“労働者の怒り”を利用している」と睨む。

・黒幕は、元厚労省の役人で、現在は警備会社を隠れ蓑に人材市場を操っている鷲巣卓哉わしずたくや**。


・佐倉は、仲間の元派遣社員たち――

 情報屋・シノダ(元SE)

 爆薬の知識を持つチカラ(元工場派遣)

 そして戦闘術に長けたユウマ(元警備員)――とともに、次の爆破予告を阻止しようと動き出す。



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