第37話 復讐

 ◆ 第二の戦闘:超越記憶兵・柳生宗矩YAGYŪ-MXΩ


 堂ヶ島・浮島の廃教会――

 崩れかけたゴシックの尖塔の下、鈍く赤く脈動する光が漏れていた。


 ユウトのセンサーが激しく警告を発する。


> 「感情波、異常濃度。……ここだけ、“記憶”が滞留してる」




 佐倉はかすかにうなずき、ギターケースを背負い直す。


「ここが……“最後の舞台”か」


 教会の扉を押し開くと、そこには――


 一本の木刀を携えた、白髪の剣士が立っていた。

 その背後には、宙に浮かぶ数十の“夢の残響”――記憶の断片が渦を巻いている。


 柳生宗矩、かつて徳川の剣を担った男の記憶は、いま【夢を斬る者】として最終戦術兵へと昇華していた。


> 「お前に“夢”はあるか? それを貫けるだけの刃を持っているか?」




 次の瞬間、柳生の気配が消える。


> シュンッ――!




「くっ!」

 佐倉の背後に回り込んだ柳生の一閃が、空気を切り裂く。かろうじてギター型の幻律弦で受け止めるも、その衝撃に膝をつく。



---


 ◆ 回想:消された“佐倉の記憶”


 ――「契約終了だ、佐倉くん。もう来なくていい」

 派遣会社の冷たい声。理不尽な切り捨て。机の上には退職届と、使い捨ての名札。


 夢を語ったあの頃の自分。

 音楽をやっていた日々。

 “誰かの心に届く”と信じていたあの旋律。


 すべてが、社会の歯車にすり潰された。

 いや――そう思わされてきたのかもしれない。



---


 ◆ 現実:再起と決意


 「俺は……もう逃げない」


 佐倉の瞳が燃える。

 幻律弦を構え、指を走らせた。


> ♪「眼を閉じて/君を想う」

 (DREAMS COME TRUE『未来予想図Ⅱ』)




 音の波動が空間を震わせ、柳生の軌道を乱す。

 ユウトがサポートプログラムを発動、EMPの嵐が宙に残る夢の残響を吹き飛ばしていく。


> 「“夢”は武器じゃねえ! それを信じて、生きてきたんだ!」




 佐倉は最後のコードを叩きつけるように弾いた。


> ♪「信じる力で未来を変える」――




 音と斬撃がぶつかり合い、柳生宗矩の刀が空に舞った。


> 「夢を……もう一度見たい……。なら、お前が導け……」




 その言葉を最後に、柳生の姿もまた光に溶けていく。



---


 ◆ 終局:脱出への道と“派遣会社への一撃”


 教会の地下から浮かび上がる脱出ポッド。

 システム音が告げる。


> 〈ZONE-309:サバイバル終了〉

〈プレイヤーの記憶統合を開始します〉



 しかし佐倉は、デバイスの通信枠に一つのウィンドウを開いた。


「……派遣元への“お礼”、していかないとな」


 佐倉は頭の中に札幌の景色を思い浮かべた。


 画面の向こう――佐倉を切った派遣会社「WINGWILLスタッフ札幌支部」。


 佐倉は、ピッコロみたいに瞬間移動した。

 

 彼はポケットから、改造EMP手榴弾を取り出し、通信ドローンに装着する。


> 「派遣切りの夢に、祝砲を」


 ユウトが目を細めた。「佐倉、合法的じゃないぞ」


「知ってるよ。……でも、これだけは通させろ」


 ドローンが空へと舞い、数十キロ先の支部へと飛ぶ。

 ――そして、まばゆい閃光が夜空を裂いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る